第2話 詳しい宮廷席次

 

 ノーブルオブリゲーション、なんだそれ? ノブレスオブリージュの英語読み、元はフランス語ね。つまりは何なのさ?

 これは、貴族ってのはね、一般人の模範となるべく振舞う必要があるんだよ。王族になれば更にそれよりもしっかりとして生きていくべきだって思想です。権利には義務が付いてくるってやつね。

 

 具体的にはですよ、古くは道を作る為にお金や労働者を都合するのは貴族の義務。で、出来上がったら道に自分の名前つけちゃえw みたいなことです。

 軍事の趣味なのでこれもですが。戦争で真っ先に敵に突撃するのは指揮官である者の義務だ。いくら敵に迫られようと、涼しい顔で隠れたりしない。そういう精神ですよ。

 財産を貧民に分け与えてみたり、無料奉仕活動をしてみたり、そういうのを貴族は行うべきだよって話。


 お金を出して慈善事業を行う、パトロン。良い言葉じゃありませんか、女を囲うのに使ってるパトロンってイメージとはかけ離れたスタートだったんですよ。

 これ、義務とは言うけどなんの強制力もありません。貴族は自発的にそうすべきだってだけ。しないと市民から批判を受けたり、人格を責められたりしただけです。



 叙爵については、有力者の帰属、現実的な職務からの叙爵、王子王女への叙爵などで増えるのがわかりますね。ではそれをどうやって継承していくのかを説明します。襲爵といいますね、芸人が襲名するとかヤクザが襲名するのと同じです、一門に受け継がれるわけです。


 子供に受け継がれて、息子いなかったら娘……とか思っていたらすぐに断絶ですよ! そういうものではないんですねこれ。叙爵の際にルールがセットでついてきます。


北海道の札幌伯爵に封じる。相続資格は初代伯爵の直系の嫡出の男系男子とする。


 こうなると、初代が死んだときに、長男→次男→三男と下って行きます。もし長男が継承したら次は長男の長男、次男……となりますね。

 初代が死んだとき、長男が既に死んでいたら、長男の長男→長男の次男→次男→三男と優先順位が変わります。

 なお嫡出とは正妻(社会や議会、教会、いってしまえば王が認めた者)の子です。隠し子とかそういうのは除外。


相続資格は初代伯爵の直系の嫡出の両系男子とする。

 これだと初代の娘の息子もOKですね。

 長男の系統が10代進んで子供が居なくなったら、次男の子孫を探して継がせます。


相続資格は初代伯爵の直系の嫡出子とする。

 こちらは女性でも爵位を継承出来ます。数は少ないですが古い家系はこういう表記になっていることがあります。


 なお相続人が居なければ廃絶。居るけど証明出来ないとか、優劣つかないとかで爵位停止や爵位休止の処置がされていることが度々あります。100年後に復活したり、400年停止中だったりね。


 もしどうしても家を断絶させたくない、特例だって時には稀に、極めて稀にですが本家の娘が分家の婿を取って、もし息子が産まれたらその息子に爵位を継がせて良いみたいな裁定もありました。


 さらにさらに極稀に、娘が爵位を継ぐ……ことはないです、はい。それは小説のお話ですね。もしその場合は、一旦廃絶で同じ名前の爵位を改めて叙爵して、第2期の札幌伯爵というカテゴリーになります。


 あとうっかりさんが居て、王様「札幌子爵を呼べ」とか令状出したら、臣下が「ヤベーヨ、札幌は伯爵だよドウスル?」「札幌子爵作っちまおうぜ! 陛下が仰せだからな!」って札幌伯爵が札幌子爵にも叙爵されて、王は間違わないことになったとさ。何件もあるんですそういうのw



 ではそろそろ本題に行きましょう。爵位の解説です。当然ですが最初は公爵ね。


・公爵・Duke・Duchess デューク(男)・ダッチェス(女、妻)

 男性系か女性系で読み方が違いつつ、妻も夫が公爵だとダッチェスと呼称する。わかりやすいか分かりづらいか知りませんが、北海道公爵で田中太郎と田中花子だとして解説。

 まず呼ばれ方ですが、手紙とかでは北海道公爵田中と書かれます。北海道公爵が既に敬称なんですね。

 公式文書では北海道公爵の田中閣下のような感じになります。His Grace Duke of Hokkaido です。

 敬称は夫妻共にYour Grace 閣下ってな意味合いで呼ばれます。決して田中とか呼んではいけませんよw

 そこらで立ち話してるときは、公爵 Duke って呼びかけて良し。でもね、もし二人公爵いたら困るでしょう、そういうときは北海道公爵 Duke of Hokkaidoって呼びかけましょう。


 で、妻が離婚したらどうなるか。実は離縁してもダァウジャーオブダッチェスオブ北海道って貴族のままでいられます。未亡人になってもですね。次結婚するまで元の社会的身分を保証されるのは、貴族のルールですから。再婚したら今度の夫の妻身分に変わります。再婚するまでは元夫の元妻身分で社交界でうろうろされるんですよ、怖いですね。


 The Dowage Ducheesu of Hokkaido


 なお、Your Grace で呼称されるのは公爵だけの特権ですので、それ以下でそんなこと言うとからかってるのかよと思われてしまいます。きっと。よっ、部長、宴会部長w みたいなね。


 宮廷席次では、公爵は王太子より上になります。イギリスなのでありませんが、もし皇帝が居たならば、席次はこうなります。太子は継承権一位で立太子されているものです。立太子されていないのが皇子、王子です。

 皇太子>公爵>王太子>皇子>王子

 同じ公爵でも王族公爵のほうが上になります。



・侯爵・Marquess・Marchioness マークイス(男)・マーショニス(女、妻)

 読み方は結構ありますので英国での目安で、北海道は石狩侯爵田中太郎と田中花子で解説。石狩とは札幌を含む振興局の区分です(笑)


 手紙では石狩侯爵田中ですね。公式文書ではこちら The Most Honarable the Marquess of Ishikari

 呼称はMyload マイロード。軍指揮官とかと一緒。妻は呼称が変わります、Lady Ishikari レディ石狩という風に、爵位名で呼ばれるんですね。Lady田中と呼んだら引っぱたかれます、それは子爵以下の夫人の呼び方なので侮蔑になりかねません。(面倒だよね)


・伯爵・earl・countess アール(男)・コンテス(女、妻)

 なんで男だとアールで女だと違うんだよって質問にお答えします。その昔、軍を率いて戦うのも貴族の務めでした。女が戦場に立つことはないので、貴族は男がなるものでした。だから混在している時以外は、男だけが継承していきます。でも妻とか他所の地域の伯爵はカウントだったので、その女性系で呼ばれています。earlessとかで良かったんじゃないか説は受け入れますよ。

 呼称はLord 札幌。妻もLady 札幌。


・子爵・Viscount・Viscountess ヴァイカウント(男)ヴァイカウンテス(女)

 ここから差が出てきます。Load田中。Lady田中。このように姓で呼称されてしまうことになります。


・男爵・Baron・Baroness バロン(男)バロネス(女)

 呼び方は子爵と一緒でLoad田中。Lady田中。


 手紙などではThe Honarable the 爵位 of 地名で文体は一緒。


 敬称では公爵と侯爵の間に、呼称では侯爵伯爵と子爵男爵の間に差があります。子爵と男爵が下級貴族と呼ばれる所以でもありそうですね。もちろん伯爵以上は上級貴族。

 これがドイツあたりだと伯爵もわかれていて、上級貴族に数えるのは辺境伯、宮廷伯、城伯とかで、ノーマル伯爵は下級に含まれるとかね。あ、辺境伯は超伯爵で裁判権、軍権、外交権、徴税権、執政権とかなんか色々持ってて後に侯爵ってなる奴で、辺境のしょぼい伯爵って思ってたら残念無双ですよ。


 で、イギリスでの宮廷席次。


公爵>王太子>公爵継承権一位(王族公爵)>王子>侯爵>公爵継承権一位>伯爵>侯爵の継承権一位>公爵の子>子爵>伯爵の継承権一位>侯爵の子>男爵>子爵の継承権一位>伯爵の子>男爵の継承権一位>子爵の子>男爵の子


 権限や発言力とは別で、格式的にはこうなっていますってだけ。王の御前に並んでるイメージで、この順番左右に分かれてたってるアレですね。ちなみに各種の大臣や大司教は公爵より上です。時代によりけりなんですが、高級官僚は侯爵と同程度。

 現代ではピンとこないかもですが、各国大使らは大臣より上ですよ。今は大使ってなんだよって思えるけど、昔は高位も高位、すんごい人だったんですよ。



 爵位とは称号で、元は軍の指揮官らが与えられたもの。とかいうのが起源だとすると、地方司令官、地域の統括官、軍団指揮官が公爵、ラテン語のDuxが充てられたそうな。これ地域の部族長にも当てはめられたので、氏族長を公爵と呼称するのにも利用された。

 

 一方で伯爵はJarlがアールの元。部下を指揮官に指名するのに使った称号。Countが伯爵、同じく領地の掌握をさせてCountyという領地を示す言葉と紐づけされる。


 Baronyは荘園とか小領主でBaronが男爵。領主一般で貴族になるのはややおくれてという感覚。


 では特権とは何かについてですが、最初は違ったのに即座に世襲するのが特権になっています。家族で称号を引き継ぐ、それに付随する権利財産を持ち越せる、官職が充てられていたらそれすら継承するなどが発生しました。

 大きな権利として王と謁見できる権利がありますね、これこそ声を届けることが出来る大きな力です。良し悪しな時もあったでしょうが、拝謁可能というのはステータスです。


 時は下って更に個別の特権が出てきます。剣を履いたまま王に近づける、これなどは信頼を得ているということで絆の面で随分と扱いが違ったでしょう。

 王に礼をせずとも許される。平時や戦時でも違いはあるでしょうけれども、いちいち自己紹介から入らずに会話をして良いとかの意味合いです。王が部屋に入って来ても、起立してお迎えする必要ないとかも。

 中国では小走りで移動しなくていい、同じ馬車を利用出来る、拝礼不要……まあそういう待遇面での特権が多かったですね。


 土地と紐づけされている爵位の特権一位は統治権でしょう。徴税できるとかの。名ばかりの貴族もありますが、基本は土地支配とセットです。それを認められないと、国家から敵対者とされて排除目標にされてしまうので、相互の保護や協力が現実的な特権だったかも知れませんね。



 爵位は類似でも、貴族には種類がありました。厳密なものではないでしょうけどね、一応ゆる派閥とでもとらえて下さい。


 基本は領地を持った各種の貴族です、ここに別種のものが刺さり込んできます。わかりやすいのは宗教貴族。


 聖職者が聖職貴族として、世俗的な一般人の貴族と別に存在する。日本ではピンとこない人も多いかもしれませんが、普通は宗教の派閥で国は大きく方向が変わってきます。なので、その国の宗教、国教の統括者や、教区の長らに貴族としての待遇が認められる。

 名前で分かりやすいのは大司教や大主教、司教、主教などなど。呼び方は宗教によりケリですが、イギリスでは主教ですね。カタンベリー大主教やヨーク大主教は宮廷席次が大使などよりも更に高位です。


 他にも法衣貴族というのがあります。こちらは大学で勉強して知識で以て王を助ける、ローブの貴族。大学出るとローブを与えられるので、学位を示す外見特徴に由来するものです。これらはフランスのお話ですが、土地無いのに何が貴族だよってことで、聖職貴族も法衣貴族も、世俗の一般貴族からしたら下に見られていました。


 そもそも貴族が発言力を有するのは、自身の領地内と王の御前会議とでもいえる議会での議席があるからです。爵位があれば必ず議席がある、これが中世イギリスのルールでした。ここで国家の行く末を決めると考えれば、かなりのことなんですよ貴族であるというのは。



 先の話で触れた議会について掘り下げましょう。爵位があれば必ず議席を有する。最近なるまではこれはずっとお定まりでした、男爵だって議席はある。発言可能なら国を動かせる。


 議会は国王の命令で、議員を召集します。貴族院が貴族が所属する議会でした。イギリスでは爵位は家長が全て持っているので、家長が欠席ならば発言は不能。年老いて外出が厳しい、怪我をした、病気だなどなどで欠席が目立ちます。


 そこで有能なメンバー不足で悩んでいたところ、とある奇策が飛び出しました。嫡男が継承するんだから、親父の爵位の中で余ってるのを生前継承して、爵位持たせた息子呼ぼうぜ! ってw

 繰上勅書と呼ばれる手法は、稀なことでしたので数年に一人程度の成立しか見ませんでした。とはいえ有効だったようで、これで議会の若返りが出来たそうな。

 

 が、ここで召集令状出したときに、うっかり爵位名を間違えることがちらほら。王は間違えない、ということで誤った名称の爵位が設置されて授与される事件が何度も起こる。土地とセットが基本だから、実務で困ったこともあるそうな。


 親父の余った爵位、ここがポイントです。男爵が余るのは子爵以上なので、この手法は男爵家では使えませんでした。また誰が継承者か決まっている場合のみ利用されるので、子供がいなかったり、男子不在で女子に優劣無しの継承を指定している家では対象になれなかったようです。


 余った爵位の使い道がもう一つあります、それが儀礼称号。それは次の話で説明しましょう。



 儀礼称号のコーナーです。これは結構頻繁に使うので覚えておきたい。


 そもそも何か。これは家長の継承者が、この家の継承者ですよと示す為に爵位の一つを仮に名乗ることを示しています。なので一家で一人しかこの制度というか手法を利用出来ません。これ通常は伯爵以上のお話です、子爵でもありえるといえばそうなのですが。


 具体的な例を示しましょう!


 北海道公爵田中太郎には息子が居ました。田中一郎です。Duke of Hokkaidoは田中太郎で、従属爵位として石狩侯爵、札幌伯爵、白石子爵に北環状通男爵及び、東5条卿、東3条卿を有していたとしますw

 すると二番目に高貴な爵位である石狩侯爵を名乗ることで、一郎が次期北海道公爵であることを示すことになります。本来はLord Hokkaidoなのですが、特例としてMarquess Ishikariを名乗れます。

 ここで注意があります、日本語では石狩侯爵なので何も変化はありませんが、英語だと継承者かどうかを見分けられる部分が発生します。

 先に示した通り、侯爵はThe Most Honarable the Marquess of Ishikariなのですが儀礼称号ではThe Most Honarable Marquess of Ishikariとなり theが省かれます。これで継承者か本来の有爵者かがわかります。(知るか!w)


 このように儀礼称号を名乗っている人物は法定推定相続人とも言われ、将来確実に世襲しますよって目印になっています。一郎の長男に、一太が居れば、更に札幌伯爵を儀礼称号として利用することもあるでしょう。石狩侯爵は北海道公爵の相続人、札幌伯爵は石狩侯爵の相続人なので、いずれ札幌伯爵が北海道公爵になるんだなってわかりますね。


 

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