第21話 ユニークスキル

「力が足りないなぁ、君たちは」


 紳士風の綺麗な装いを羽織った、見た目にして十代前後の子供がつまらなさそうに呟く。

 目の前にいるのはただの子供ではなく、悪魔を身に移した、まさに絶望そのものだった。


 高階級冒険者の腕力や魔法、スキル、今までの経験から学んだ搦め手…、その全てがあの小さい悪魔には効果は無く、無慈悲にも命が刈り取られていく。


 この世の地獄とは何処だろうと問われた時、私は真っ先に今の状況を答えるだろう。


「ムダ、だよ。私には魔力にも物理にも耐性がある。無敵なのだ…、無敵だったはずなのだ」


 声には発露しないが静かな怒りが溢れ出すのがわかった。

 彼が何の事を言っているのか俺には理解は出来ないが、一つ理解したことがある。


「さぁ、そろそろ終わりにしよう」


 眼前に迫るどうしようもない不幸な運命を避けることが出来ないと。


「ヒィッ…」


 これで終わりか。

 痛みは無く、意識は遠のいた。


 ―――


「これは…なんなんだ」


 スラム街を進んだ先、半径百メートル以上の平たい平地が広がっていた。

 スラム街に広がるゴミやゴミで作られた家屋、そしてそこにいたはずであった人間もバラバラに蹴散らして赤く染った土の地面が広がっている。


 そして、その中心には見たことある顔がいた。

 あの時、入学の試合で俺とアルスに挑んだアビスという男だ。

 金髪に褐色の肌には到底似合わない、真っ黒な紳士風の服を身にまとった彼だが、自分が彼に抱いていたイメージとはだいぶ異なる。


「やぁ、さっきぶりだね。痛かったなぁ…、君のその力」


 瞬間、悪魔と対峙した時に感じた身体が忌避する悪寒が全身を取り囲んだ。


「お前は…」

「うん、ガビエル。私の名前だよ。自己紹介をする前に心臓を取られてしまって、名乗る時間すらなかったからね」


 今の彼の読み取れる心境は「冷静」だろう。

 俺に心臓を取られて、逃げ出したにもかかわらず、絶対に勝利を確信している余裕を感じ取れる。


「徹「低的に倒す、だろう?君が言いたいのは」

「…!」


 心が読まれている?何故?

 いや、違う俺の口癖を真似しただけだ。

 動揺するな、落ち着けば大丈夫。

 どんな不安要素であろうとも、強奪と付与があれば大丈夫。


“強だ…


「ふひ、いいのかな。君にこの憑依体を殺せるかな?」

「………」


 そうだ、あればアビスの体だ。

 彼は確かに不正をしていたが、それは死んでいい理由にならない。

 彼にも家族がおり、未来がある。


 しかし、あいつを放置すればもっと大勢の人間が死に未来が奪われることになる…!


「すまない…!ごう…」

「迷ったね、その一秒にも満たない頭の巡りが人間を死に追いやる」


 眼前に迫った漆黒の爪が刹那に見えた。

 抵抗すら叶わないその一瞬に、いままで生きてきた自分の過去がフラッシュバックする。


 脳が、体が、本能が死を悟った。


 ―――


 パチンッ。


 真っ白い無限に広がる空間に指パッチンの音が木霊した。

 そこに居たのはルメであり、時空を介してあちらの世界を監視していた。


「まじか」


 いつもおちゃらけて、巫山戯ていた顔は真剣に覆われた真顔を見せていた。

 神であっても見通せなかった、不測の事態にルメは焦りを見せる。

 顔には出ないが、足や指が忙しなく動いてる。


「面倒だが、会いに行かなくてはならないな」


 ルメは指で自分が一人入れるほどの大きい円を空中に描き、ゲートを出現させる。


「君はまだ死んではいけないよ。役に立ってもらわないといけないからね」


 ―――


「やぁ、死にそうだね」


 意識の途切れる寸前、ルメの声が聞こえてきた。

 体は動かないが、意識だけが彼の存在を認識していた。


『この状況は…?』

「時をゆっくりにした。だから、君は確実なる死に向かって進んでいる」


 死…、そうか。

 呆気なく死んでしまったな。

 一度経験した「死」という事情は、案外怖くないと思っていたが、次々に頭に過ぎるこの世界で知り合った人たちに何故か恐怖がふつふつと芽生えてくる。


「ははっ、それは人間として普通の感情だよ。いや、生物として普通の感情だね。まぁ、死を二度経験した者はなかなかいないだろうけど」


 そうか、確かにそうだ。

 あー、死にたくないな。


「そう言うと思ってました!ぱちぱちぃ〜!今から君に生き返って貰います!あっ、まだ死んでないけど」

『はっ?ルメはそんなこと出来るの…か?』

「できないできないw。そんな神みたいなこと出来るわけないじゃん」


 …っ、この人、人の死の間際でもこんなに巫山戯る余裕あるのかよ。


「だから君にやってもらうよ」

『何を…言って…?』

「何回も言うけど、君はまだ死んでない。あと数秒後に死ぬだろうけど」

『…うん、それは理解出来る』

「スキルというのは人智を超えた力だ。そして、僕が君に授けた力はこの世界ではと呼ばれる階級にあたる力であり、普通のスキルとは一線を画す。言っちゃえばほぼなんでも出来ちゃう力だ」


 ほぼなんでも…。


 そう話すルメはいつも通りの巫山戯た印象ではなく、真剣に話している。


「さて、そこで君に質問。君は、今まで強奪で奪ってきた命はどこにあると思う?」


 どこに…?


 そうだ、確かに俺はあのサバイバル生活の中で大量の野生の動物や魔物の心臓を奪ってきた。


 確かに、付与しないならば俺の中にあり続けるだろう。


 だが、俺が奪っていたのは心臓という物理的なものだ。


 奪ったものは奪ったままで終わる。


「いや違うよ。心臓は心の臓器であり、魂が格納されている場所。それを君は強奪してきた。さて、君が今まで強奪で奪ってきたたましいはどこにあると思う?」


 今まで奪ってきた魂…。

 まさか俺の中に未だに残っているのか?


「そっ。魂に宿っているのは体の情報だ。それを自分に付与すれば、自分の細胞の情報に模倣し、上書きされ、体はまるで完全に回復したように見えるし、力は加算される」

『なんだそれ、都合良過ぎないか?』

「ふふっ、ユニークスキルっていうのはそう言う都合の良さの権化のようなものだよ。神には届かないけど、ね」


 ユニークスキル…、それが俺に与えられた力であり、普通のスキルとは一線を画す力。


 アサインとスティール…。


「さぁ、早く付与しないと君が死んじゃうよ」

『そ、そうだな。でもなんでルメは俺にそんなに情報を教えてくれるんだ?』


「え…。それは、内緒だよ♡」


 一瞬の沈黙、予期しない話を振られたせいだろうか、誤魔化された。

 …この心の考えたことも筒抜けているわけだし、考える意味もないか。


『さて、再生して奴を倒してやろうか』


“付与”

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る