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「というわけで」


 週末、学校から数駅と徒歩で十分以上離れたカフェチェーン、フタバで四人がテーブルを囲んでいた。学校近くや駅傍で他の生徒の目につくのを避けたいという二三ふみの希望を汲んでの店舗選択だ。


「彼氏のおさむよ」


「よろしくな」


 二三ふみに苦味虫を噛み潰したような顔で紹介された男子は軽く片手をあげて向かいのふたりに挨拶した。

 秀子ひでこ凪志美なじみは呆然とした表情でおさむを見つめている。


「……な、なんだ? どうかしたか?」


 少し心配そうにした彼に対して凪志美なじみがため息のように呟く。


「爽やかイケメンじゃん」


 同様に秀子ひでこが続く。


「痩せマッチョの爽やかイケメンじゃん」


「それ」


「ねえ?」


 頷きあっているふたりをみて二三ふみが露骨に怪訝な顔をした。


「ちょっとなによふたりとも」


「絶対ガリ勉系がくると思ってたのに」


「私は小動物系後輩かもって思ってた」


「それなのに痩せマッチョ爽やかイケメンがくるなんて信じられる?」


「ねえホントに付き合ってるの? それってちゃんと男女交際的なやつ?」


 ふたりが口々に懐疑的なことを言い始め二三ふみの額に青筋が浮かぶ。


「アンタたちねえ!」


「まあまあ」


 声を上げかけた彼女を制したのはおさむだ。


「だって……」


 彼は軽く背を丸めると、収まりがつかない二三ふみの口をそっとふさぐかのように、けれどもさっと触れる程度にくちびるを重ねて離し、改めて凪志美なじみ秀子ひでこへ笑みを向けた。


「とりあえず証明書替わりってことで、こんなもんでいいか?」


「あ、はい」


「ゴチソウサマデス」


 ふたりは毒気を抜かれた表情で答えながら二三ふみへ視線を向けた。誰が見てもわかるほど顔を真っ赤にして震えていた彼女は、おもむろにおさむの耳をつまんで加減なしに捩じり上げる。


「ひと前ではそういうことしないでっていつも言ってるでしょ!」


「痛い、ちょ、痛いって。そうは言っても今のは絶対そういう流れだったろ?」


「そ、それはそうだけど……」


 彼女の声はしおしおとしぼんでいき、最後には「は、恥ずかしいじゃない」と絞り出すように口にして俯いてしまった。


「乙女か」


「いやあ、二三ふみちゃんにこんな一面があるとはね」


「まあとりあえず自己紹介はこんなところで、なんか聞きたいことがあるんだっけ?」


 ホットコーヒーのカップ片手におさむが首を傾げる。犬みたいだなと思いながら凪志美なじみは頷いた。


「あ、はい。ちょっとその、男子の意見が聞きたいっていうか」


 隣に住む幼馴染と付き合いたいと思っているが、相手はなんとなく義姉に気持ちが行っていてこちらを振り向いてくれないといった現状をかいつまんで話す。


「なんかこう、男子的にキュンとくるようなイベントはないかなといいますか」

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