第31話 手段

「君の名前は?」

「アベリーラ」


 メイド服を着せられ、立たされているアベリーの目は澱みきり、生が感じられない。

 夕陽に照らされた彼女の背後には漆黒の影が伸びている。


「ユニークスキルの名前、効果は?」

「スキル名“絶対理解者アブソリュート・アクセプト”。生物ならば瀕死の相手に攻撃を加えることによって、相手の情報を強制的に得ることが可能。無機物は触れる時間が長いほど、理解度が高くなり、最終的には過去に使っていた使い手の動きを再現するまでに至る」

「はっはっ、反則だな」


 とてもそうとは思っていない、感情と表情がチグハグな彼であるが、なにかに気づいたのか視線を忙しなく動かし始める。

 やがて、その視線は一点に集中し、ピタリとも動かなくなる。


「おや、久しぶりですね」

「敬語はやめろ、俺とお前は対等だからな。強欲よ」

「了解だ。怠惰よ。本当は使いたくない」

「殴るぞ」

「君は怠惰に任じられたんだろう?なら怠惰にしていなよ」


 影から出てきたのは、金髪の少年のような見た目の男である。

 目隠しをして、髪は後ろで三つ編みしているのが特徴的だ。

 そんな彼が隣で虚ろな目で直立している人間に気づき、呆れた様子で強欲に指摘する。


「…相変わらず趣味が悪い。こんな人間の女をにして何が楽しい?」

「君にはわかるまい。彼女はユニークスキルの持ち主で、これはもう強くて強くて」

「それで、人形にされちまったと。なんとまぁ可哀想な人生だ。それより、ユニークスキルだと?」

「あぁ。今から彼女の過去を探り、ユニークスキルをどうやって手に入れたかを確認する。君も聞くかい?」

「あぁ、気になる」


 そういうと、怠惰は一歩下がって直立のアベリーを観察する体勢になる。

 一方、強欲は豪華な椅子から立ち上がり、頭に手を添えると力を集中させていく。


「さぁ、どうやってユニークスキルを手に入れた?」

「そ、そそそれ、は、それ、」


「「!?」」


 強欲と怠惰は悠久の時を、友として過ごしてきて、互いのスキルを熟知しているからこそ、アベリーの今回の反応に驚きを隠せない。


「…制限がかかってる?否、この先の記憶が無いだと…?」

「どういうことだ」

「この人間、半年前の記憶が一切ない。知っていると思うが、私のスキルは記憶喪失すら超越し、読み取れるのだが…」


 まるで、半年前にこの世に生まれてきたかのように記憶が無い。

 なんなんだ、この女は…。


「…ふっ、たまたま寄ったが強欲が元気そうで良かった。それとその気色悪い笑顔はやめろって何回も言ったよな」


 そういうと、怠惰は部屋の角に走り出し、ジャンプしたと思うと影に吸い込まれるように消えていった。


「あぁ、分かっている。だが、抑えられるわけないじゃないか」


 目の前の未知に直面し、彼の強欲は強さを増していた。

 その歪に歪んだ笑顔が証拠となるだろう。


 ―――


「…ここだ」

「ッ……」


 夜の気配が近づく、森深くで最後の暗殺者の心臓を強奪し静かな戦いに決着が着く。

 合計三匹の影潜悪鬼アサルトゴブリンの討伐が完了した。


「暗殺者、そのものだな。仲間が死んだとてその手を止めずただ目の前の対象を殺すことに頭の回転を費やす。死ぬ間際でさえ、声を上げずに己を全うする」


 アサルトゴブリンの元はあの弱いゴブリンだ。

 何がゴブリンに作用したらあの様になってしまうのだろうか?


 スキル?環境?力?

 だとしたら。


「…人間と似てるな」


 さて、帰り際まで魂を回収しつつ村に戻ろう。


 ―――


「ゆうき、もう帰ってきたの?アダミスが認めているとはいえ、流石にあなたにもアサルトゴブリンをこの速さで討伐するのは無理だったようね」


 と、何故かうんうんと頷いて一人で喋るナタヤを無視して討伐証明部位である耳を提出する。


「あ〜、これってもしかして」

「そう、その通り。ところで時間は?」

「…本当にアサルトゴブリンなのね。えぇ、とりあえずこれで仕事をあがるから、外で待っていて」


 報酬一金貨を受け取り、外でナタヤを待つことにする。

 数分待つとナタヤが私服になって裏口から出てきた。


「この村は小さいから、まぁ私の家に行くのがいいと思うよ。人に聞かれたくないなら尚更室内の方がいいよね」


 ということなので、ナタヤの家に行くことになった。

 この村は昼も木々に囲まれて薄暗かったが、夜になるといっそう不気味な雰囲気が漂う。

 しかし、一般人だと驚異になるであろうアサルトゴブリンまで生息する森なのに、こんなところに村を作って安心出来るのだろうか。

 と、考え事をしているとナタヤの家に着いたので、上がらせてもらう。

 先程行ったエルの家と同じような作りで、綺麗な内装だ。


「ジロジロ見ないでよ。さぁ、座って。何が聞きたいの?」


 先に座っていたナタヤが机をとんとんと指で叩いて呼んでいるので、椅子に座り用意されたお茶を一口。


「ここら辺と死の沼地に関して詳しい情報を知りたい。ギルド職員ならある程度は詳しいはずだろう?」

「まぁ、一般人よりかは詳しいだろうけど、いち辺境のギルド職員の情報なんて大したことはないよ。とりあえず、ここ周辺からね」


 ナタヤが一人で喋っていき、俺はそれを聞きながら頭を巡らせていく。


 ここの村は死の沼地から一番近くにあるポッグニアという名前の村だそうだ。

 昔ここを拠点としていた魔法使いが強力な結界を展開したことで、この村は魔物の巣窟である森の間隣にあっても安全なのだとか。

 そんな村だから、冒険者は素材や報酬を得るためにこの村に集まるようになっており、死の沼地へ行く冒険者はこの村を経由して行くのという。

 そして死の沼地は毒耐性を上げる魔法やその類のスキル、ポーションがあれば探索することが可能であるが、死の沼地は魔物以外は特に存在しておらず、その魔物もポーションの素材になるとはいえわざわざ取りに行く変わり者はいないので、ナタヤは把握している限りではしばらく人は行ってないようだ。


「なるほど、情報ありがとう。ちなみに聞くが、この村が死の沼地から一番近いんだよな?」

「えぇ。地図を見る限りはそうだね。ていうか、死の沼地に行こうとしているの?」

「まぁな」

「…行っても何もないけどね。行くなら帰ってきてよね、死なれたら寝覚めが悪いし」


 俺は返事をして、ナタヤの家から出て行った。

 提案された中で俺ができそうなのは、魔法による毒耐性の上昇かポーションの作成だ。

 どちらかを早急に行いたいが、今はゆっくり寝て明日に備えよう。




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