第26話 不気味な静寂
「ゴブリンって女騎士を狙うのが常識だと思っていたけど、そうじゃないみたいね?」
「俺に言われても」
ピーコックを出発してから数時間ほど歩いたところにある森に着いていた。
ピーコックは森に囲まれていて、冒険者には持ってこいの稼ぎばであり、それが街の繁栄に貢献した面もある。
「だって、有名じゃない?女騎士が『くっ…、殺せ!』って言うの」
「まぁ、一度は聞いたことあるセリフだな」
この世界とあっちの世界では共通したところが多々あるな。
ラーメンもそうだし、今の「くっころ」もそうだ。
ルメの適当さ加減からしたら、俺みたいに間違えて送られてきたあっち側の人間は多そうだ。
そういう人たちが、あっちの世界の知識をこっち側に持ってきているのかもしれない。
「ゴブリンって本当に女の子を狙うのかな?なんだか怖いね!」
「なぁ、もうその話やめないか。あとお前はゴブリンなんて素手で握り潰せるだろ」
「…君の金玉なら今すぐ握り潰せるけど」
こ、こいつ何で殺気を俺に向けてるんだよ。
アベリーの地雷は女の子扱いされないことか…、気を付けよう。
暫く歩いてゴブリンの巣穴を探索していく。
ゴブリンは洞窟があれば洞窟を巣穴にし、見つからなければ自分で穴を掘ってそこを巣穴にするらしい。
だが。
「これで三個目の巣穴だけど、ゴブリンいないね〜。どうしちゃったんだろう」
「確かに不自然だ。巣穴の中は暮らしていた形跡はあるけど、誰一人見張りや留守番が居ないのは不気味だな」
ゴブリンに知能があるのなら尚更おかしな話だ。
全員で狩り乃至出かけているのならば、巣穴に強盗が入るのを嫌がるはずだ。
「あっ、こっちにむっちゃ大きい洞窟があるよ!」
アベリーがそう指さす場所は入口が十メートルはある大きな洞窟だった。
こんなに大きな洞窟ならば、ゴブリンの巣穴ではない可能性の方が高そうだ。
「おいおい、そんな大きな洞窟ゴブリンが入る訳ないだろ。そもそもゴブリンは少数グループで固まって生活をするんだから、そんな大きな居住空間があったところで…」
「でもゴブリン出てきたよ」
「えっ」
洞窟を凝視していると、奥の方からゴブリンが二体出てくるのが分かった。
こいつの視力すごいなと感心しつつ、さらに観察しているとそのゴブリンたちは洞窟の前で武器を構えて立ち止まった。
「門番をしているのか?」
「そうだね!人間の真似をしているのかな?」
なるほど、これはゴブリンが巣穴にいることが確定したな。
―――
ユニークスキルというのは国家間のバランスが一人いるだけで変わってしまうほどに強力なスキルだ。
本に記述されていたユニークスキルの一つに“
確かに、確実に死ぬ病を感染させることで国家どころか世界を破滅に導けるほどにとてつもない力を持ったユニークスキルだ。
その“
相手より気持ちが勝っていると確信した時点で、俺の勝ちが確定したようなものだし、付与によって自分を完璧に修復して回復することも可能だ。
だから、俺もこのスキルを隠して生活をしようと感じた。
何人かに俺のスキルは見られているが、その全員が魔法か何かだと勘違いしているので都合がいい。
俺はなるべく魔法使いとして、この世界を生活しようと思う。
「ねぇ聞いてる?」
「え?なにが?」
考え事をしていたらアベリーの話を聞きそびれてしまったようだ。
「だから、最初の二体以外ゴブリン全然いないねって」
「あ、あ〜確かに。とゆうかかなり奥に長い洞窟だな」
体感ではもう二、三十分は歩いていると思うが、なかなか終着につかないどころかゴブリンが一体も出現しない。
最初の門番役二体はアベリーの手で討伐されてしまったが、抵抗する訳でもなくただ棒立ちでやられてしまった。
入る前に見つけた三つの巣穴同様に、異常なことが起こっているのは間違いなさそうだ。
そこからしばらく歩くと、いくつもの横穴が掘られた少し広い空間に辿り着いた。
ここから洞窟の壁の粗さや不自然な壁の形があるので、恐らくこの空間に入る前に洞窟は終わったが、その奥を更にゴブリンたちが掘って居住空間にしているようだった。
横穴には武器やら(俺たちには食料には見えないが)食料が保管されていて、生活感があった。
「ここら辺で暮らしているのは確かなようだが、不自然だな」
「だね。わざわざあんな距離歩いて自分の部屋を作るなんて非効率的過ぎる。なにかここに暮らさなければならない理由があった…?」
ブツブツとアベリーが呟き始めて、この不気味さへの回答を出そうと頭を回転させている。
普段とは雰囲気が変わり、真面目モードなアベリーを見ていると、頭の回転が早いから強大な魔物へも安全に立ち向かえるのだろうか、と疑問を抱く。
「…強力な魔物に襲われた経験から少しでも安全な暮らしを求め、奥へ奥へと居住空間を移動させたか、或いは群れのリーダーを守る守りに特化した住処を作り上げたかったか…」
どちらの線も有り得そうだが、なにかそんなチンケな物ではなく、何か不気味なものが絡んでいる気がしてならない。
「…とにかく進むしかないな」
「そうだね」
やがて俺たちはその洞窟の先に巨大な扉を発見することとなる。
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