第18話 善意
「ふぃー、確かに心臓を二個奪い取ったはずなのだけれど…。悪魔の心臓は一個以上ということか?」
十分考えられる可能性だ。
あの最強の種族が心臓が一個など、逆に考えずらい。
「転移ゲートでどこに行った…?憑依元がないからしばらくは大丈夫だろうけど…」
ふむ、悩めば悩むほど疑問は増えていくな。
しかし、悪魔という種族にも届きうるとはこの力はやはり強力であることが、確かに証明された。
「ん?だんだん周りから気配が集まってくる…?」
暫くすると、生物の気配がひとつも無かったこの沼地に生物が集まってきた。
「この魔物たちはあの悪魔を恐れて沼地を離れていたのか」
さて、ライナースケープもその中にいる事だし、さっさと狩ってピーコックに戻ろう。
―――
「まっ、待って…!」
「うるせぇ」
血の生臭い匂いが充満する暗く狭い路地裏。
俺はそこにいた盗賊の顔面を馬乗りになって殴りまくる。
何か言ってるが、関係ない。
腕力のカタイナライ、有名な冒険者であるらしく、それがこいつの名前の様だが、俺の腕力の方がどうやら強かったようだ。
「クソっ、こんなものでは勝てない」
あの日、兄が重傷を負った日から俺は、王都に蔓延る強いと噂される悪人や冒険者に片っ端から殴りかかってきた。
時には殴り返され死にそうになったが、その度に奴への憎悪が増していき、不思議と力を使い果たした体から力が湧いてきて、返り討ちにした。
全てはあの男の顔面に拳を叩き込み、殴り殺す為だ。
「あ、あの…」
「あぁ?」
ダメージを受けすぎた俺は壁にもたれ掛かっていたが、誰かに声をかけられた。
声をかけられた方向に視線を向けると、そこには五〜六歳程の子供がいた。
その子供は所々穴が空いたボロ雑巾のような服を来ていて、髪の毛もボサボサで小汚い子供だ。
こいつの子供か?
「倒してくれてありがとうー!」
「はぁ…?」
しかし、予想していた言葉とは全く違う言葉が飛んできて混乱する。
「そいつは僕のお兄ちゃんをいじめてたんだ!ありがとう」
「…おう。それだけ言いに来たなら帰れ」
兄がいじめられていた…?
借金をしてしまったか、この男の盗賊グループに所属していたか…。
どちらにせよ、その兄はまともな生き方をしていねぇな。
まぁ、俺もまともとは言えない人生に片足を突っ込んでしまっているが。
「おい、子供」
帰ろうとしたそいつを呼び止めて、ポケットに入っていた麻袋を思いっきり投げつけた。
「…これは?」
それを上手くキャッチした子供はその中身を見る前に、俺になんなのか確認してきた。
ジャラジャラ言ってるんだから、金に決まってるのに持ち逃げようとしないし、確認もしようとしない。
あんななりだから、今にも限界だろうにそれをしないのか。
「…金だ。お前にやる」
「え…!」
「スラム街の絆は深いと聞く。だが、金というのは人間の目を狂わせるものだ。そんな大金を持って帰れば間違いなく大人に狙われる。隠して家に持って帰って、兄と家でも買え」
そう言うと、子供はありがとうと何度も言いながら手を振って帰って行った。
「…何をやってんだ俺は」
人を殴って、時に殺し回った俺に人を助ける資格などないことは分かっている。
金貨の重みの分、俺の心が少し罪悪感が募った。
汚れている金貨を自分のエゴであの少年に渡してしまったことに自分を殴りたくなった。
―――
「アダミス様、この王都ピーコックにて悪魔の目撃情報が」
ギルド二階に位置する執務室にて、書類に追われているアダミスに紳士風の男、ジョセフが耳打ちをする。
この執務室は魔法で盗聴を阻止しているが、万が一にでも聞かれたら、冒険者づてに噂が広がって混乱を生じる可能性が高い。
そんな機密性のあるこの話は、王から直々に依頼された
「ふっ、王は私たち高階級冒険者に悪魔という化け物を民に気付かれずに倒してと言っているのか?」
「はい。その通りでございます。こちらが依頼書です」
ジョセフに渡された依頼書には、依頼達成条件が書かれており、勝利条件は悪魔の討伐。
そして、出来る限り民に気付かれないように討伐が求められている。
「あぁ、確か記憶を操作するスキルを持った者が王都にいたような…」
「えぇ、います。最悪の場合その方のお力を借りる予定なのでしょう」
なるほど、依頼の詳細は理解出来た。
だが、悪魔は並の冒険者では歯が立たない強大な力を持つ魔物だ。
私の知る限りの精鋭を集めなければ、まず勝利すら危ういだろう。
「私が現在王都にいる高階級冒険者にお声をかけてきます。アダミス様はどうなさいますか」
「戦うわよ。久しぶりの戦闘にワクワクするわ」
そういうものの、初めて戦う魔物は知らないという恐怖に呑まれる可能性がある。
出来る限り、悪魔の情報を収集しておくに越したことはないだろう。
「あぁ、そういえば最近指名手配犯を何人も連れてきているあの少年はどうでしょうか」
「あぁ、あいつか。確か名前は…」
「アビス・アガルド。剣魔学校Aクラスに通う生徒のようです」
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