第30話 知識不足

 女の子に連れられて来たのはギルドから少し離れたボロ屋だった。

 建築から相当時が経っているのか、今にも崩れそうだが、室内はかなり綺麗に清掃されていて魔法でも使ったかのようなギャップにびっくりする。


「お茶、飲む?」

「え?あぁ、ならお言葉に甘えて」


 椅子に座りお茶を待つ。

 女の子はショートカットの茶色の髪色をした優しそうな雰囲気が感じられる子だ。

 服装は冒険者同様、激しめな動きが出来て魔物との戦いに適した地味目な服を着ている。

 この部屋に入る時に杖と盾を置いたので、俺みたいに一人で依頼をこなしているタイプだと予想する。


「私はエル。君は?」

「ゆうきだ」


 コトンと置かれたお茶を早速頂いてみるが、かなり美味しい。

 入れ方が上手いのだろうか、それとも材料が高級なのだろうか?

 まぁ、そんなことはどうでもいいか。


「どうしてこの家に連れてきたんだ?」


 この世界のことを分かったつもりでいたが、どうも分からないことが多くて困る。

 さっきの笑われた原因もさっぱりだ。


影潜悪鬼アサルトゴブリンを討伐するなんて言うからよ」


 そう言うエルは少し悲しそうな顔をする。

 ふむ、アサルトゴブリンを討伐したらなんでダメなんだ。


「って言う顔をしてるわね。当然よ、アサルトゴブリンはC階級に属する魔物の中でもかなり強い部類に入る魔物。それを貴方みたいな子供が狩ろうだなんて言い出したら笑われるわ」

「よく分かったな…!まぁ、確かに実力と見た目が反してるのは何となく理解できる。ゴリラに裁縫バリバリ出来ますって言われても信じれないしな」

「ゴリラ…?」

「え、あぁ。筋肉質な追跡者マッシブハンターみたいなやつね」


 だが、実力的にもルール的にも俺はアサルトゴブリンに挑む資格はある。

 ギルドのルールとして自分の階級より上の階級には挑めないようになっている。

 正確には挑んでもいいけど、命の保証はないよって言うことなのだが、上の階級を受けて死ぬ冒険者が多いそうなのでルールとして近年追加したのだそうだ。


「ふーん。まぁ、ギルドのルール的にも上の階級は挑まない事ね。貴方、階級は?」

「Cだけど」

「あのね…、見栄を張っても何を得る訳でもないんだから、正直に言いなさい。私がその階級でのおすすめの依頼を選んであげるから」

「だから、Cだって」


 いきなりバンッ!と机を叩いて席を思いっきり立つエル。

 顔は呆れ三の怒り七のような、なんとも表現しにくい顔をしている。


「何回言ったらわかるの!いい加減にして。そうやって私の仲間も…」

「仲間もなんだ?」

「…貴方に言う話ではなかったわ。出ていってちょうだい」


 怒らせてしまったようだ。

 だが、魔物が強ければ強いほど付与した時の力の還元率や再生率は段違いに変わってくる。

 やはり、強い魔物を狩らない手はない。


「じゃ、お茶ありがとう」

「…えぇ」


 俺はそのボロ屋から出て、さっき引っ張られた道を再び歩いてギルドに戻る。

 さて、アサルトゴブリン狩りでもしますかな。


 ―――


「めんどくさいからこっそり渡してくれ」

「え、あ…はい」


 ギルドの受付に再び行って、アサルトゴブリンの討伐依頼を受ける。


「あの、君ってゆうき君かな?」

「そうだけど?」

「やっぱり!アダミスから聞いたわよ、強いんだってね」


 ほう?いつの間にアダミスはそんなことをこんな辺境の地に伝えたのだろうか。

 やはり、魔法の中に魔法通信的な電話みたいなものがあるのだろうか。


「まぁ、人並みには…」

「担当受付は私に決まりね。私はナタヤよ、よろしく」


 この人結構強引だなぁ…。

 まぁ、俺が依頼を受けやすい環境を作ってくれるからいいか。


「そうだ、今日夜空いているか?」

「え?なに、ナンパ?ちょっと君は若すぎるかなぁ」

「ちげーよ。この辺りのことを聞きたいだけだ。あまり人には話せない内容もある」

「そっ。まぁいいわ、空いてるし、お姉さんが付き合ってあげましょう」

「とりあえず依頼をこなした後にまた来るから、その時に待ち合わせ場所は伝える」


 俺はそう言うと、話しながら準備してもらっていたアサルトゴブリンの依頼書を受け取り、ギルドから飛び出していくのだった。


「あ、え、ちょっと。アサルトゴブリン三体の討伐なんて半日で終わるはずないのに…」


 その言葉は俺には聞こえていなかった。

 さて、今夜はナタヤに話を聞くとして、俺は出来ることをやっていこう。

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