第24話 雲に覆われている。

 どんよりと空が雲に覆われた少し暗い王都で、俺は図書館に来ていた。

 近くの椅子に座り、本を何個か漁り着席し読み進めていく。


 さて。


強奪スティール”と“付与アサイン”はユニークと呼ばれる階級のスキルらしい。

 世界にはノーマルスキル、レアスキル、ユニークスキルという順にスキルの強さ順に階級が定められており、ノーマルとユニークでは天と地ほどの差があるらしい。

 世界にはユニークの域から脱したとてつもなく強力なスキルもあるらしいのだが、その記述はどこにも見当たらない。


「ゆうき、調べたいものは見つかった?」


 俺が机に座って本と睨めっこをしていたのが目に付いたのか、シャノンが話しかけてきた。


「いや、まだなんだなそれが」

「なんで偉そうなんだよ」


 俺が今調べているのはそのユニークスキルの上の階級に位置するスキルだ。

 どこの本にも「ユニークの上に位置するスキルは存在する」とだけしか書かれておらず、呼称すら見つからない。

 ユニークとはどんな存在なのかを理解する為に本を漁っていたが、そんな隠されて記述されていたら気になってくるのが道理だろう。


「どれどれ」


 シャノンが箒を片手に俺の隣に座って本を覗き始めた。

 仕事しなくてもいいのかよ、と思いつつもこの世界の住人がいた方が何かと便利なので何も言わないことにする。


「スキルの事が書かれた本だね。何が知りたいの?」

「スキルには、ノーマル、レア、ユニークとあるだろ?でも名前が無いがユニークより上があるって本には書かれてるんだよ。名前が無いのにどの著者も一律にそう綴ってるのはおかしくないか?」

「本当だ。僕はスキルを持ってないからよく見てなかったけど、確かにみんな不自然な書き方をしてるね」


 ふむ、まぁこの世界の住人とて分から無いものは多そうだ。

 この世界にはテレビやスマホも無いし、情報は人伝か本くらいしか無さそうだし、仕方ないか。


「シャノンはスキルを持ってないんだな」

「うん。まぁ、図書貸出屋の僕としてはそんなスキルは要らないけどね」


 確かに本に記されていたスキルというのは魔物を攻撃する用や他者を癒すみたいなスキルが多く、そのどれもが一般の生活をしていれば使わないようなものだらけだった。

 そもそも、スキルを持っていない人間の方が多いので、普通に生活していたら使わないし、見る機会も少ないだろう。


「あ、そうだ。昔話とか興味無い?」

「興味無い」

「えぇ?即答かよ!」


 シャノンは本当に人懐っこい性格をしているな。

 なんだか弟のように思えてくる。弟はいないけど。


「…その盗賊、モノ達の終わる場所にて日々を暮らし…」

「なんで話し始めんだよ!」


 俺は即座に椅子から立ち上がり、駆け足で図書館を飛び出した。

 後ろから昔話をずっと話してくるシャノンは軽くトラウマになりそうだった。


「まぁ、いつか聞いてやるか」


 せっかくの休日だし、一旦寮に帰って準備して街に探索に行くか。


 ―――


「ゆうきさん、ありがとうございました!」


 剣魔学校に着くなり、校門から飛び出してきたアビスに頭を下げられた。

 あの事件から数ヶ月ほど時間が経過していたが、なぜ今更…と思ったがアビスはその間スラム街で奉仕活動をしていた事を思い出す。


 被害は抑えられたとはいえ、死人は大量に出ているし、スラム街の半分以上はアビス元い悪魔が綺麗さっぱり更地にしてしまっている。

 そこで王はアビスにスラム街での奉仕活動を命じた。

 本当は死刑になる予定だったが、アダミスが王に直談判して奉仕活動で済んだらしい。

 まぁ、十と零でアビスは悪くないし、これで死刑にされたらアダミスと俺の頑張りが無駄になる。

 因みにアビスの兄のデプスは、俺が負わした怪我が治った時に感謝と謝罪を俺にした。


「あぁ、感謝するならギルドマスターにしてきなよ」

「それならもうしてきました!本当に感謝しかないです。あなた方に貰ったこの命、大切にして生きて行きます!」


 こいつ、こんな元気なやつだっけ。

 悪い部分もあのアダミスの技で悪魔と一緒に消し飛んだのか?


「いいよ、感謝とか。俺はアビスを殺そうとしたし、アダミスがいなければ本当に殺していた」


「いやいやいやいや、結果生きてますし」

「いや、でも…」


 仕方がないから殺してしまおう、という思考に辿り着いてしまった自分が許せなかった。

 この世界ではそれが普通の思考回路であるとしても、そういう世界に適応してしまった自分が嫌いになる。

 力を持ってしまったことで思考が歪んでしまっているのではないかという恐怖があった。


「…そういう類の言葉は俺は分かりませんが、俺もあの日からあなたを憎くて殺そうとしていました。でも、そんな中あなたに助けられ、奉仕活動をして気づきました。相手にどう思われるかより、相手をどう思うが大事なんでは無いかと」

「…確かに、そうかもな」


 自分のことに精一杯で、相手をどう思うかという気持ちが欠けていた気がする。


「今度はお前に助けられたな」

「ははっ。おあいこですね。あ、そういえば俺もSクラス行きますので」

「は!?」


 互いに殺そうと思い、互いに助けられたそんな二人の足取りは少し軽かった。

 どんよりと雲に覆われた空が次第に明るく、雲が引いていくその様子はきっと偶然では無いのだろう。


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