第28話 この世界の勝者

 あの日から私は暫く部屋を出ていない。

 たまにモフカちゃんを連れたアルスちゃんが訪問してくるけど、それも無言で居留守を使っている。

 なんだか、ゆうきの顔が見れなくなってしまって部屋から出れなくなってしまった。

 彼はスキル抵抗も無いし、私がスキルを使ったことは分からないはずだけど、普段の顔をして彼を見れない。


「あ〜、いつも通り接していればいいのよ。久しぶりに外に出てゆうきに会いに行こう」


 私はそう決心して、部屋を出ようとするがドアはビクともせずに動かない。

 まるで向こう側に何か重い何かを置かれているようで、向こうに重量を感じる。


「失礼、女性の部屋に無言で入ることは私の信条に背くもので」


 耳にスっと入って来る綺麗な声は、頭にこびりついて離れなくなる。


「何かがおかしい…。これは…?」

「おや?貴女もか。無意識下でスキル抵抗が働いていて、これはなかなか操れない」


 同族…だと?

 つまりこいつも“ユニークスキル”を持っているこの世界の勝者の一人…!


記憶召喚:槍サモンメモリーズ・スピア


絶対理解者アブソリュート・アクセプト”の能力は無機物までにもおよび、その物を完璧に理解するとその場に召喚する事が出来る。

 ユニークスキルにはユニークスキルでしか対抗は出来ない。


 スパッ。


「おや、頭が回るようだ。流石はこの世界の勝者の一人、同族だな」


 私は召喚した槍を額に当てて一閃し、得体の知れないユニークスキルを解除する。


「だが、髪も一緒に切れてしまったな」

「はっ、ちょうど前髪がウザイと思ってたからいいの!」


 先手必勝、槍を横に薙ぎ払いそのまま男の体を切断する。

 だが、男は槍の間合いを完璧に読んでいたのか、紙一重で避ける。

 その表情は揺るがなく、私に対する絶対的な余裕が伺える。


 そのまま薙ぎ払った槍を引っ込めて、突きをお見舞するがその悉くが避けられていく。


「なかなかの体術。だが、体術か」

「…!」

「ほう?」


 しまった、顔に出てしまった。

 相手もまさかそうだとは思っていなかったのか、驚いたような顔を一瞬だけ見せた。


 そう、“絶対理解者アブソリュート・アクセプト”は攻撃的なユニークスキルでは無い。

 私が体術で戦っているということは、スキルが攻撃的なユニークスキルでは無いということを証明してしまっているのも同義。


記憶解放オーバーメモリーズ:五十%」


 記憶解放、それはその武器の記憶を解放し、この武器が使われていた持ち主の動きを完璧に再現するものだ。


「閃光戦弧」


 光にも届きうる記憶の中にある槍術の中で最も速い神速の薙ぎ払い攻撃を持って、全力でこの男を潰す。

 この男からは不気味は雰囲気しか読み取れず、何をされるか分からない。


「何をされるか分からない。違うな、もうされているのだよ」

「え?」


 視界が赤、青、黄色…と色んな色に次々と変化していき、頭の中がボーっとして思考が纏まらなくなる。


「洗脳完了だ」


 洗脳…!

 こいつのユニークスキルは相手を洗脳する能力か…。

 気付くのが遅かった、まず逃げることを最優先に考えるべきだった。


 ゆうきに助けを求めるべきだった。

 私はやっぱり弱かったよ。


「あっ、あぁ…」

「おや、流石ユニークスキル保持者。スキル抵抗力がとてつもない。だが、もうこれでお前は俺のものだ」


 視界が黒くシャットアウトしていくのが理解出来た。

 これが洗脳…、ゆうき助けて…!


 やがて私の意識は暗闇に放り投げだされたのだった。


 ―――


「なんでアベリーの部屋の前にこんな物が置かれてるんだ?」


 金属の塊みたいなものがドアの前に置かれていて、アベリーが出れないようになっていた。


「仕方ない…、狩ってきた魔物の魂を少し付与するか」


 ゴブリンジェネラル戦で今まで狩ってきた全ての魂は付与してしまったので、俺はこの数日間せっせと依頼をこなしながら付与用の魂を乱獲していた。

 因みに付与された魂は役目を果たすと輪廻の輪に還元されるらしいので、じゃんじゃん付与してもいいらしい。

 ルメは気まぐれだけど、俺が知りたいと思った時には既に隣で宙に浮いていて情報を授けてくれるので助かる。

 そんなことを聞いたのでタガが外れたように俺は魂を乱獲したのだった。


“付与”


 そのまま俺は金属の塊を動かして、ルメの部屋に入った。


「…!」

「おや、貴方は…ッ!危ない危ない」


 アベリーを抱えた謎の男がいたので、反射的に付与をして拳を繰り出す。

 だが、男はあの速さの拳をしっかりと避けている。

 アベリーを抱えてあの速度の拳を涼しい顔をして避けるなど、それだけで常人ではないことは明らかだ。


「アベリーをどうするつもりだ。流石にこの部屋の荒れ方を見ればお前らが仲良しじゃないことは分かる」

「なので、たった今彼女と仲良くなった」


 謎の男に抱えられたアベリーはいつもの雰囲気は感じられず、目は虚ろで一点を見つめて動かない。

 この男がアベリーに何かをしたのは明白だ。


「何をした」

「流石はユニークスキル。いや、直に触れた感じユニークスキルの中でも上位に位置する程の力を感じる。流石だ」


「何をしたかと聞いているッ!」


 俺の怒りに呼応してか、体に集めていた魂が徐々に付与されていくのを感じる。

 無意識下で俺は魂の付与をしているようだ。


「…洗脳をした。解きたくば死の沼地まで来い」


 男はいきなりそう言うと、マントで体を隠しまるでマジックのようにその場から消えていく。


「逃がすかよ」


“心臓強奪”


 そう唱えたが、俺の腕にはなにも無く強奪はミスったようだ。


「クソ、死の沼地か。すぐに行くから待ってろ、アベリー」

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