第22話 復活

「さぁ、お前の契約は今この瞬間にて達成された。代価を頂くとしよう」


 悪魔の黒葬爪あの世への近道を放ち、確実なる死をもって私の脅威なり得る存在はいなくなった。

 こうなれば私の勝ちである。


 まずは人間を恐怖でしたがえ、我が国を作ろうではないか。


『なに…、を言ってる…?』

「おや、まだ意識があるのか。素晴らしい精神をお持ちのようだ」

「ゆ、うきは死んだのか…?」

『えぇ、私の一撃で死に絶えたよ』


「で、も…、あれはゆうきではないの、か?」


 は?この子供は何を言っている?

 憎悪に駆られ過ぎて幻覚でも見ているのか?


 そう思い、あいつの死体を再度確認しようとしたが、そこに死体はなかった。

 代わりに、こちらを馬鹿にしたような癪に障るにやにやした笑顔で見てくるあいつがいた。


「…は?」


 私には状態異常は効かない。

 そういうスキルを持っているから、私自身が確実にそう言いきれる。

 これは幻術では無い、現実だ。


 死んだはずの人間が、目の前に生き返って私をバカにしたような笑顔でにやにやしているのだ。


 これほど不快なことがあろうか。

 心臓を潰された時や上位階級の悪魔に粉微塵にされた時以上に、とてつもない不快感が私を襲う。


「アハ。どうしたの?何があってそんなアホズラに…?」


 私と同族かと一瞬の考察の後に、ただ単に私の真似をしてバカにしているのだと理解して怒りがマグマのようにふつふつと湧き上がる。


「…生まれてきたことを後悔するほどの凄惨な死をもって終わりにしようか」


 だが、怒りに飲み込まれ周りが見えなくなれば、またこの前と同様に心臓を取られて終わるのは明白。

 死から生き返った方法も未だに分からないのであれば、ここで力任せに悪魔の黒葬爪を振るうのはナンセンスだ。


「手足が怒りでプルプル震えてるぞ〜。必死に抑え込んでて可愛いねぇ〜」


 プツンッ。


 私の中にあった何かが切れるような感覚が襲い、目の前が真っ暗になった。


「コロスコロスコロス…」


 もう何も考えられずに暴力を振るった。


 ―――


 あれはいつだっただろうか。

 悪魔は悠久の時を生きる為、いつの時代の出来事か忘れてしまったが、私は魔界ではかなり強い方であった。

 弱者を嬲り、感情を楽しむのが…。


「ブバベェッ!!」


「なに勝手に過去回想に入ろうとしてんだよ。てめぇの回想は需要ねぇっつうの」


 突然殴られた頬のと衝撃で私の脳は覚醒する。

 …怒りで我を忘れてしまったようだ。


 待てよ…?痛み、だと?


「お前はあくまで耐性だと言ったよな。無効ではなく耐性だと。つまり、耐性値を超える一撃を繰り出せば通るんじゃねぇか?」


 その時、私を恐怖感が支配した。

 生殺与奪の権を握られて、体は恐怖しか出来ない。


「な、なんなんだ!お前はぁぁぁ!?」


 私が魔界で強いことを確信した時に、最上位悪魔に弄ばれて嬲られたあの時の記憶が鮮明に思い出される。


 この男の威圧感は最上位悪魔に匹敵するのか!?


「徹底的倒すって言っただろう?」


 そう言って私を覗くその顔は悪魔そのものだった。


 ―――


 始まってしまえば何ともない。

 普段、散歩をするレベルの心持ちでガビエルをただの拳でボコボコにしていく。

 ただ、厄介なのはこの拳は確かに悪魔に有効的だが、それと同時にアビスにも痛みが蓄積している事だ。

 傷つければ傷つけるほどにアビスが死に向かって行ってしまう、言わば俺は直接的に悪魔を攻撃出来ない状況に置かれているわけだ。


 痛みに観念してアビスの体からガビエルが出ていくのが先か、アビスの体が拳に耐えられなくなるのが先か。


 呆気なくその人の未来を奪ってしまう死という事象は、俺が一番よく理解しているつもりだ。

 だから、アビスを殺したくないが、ここで殺さなければもっと死人が出てしまう。


 最早、アビスを見捨てるしかない状況にまで追い込まれた。


「ひっひひ…、痛みなど経験したのはいつぶりか…?この刺激すら私には快楽として還元されるようだぁ…?」

「この変態野郎が」


 渾身の回し蹴りを叩き込み、ガビエルは遠く飛ばされゴミの瓦礫の中に突っ込んでいく。

 だが、そんな中でも悪魔の気色悪い笑い声は絶えることなく響いている。


「普段精神で活動をしているから、恐怖や痛みなどにも耐性があるのか?」


 悪魔がこっちの世界にやってきて霧散してしまうのは、普段精神体で活動をしていて肉体を持たないからだ。

 肉体を持っていればそれが器となり、精神を霧散させずに死は訪れない。


「君はどうやら人を殺せないらしい。…いや、関わった人間を救いたいという心か。だが、この少年は君の攻撃をあと幾度耐えられるだろうか」


 そう、そこだ。

 正直に言うと、もう打つ手がない。

 アビスを見殺しにした後に、ガビエルの複数あるであろう心臓を逃げる前に強奪するしかないと思ってしまっている。

 殴られた痛みで逃げていくだろうという甘い考えの俺が馬鹿だった。


「…仕方ない、か」

「…はぁ?!おい、まさか殺すんじゃないだろうな!」


「そうするしか方法がねぇんだよ!アビス、恨むなよ…!」


 モードを切りかえて、集中力を高めていく。


「さぁ、行くぞ」


“強…”


「まぁ、待ってください。いつかの賞金首を捕まえてきてくださったゆうきさん」


 肩を掴かんで、そう言ったのはギルドマスターのアダミスであった。

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