第17話 その者、悪の象徴
入学から半月程度経過した。
授業は剣術や魔術の事が主であり、週の中で一番多く学ぶ時間がある。
その他にも計算や他言語の授業などあり、それなりに難しく、やり甲斐があり意外と学校を楽しんでいる。
休日は冒険者になり、他の冒険者がやらないような面倒臭い依頼を中心にこなしている。
人助けという訳では無いが、そう言う依頼は基本的に魔法を使えれば簡単に解決する依頼が多い。
特に“強奪”と“付与”の力を使えば、サクサクッとクリア出来る依頼が大変多い。
俺の強奪と付与は、未だに分からないことがかなり多い。
この前の試合でも、アルスに腕力を付与したように、目に見えないものも付与出来ることがわかった。
この力の理解度を上げていかないと、倒せる敵も倒せなくなるだろうし、しっかり理解してないといけない。
「さぁて、早速
俺はギルドのマーリンから依頼を受けて、ライナースケープを狩りに行くのだった。
―――
ライナースケープ…、逃げ足が早い小柄なサイの魔物である。
しっかし、毎度の如く逃げ足が早かったり、隠れるのが上手かったりする魔物の依頼が多いな。
まぁ、見つける労力や追いかける労力を使いたくない人は絶対に受けない依頼だろうな。
ついでに言えば、低階級の弱い魔物であるから依頼料は適正であるとは言い難い。
「ライナースケープはこの辺の沼地にいるはずなのだが…、いないな。逃げ足自体は速いが、ライナースケープは沼地が縄張りであるはずだから、いるはずなのだが…」
なにか異常事態が起こっているのか?
今日は沼地にいる気分ではない?
「いや、そんな訳あるか…。とゆうか、魔物の気配がひとつもしない」
なにかがおかしい。
明確にはそのなにかは分からないが、普通ではない状況に陥っているのは理解出来る。
ガサッ。
「氷初級魔法:フリーズ!」
物音がした草むら目掛けてフリーズを放つが、魔物の気配はしないし、手応えもない。
「ふふふっ、貴方は人間…ですか」
ゾワッ。
体の芯から震えあがるような殺気が皮膚に突き刺さり、体が痺れる。
アベリーの時に感じた雰囲気とはまるで別物の、身体が拒絶するオーラがその声に篭っていた。
「…何者だ?」
その声のする方へ視線を向けると、漆黒の翼を身に纏った、邪悪な仮面をつけた魔物と似たような力を持つ男がそこにいた。
「ふふふっ、悪魔…、という種族をご存知かね。人間」
悪魔…、確かこことは違う世界に存在する魔界という場所に住んでいる者たちの名称だ。
魔法を扱うのに長けており、体は完全な物理耐性を獲得しており、物理攻撃は通じず、そして体は魔力への耐性が備わっている。
まさにチートと言えるべき最強の種族である。
「あぁ。過去の文献に悪魔という種族がこの世に顕現したことがあるという情報があった。それはお前か?」
「さぁ、分からないよ。だが、私がこの世に顕現したのは二回目だ」
二回目…、か。
悪魔というのは何百年も生きる化け物であるから、流石に同一人物であるかは分からないか。
分かったところで、という感じではあるが。
「何故顕現した?何が目的だ」
「君には言えないなぁ」
ニタニタと笑う悪魔はこちらの困る反応を楽しんでいるようだった。
悪魔というのは負の感情が好物と聞くが、本当にそうなのか。
「なら、何も出来ないようにこの場で消すしかないな」
「ふふふっ、この
「あぁ。だが、今は人間に憑依しているだろう?」
「………」
悪魔というのは確かにチートじみた力を持っているのだが、魔界からこの世界に顕現できるのは個体によるが、数時間から一日と言われている。
その時間を過ぎると魂がこの世界に適応出来なくて霧散して、死なないはずの悪魔に本当の死が訪れてしまう。
それを逃れる為の方法が生物に憑依をするという方法だ。
だが、それは同時に己が弱くなるということ。
つまり、この世界に現れた時点で悪魔という種族は弱体化してしまうのだ。
「…そこまで知っているとは驚きだ。君は悪魔に対して勤勉なようだね」
「さぁ、戦うか悪魔。お前を一撃で葬ってあげるよ」
「………」
…どうした?この悪魔は戦う為にこの世に顕現したのでは無いのか?
悪魔は好戦的な種族と聞くが…。
「ふふっ、やめておこう。だが、君とはもう一度どこかで会いそうだ」
悪魔がそう呟き、ゲートを空間に作りだし転移をしようと魔法を発動させる。
「じゃあ、ね。人げ…」
「誰が逃げていいと言った?」
“心臓強奪”
「ゴブボァッ!」
「絶対に逃がさないよ。徹底的に潰す」
―――
なんだあいつ!なんなんだよ!
憑依元の心臓が…、いつの間にか抜かれている!?
何故だ…!何故…、どうやって心臓を…。
いや、考えている暇はない。
今すぐこの人間から離れなければ。
この憑依した人間は捨てるしかない。
十二時間以内に別の憑依元を探さなければ。
負の感情に苛まれる人間に。
「この体いらない!早く、早くゲートを!」
精神を整えて、魔力を集中させて転移ゲートを一刻でも早く。
“心臓強奪”
「グガァァッ!!」
まただ。あの唱える声が聞こえた瞬間に、心臓がまさにその場から瞬間移動したように無くなる。
口から滴り落ちる血が邪魔だ。
集中力が途切れる。
「転移ゲート…!」
間一髪、私の精神体は転移ゲートに入ることが出来たのだった。
あの人間はやばい。
悪魔である私の命ですら簡単に奪い去る強大な力を持っている。
「ひひっ、何故私はこんな笑顔に…。ふひっ」
ダメだ。
悪魔の本能があの人間と戦いたがっている。
命のやり取りなど生まれてから一回もできたことは無かった…、初めての感覚で私は喜んでいるのか?
「あぁ、良かった。
まずは奪われた心臓の修復と憑依元になる人間を探すことだ。
待っていろ、あの人間…。
「ふふふふふっ…」
悪魔の不気味な笑い声が王都ピーコックに響き渡るのだった。
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