二章 洗脳編

第25話 喧しい目覚まし

「こんにちは!!!」

「うわぁっ!」


 とてつもないボリュームの挨拶と共に最悪の目覚めになった俺は呆れ果てた顔をする。


「頼むから一発殴らせろ。ちなみに今は早朝だからおはようだアベリー。つか俺の部屋に勝手に入ってくるな。モフカもちゃんと番犬の役割をしろ。そして、一発殴らせろ」


 女の子が早朝起こしに来るのは、男子なら誰もが憧れたことのある展開だろうが、今は最悪の気分だ。


 そんな俺の横で「そんなのどうでもいいだろ」と呟くのはアベリーで、俺と同じSクラスの生徒だ。


 熱中症でぶっ倒れて、そのまま死んでしまった俺はルメという巫山戯た神様にこの世界に飛ばされてしまった。

 そして、この世界に来て一年と数ヶ月経った俺は剣魔学校という所に入学して、学校生活と冒険者生活を謳歌する予定であった。

 だが、悪魔との戦いがあったり、日々こんな様な鬱陶しい奴らに絡まれて忙しい日々を送っている。

 おかげで、暇はしない生活だ。


「それで?今日はなんの用なんだ」

「えっと…、そうだなぁ」

「せめて決めてから来いよ!俺は寝るから思い付いたら起こして」


 最近はアルスよりアベリーとよく喋っている気がする。

 しかし、この破天荒な感じは懐かしいと感じてしまう。

 俺にも女の子の幼馴染という存在がいて、その子はちょうどこんな喧しい感じの子であった。

 最近はあっちの世界のことはあまり思い出さなくなり、あまり仲良くないクラスメイトの顔はよく思い出せなくなって来ている。

 それはこの世界に順応しているということだと思うから、別に悪いことではないけど、仲良い人や家族は忘れないでいたいな。


「おはよう、い…ゆうき」

「うぅん…、決まったかぁ?」


 いつの間にか寝ていたようで、アベリーが今度はそっと起こしてくれた。

 いつもそういう起こし方ならばいいのだけれど。


「決まった!依頼を受けて魔物狩りじゃぁ!」

「はいはい、了解」


 こいつはなんでいつも元気なのか…。

 その疑問は解けることはないだろうな、と心の中で自己解決したのだった。


 ―――


「マーリンおはよう」

「お〜、おはようございます。久しぶりですね」


 ギルドに着いた俺たちは担当受付のマーリンに声をかける。

 悪魔を倒してから数ヶ月の間は図書館や魔法の勉強をしていた為、あまり来れていなかったのだ。


「そちらは?」

「同じクラスのアベリー。こいつが魔物を討伐したいってうるさいから仕方なく」

「うん!ゆうきが行きたいって聞かないから仕方なく同行しているの」


「「………」」


「まぁいいや。なにか良さそうな依頼はある?」


 そう聞くとマーリンは、ガサガサと依頼書を何枚も手に取って選定しているが、なかなか見つからないようだ。


「貴方の階級では少し難易度は簡単な方ですが、ゴブリンの巣窟の制圧なんでどうでしょうか」


 ゴブリン、二から六の少数グループを作り巣穴を拠点に生活する小鬼だ。

 低級の魔物にしては知能が高く、木の棒でリーチを長くしたり、石を投げつけて遠距離攻撃をしたり、知能が全くない突進しか脳がない魔物とは少し違う魔物だ。

 だが、いくら知能が高いとはいえ、一個体の戦闘能力はとても低く、冒険者の間では討伐の簡単な魔物という認識が広がっている。


「いいね。それで行こう!アベリーもこれでいいよな」

「いんじゃないかなぁ」


 こいつは適当だな。

 お前が魔物を討伐したいと言ったはずなのだが、もうそれを忘れているのか?


「あ、そういえば俺の階級っていくつなの?」


 登録した時以降、自分の階級を確認してこなかったから自分が今どこら辺にいるのか気になる。

 確か初回登録時はGからスタートだったような気がする。


「今はCですね」

「へぇ…、え?C?」


 Cと言えば一般人にも名前が広がるくらいで、階級で言えば一番上から三つ目だ。


「はい。周りがやらない依頼を受けまくっていたからですね。昇級は実力もそうですが、人がやらない依頼を率先してやるなど、細かい視点から見て昇級していますので、今はCです。Cより先に行く為には昇級試験が必要になります」


 なるほど、強さだけでは高階級の冒険者にはなれないようになっているんだな。


「ちなみにアベリーさんはFですね。頑張ってください」

「頑張るよ!」


 …こいつ、筋肉質な追跡者マッシブハンターみたいな強力な魔物は狩れるのにFなのかよ。

 実力詐欺しているな…。


 まぁ、とりあえず依頼を達成するためにゴブリンの巣穴の制圧に向かおうか。

 アベリーの興味が魔物から別に移ってしまう前に早く依頼を達成しよう。


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