第27話 動き出す者。
「デカい扉だねー」
「デカすぎんだろ…」
この洞窟の入口くらいの大きさの両開きの扉が目の前に姿を表した。
豪華な装飾や派手な色は使われておらず、ただ黒色の巨大な板とノブがあるだけのシンプルな作りをした金属製の扉だ。
アベリーがその扉に近づき、奥に押そうとするがビクともしない。
「このっ。ゆうき、やっておしまい」
扉を蹴りあげて偉そうにしているアベリーを無視して、自分に強奪で奪ってきた魂を付与する。
魂付与は体の再生だけではなく、身体機能の上昇や筋肉量の上昇が見込める。
「おいしょ…!流石に重いな」
何とか一メートルほど隙間が出来たので、そこから中に侵入していく。
扉からの微光はあるが、先が全く見えないほどに真っ暗で異様な雰囲気を感じる。
感じるのは生臭い匂いだけで、匂い以外に得られる情報はない。
付与の再生もあるし、強奪もある。
過信は禁物だが、戦い方を学んだ今なら無謀を選んでも生き残れる力があると信じている。
「アベリーはそこで待ってろ」
「え、君の方が弱いのに…」
「いいから待ってろ、危険だから俺が先に見てくる」
一歩、また一歩と歩みを進めていく。
念には念を入れて、付与で身体機能の強化を施して生半可な攻撃では即死出来ない頑丈な体にする。
「ようゴソ、侵入シャよ」
「…!」
暗闇の奥から聞こえたのは酷く掠れたダミ声であった。
魔法かその類か、辺りは次第に明るく見えるようになっていき、声のした方に視線を向けると緑の大きな怪物がいた。
「ゴブリン…か?」
「我ハ“ゴブリンジェネラル”。我ガ求めルのはたダ一つ、戦イだッ!!」
どこに携えていたか、突然振り下ろされた金棒が俺の頬を掠り出血する。
俺の強化された動体視力と反射神経を持ってしても、あの巨大な金棒をギリギリのところで躱すのが限界であった。
「今ノを避けルか。強者よ、我と戦イ勇気を示セ」
今度はその金棒を横に薙ぎ払う動作が見えた。
その瞬間に俺は空中へと飛んで金棒を回避する。
「その程度カ」
「え」
空中に放り出された俺はゴブリンの金棒を直に受けて、そのまま地面へと叩き付けられる。
「なにが…、その程度だってぇ!?」
地面が抉れて俺の足はめり込んでいるが、金棒を素手で防御して防いだ。
だが、俺の中にある感じ取れる“魂”は全て腕の強化と再生に回したからこれ以上俺は付与が出来ない。
「あァ、その程度デいきがっテイル所がダ…!」
「あぁ?俺が弱いとでも思ったかぁ?俺のスキルは最強なんだよ!」
“心臓強奪”
「…ァ?」
振り下ろしていた金棒は次第にその力を無くし、地面に落下する。
ゴブリンは緑色の顔を青くして、何が起こったか分からずにこの世を去った。
「危ねぇ…」
ゴブリンジェネラル…、明らかに俺を殺す術を持ったほかの魔物とは一線を画す強さの魔物だった。
「ゆうき…!何かすごい物音が!」
遅れてアベリーが到着し、目の前に倒れているゴブリンを見て驚愕している。
「こ、これを倒したの?」
「まぁね。果たして君より俺が弱いかな?」
「…うるさい」
ペシンと頭をかなり本気で叩かれて鈍痛が体に響く。
「何すんだよぉ!」
「なんとなくだよ!」
「お前のせいで残ってた体力無くなった。おぶってけ」
「え…!あ、仕方ないなぁ?」
取り敢えず何とか勝ててよかった。
ゴブリンジェネラルを
魔法袋に入れる際のアベリーの驚いた顔は最高だったな。
いい夢が…、見れそうだ。
「私の背中で寝るなぁー!」
―――
「主様、どうやら壊された様です」
新私服を身に纏った男は跪き、豪華な椅子に座っている男に報告する。
そんなことは想定内だったかのように、驚きもせずに男は流麗な動作でワインを口に運ぶ。
その仕草は男でも惚れ込むほどに綺麗で美しく、繊細な動作で見るものを圧倒する。
「の、ようだな。となると、同族か」
そう呟くと男は窓に近づき、外を眺める。
男は表情を人前では崩さない。
そう、人前では。
彼の顔は今、不気味な程に愉悦ゆえに歪んでいるが、それを知る者は誰もいない。
完璧な彼は表情すらも人には見せない。
「クフッ、あの最強の駒をどうやって破壊したのやら…。勇気を示した者…、気になるな」
その者が果たして自分の遊び相手になるかどうか。
もはや彼の興味は玩具を壊したその者、ただひとりへと向かっていくのだった。
―――
「やっぱり、そうだったんだ」
王都ピーコックまでゆうきを送り、自分の部屋に戻ってきた私はベットに倒れ込み、枕に顔をうずくめる。
「射場 ゆうき…。十七歳、愛知県の田舎に生まれて、十六歳の時に熱中症で死亡…」
頭に流れ込んでくるのは彼の情報で、体の隅々までの細かい値が頭に刷り込まれていく。
「え…!デカい…、じゃなくて。何変な妄想してるのよ。だからこのスキルは使いたくない…」
私のスキルは“
著しく弱った相手を攻撃することで発動し、効果は相手の全ての情報が頭の中に刷り込まれ、まるで最初から知っていたかのように理解する。
「あ、私のことちゃんと覚えてくれてたんだ」
この
ゆうきが最近私のことを思い出していることが理解出来たが、私が私であることは分かってないみたい。
「打ち明けようかな…。私が阿部
あの時の気持ちはまだ私は変わってないから。
「むぅぁ…」
記憶を盗み見た罪悪感と思い出してくれていた安堵感、気付いてくれていない切なさがごっちゃになってよく分からなくなって再び枕に顔をうずくめる。
彼女の悶絶はもう暫く続きそうだ。
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