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 事情を一通り説明されたおさむは眉をよせて唸る。


「男子視点でなあ……結構難しいな」


「難しいですか……」


「とりあえず俺の感想なんだけど、彼相手には今はまだ恋愛モード押せ押せで行かないほうがいいんじゃないか?」


「ええ……?」


 不服そうな凪志美なじみだが、おさむは順を追って理由を説明する。


「彼は凪志美なじみの告白に対して嫌だとか無理とか拒絶してるわけじゃなくて、『別に彼女欲しいわけでもないしな』くらいのテンションなんだろ?」


「はい、まあ」


「気が向いてないときに無理強いされても普通はイヤな気分にしかならないと思うんだよな。だから凪志美なじみがすべきなのは、まず彼が居心地よく感じるなかで一番近い距離を探すことだと思うんだ」


「居心地よく、ですか」


「ライバルはお義姉さんってくらいだし彼と同居してるんだろ? 今って凪志美なじみが外で圧かけてて、お義姉さんのいる家のなかのほうが安らげる場所になってるんじゃないか?」


 凪志美なじみはしばし過去を回想して苦々しく呻く。


「ぐうう、言われてみると、そうかも……」


「でもまあ、それだけアプローチしても強く拒絶されたり距離を置かれたりしてないんなら、逆に脈があるんじゃないかと思うけどな。普通ならさすがに気まずいだろ、この状況」


「ほんとですか!?」


 ぱあっと顔を輝かせて身を乗り出した凪志美なじみの鼻先を手のひらでそっと制するおさむ


「まあ現場も相手も見てないから絶対とは言えないけどな。そんなに悲観することもないと思うぜ」


「な、なるほど……ありがとうございました」


 凪志美なじみは食い付き過ぎた態度にちょっと恥ずかしくなって顔を赤くしながら腰を下ろすとクリームソーダのストローに口を付け、それからふと思いついたように続けた。


「ちなみに二三ふみとはどっちから?」


「んーまあ、二三ふみからかな。俺も気にはしてたけど」


 うげっ、と顔を青くした二三ふみとは対照的におさむはにやあっと笑う。


「いやあでもあの頃の二三ふみはマジで凄かったんだよなあ。聞きたい?」


「え、付き合う前どんな感じだったんですか? 聞きたいです!!」


「あーそれ私も興味あるわ」


 あわあわとしているあいだに凪志美なじみ秀子ひでこが勢いよく食い付いてきて、勢い二三ふみの自制が閾値しきいちを越えた。


「昔の話はぜっっっったいにやめてちょうだいっ!!」


 悲鳴のように叫んだ二三ふみの声は店内に余すところなく響き渡り、その一瞬全ての視線がこのテーブルへと集まる。

 静まり返った店内を半笑いで見渡したおさむが向かいのふたりへ視線を向けた。


「本人もこう言ってることだし、俺から言い出しといて悪いけどやっぱりやめとくよ。本題も片付いたと思っていいなら……今日はこの辺でお開きにしないか?」


「そ、そうね」


「私も賛成かなー」


 拗ねたようにテーブルから視線を逸らしていた二三ふみも小さく頷いたので、今日はこれで解散という運びになったのだった。

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