第20話 慢心、滅びの道
「じゃ、モフカ頼むな〜」
「任せてください!いっぱいモフります!」
ちょうど休日なので、王都に出てまだ行ったことのない場所に行こうと思い立った。
アルスはアベリーと勉強をすると言って楽しそうなので、一人で行こうということになり、折角なのでモフカを預けることにした。
相変わらず口が臭いですね〜、なんて言っていながらももふもふしてしまうのは、あいつの触り心地が異常にいいせいだろう。
しかし、あいつ今まで体を洗っているところを見た事ないけど、ずっと清潔だよな。
毛ずくろいとか結構してるのだろうか。
「まぁいいか。今日はそうだなぁ…、スラム街にでも行ってみるか」
王都はかなり広いとはいえ、休日に毎回探索してるので結構行った場所は多い。
だけど、その中でもスラム街はなかなか行く気になれずにいたので、今日勇気を決して行くことに決めたのだ。
「何かあるって訳でもないだろうけど、行ったことのない場所というのはワクワクするもんだ」
俺の足はいつにも増して軽快に動いて、スラム街を目指すのだった。
―――
『緊急、スラム街付近にて死亡者が出た。近くの探索グループはスラム街を目指して進んで欲しい。死にたくないと思う者は素直に逃げてもいいが、報酬は出ないから了承してくれ』
冒険者たちには言わずに、全員に気付かれないようにマーキングを付けて盗聴魔法で盗聴をしていたが、あるグループのマーキングが一瞬にして外れる感覚があった。
気付かれたにしても、そんな一瞬で消えるものでは無い。
それに、高階級冒険者は気付いていても私の糸を判断して、わざと付けて続けている場合もあるから、探索を始めてこんなに時間が経ったのに急に切れるのもおかしい。
この状況から判断して、彼らを死亡したとして、マーキングを介して他の冒険者に伝達した。
まぁ、十中八九死んでいるだろう。
やられたのは、清静のネハンと明明のアキマで、そのグループの残りはアビス・アガルドであり唯一の生存者。
「…マーキングは何らかの理由で外れてしまったようね」
さて、彼らが生存者かどうかも分からなくなってしまったが、この場面をどう対処するべきか。
「そろそろ少し休んではいかがでしょうか、ギルドマスター」
そう言ってジョセフはミルクココアを持って、労いの言葉をかけてくれる。
だが、こんな状況で落ち着いていられるほど私の心は強くはない。
「いらない。私もスラム街に行く」
「…!ダメです!アダミス様とはいえ、悪魔相手には厳しいかと…」
「…なに?私では悪魔に対抗出来ないとでも言うの?」
気が立っているせいもあってか、自然と声に怒気が混じる。
「い、いえ!ですが、この人数に瞬間的に物事を伝達出来るのは…アダミス様だけであり、指揮官は指揮するのが…役目でありますから、出陣しない方がいいかと…」
ジョセフは物申すが、視線があちこちに向いたり、言葉が時々詰まったりしていた。
目線が合わない、言葉の詰まり。
人間が嘘をついている時の証拠…、だが、全てが嘘では無さそうだ。
「それはあなたの意見?それとも彼女たちの意思?」
「…私の意見であります」
真意は…分からない、か。
「悪いわね、要らないことを聞いたわ。ジョセフの言っていることは確かに正論。頭を冷やす…」
ココア…、ストレス解消や自律神経を整える役割を果たす栄養素が入った飲み物。
もしかしたら、私が少しでも取り乱すと予想してこれを持ってきていたのかもしれない。
「…相変わらず、ね。ありがとう」
「いえいえ、とんでもないです」
さて、こうなったら私はもう見守ることしか出来ない。
冒険者諸君、あとは任せたわよ。
―――
「一般人は今すぐスラム街から出ていけ!」
屈強な男たちや武装をした女たちがスラム街に着々と集まっていく光景を見て、冒険者たちがとんでもない喧嘩をし始めたのかと思ったけど、そうではないらしい。
そう思える根拠は、冒険者の顔だ。
怒りで歪んだ顔、不安でいっぱいそうな顔。
そのどれもが死の覚悟を感じさせるような圧があり、その迫力に圧倒される。
「スラム街の中心、何かがいるのか?」
好奇心とは不思議なもので、俺の体は自然と冒険者たちが集まる方へ向かっていた。
だが、無策では無い。
一応、何があっても自分の命は守れるように、直ぐに強奪と付与が使えるように心構えをしておく。
そう、この力が俺の危機感のストッパーを取り去らっていた。
それを無自覚だった俺は後悔することになる。
数分後に起こる凄惨な未来を。
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