第15話 豪快な気配

 Sクラス、それは選ばれた強者しか入れない栄光あるクラスである。

 近衛騎士になる時や宮廷魔法使いになる為には、剣魔学校でSクラスに入ることがまず第一条件になっているくらいだ。


「俺様はAクラスか…」


 クラスの階級はCクラスからA、飛んでSクラスとなっている為、A如きではアガルド家では恥晒しになってしまう。


「クソ…、あの魔法使いのせいで」


 俺の発動中の魔法をどうやったか、奪い取って更に俺の顔面目の前に瞬間移動させたあの魔法使い…。


 明らかになにか不正をしているのだが、不正が見破れない己の知見の無さにアビスのイラつきは更に加速度的に増していく。

 そして、己自身もズルを容認して貰った者として、奴の不正を指摘出来ないのが歯痒く、どうしようもない状況に彼の心は少しづつ黒ずんでいく。


「おい、アビス・アガルドだな?デプス・アガルドが重症で医療室で寝ている」


 俺より背が高い教師であろう人物が、俺に話しかけてきた。

 その教師はそんな発言をしたのにも関わらず、焦った様子もなく、出会ったついでに言ってきたようなそんな、軽い感じで言われたような気がした。


「…は?一体どう言うことだ?」


 その態度に少し憤りを覚えるが、ここで怒鳴ってしまえば、兄の詳細な情報も聞けなくなってしまうし、最悪教師への悪態としてAクラスから落とされる可能性すらある。


「魔法使いに喧嘩を売って返り討ちにされたんだと。それと教師には敬語を使えよ〜」


 そう言うと教師は手を振りながら立ち去った。


 ちっ、大人って奴はどいつもこいつもイラつく奴ばかりだ。

 それにしても魔法使いにやられた、だと?

 この俺とドッペルゲンガーのコンビですら勝てない兄が、魔法使いに?


 その考察から結論が一つ、俺の脳が導き出した。


「あいつか」


 そうだ、俺に不正を使ったあの魔法使いならズルをして兄を倒すことも可能だろう。


「殺してやる」


 俺は兄のいる医療室に向かって、走り出したのだった。


 ―――


「ほう…、魔法の扉…」


 教室の前、扉を視界に入れてじっくりと観察していく。


 感知魔法で一定周囲にいる者を感知し、更にその者が教室側に体の向きを変えた時に、扉に魔力を送り込み、自動開閉を実現しているわけか。


 あっちの世界の自動扉みたいだな。


 魔法であっちの機械や物を再現するのは結構出来そうな気がしてきた。

 まぁ、魔法という人智を超えた便利過ぎる力があるから、この世界に機械なんて必要ないだろうけど。


「入らないんですか?」

「あ、悪い悪い。さーて入ろうか」


 自動扉がバッと開いて、教室の全貌が視界に入る。

 椅子や机は木製で出来ており、床や壁などはかなり綺麗に掃除されているようで、清潔感があって心地いい。


「おっはよーう!」

「おっはよーう!」


 挨拶はとても重要な要素である。

 初対面の人との第一印象は出会って数秒で決まると言われている。


 なので、最初の一言が大事なのである!


「「「「……………」」」」


 教室にいた数人に、「なんだこいつ」みたいな冷たい視線をぶつけられて、俺は凍えそうだよ…。


「あれ?元気ないですね?もう一度!おっはよーう!」


 な、なんだコイツ!

 メンタルが某メタルなスライム並に強固だ…!

 冷たい視線を全てMiss!で避けているのか…?


「お、おはよう」

「へっ!?」


 教室の方から誰かがおはようと返してくれた。

 今の一瞬で誰だかわからなかったが、返してくれたことに俺は凄く心がハッピーになった。


「なるほど…。何回も言い直せばいいのだな」

「いや、それ相手がこの空気に耐えられなくて仕方なく言ったんだろうと思うけど」


 急に後ろからアルスでもない声で話しかけられて、ビクッとしてしまった。

 後ろを振り返るとどこかで会ったような金髪の女の人がいた。


「あ、お前は…」

「はっはっー!おはよう、少年。君も剣魔学校に入学する生徒だったんだね」


 そう言うとズカズカと教室に入っていき、ガラッガラの席群の中から一番端っこの席に着いた。


「俺たちも座っとこうか」

「そうですね」


 まだ席はガラガラで、半分以上誰も座ってない席が存在する。


 次に来るのはどんな生徒かな、と考えていたら、次に入ってきたのは教師だった。

 しかも、試合で試験官を務めていたり、俺の売られた喧嘩を仲裁してくれたあの教師であった。


「生徒は…、七人いるな。うんうん、今年はかなり優秀なようだな」


 え?Sクラスってこれだけしか居ないのか?

 とゆうか先生の口振りからして、去年はもっと少なかったってことか。

 もしかして、Sって…Q、Rの次のSって意味か…!?


「Sクラスは選ばれた者しか入れない栄光あるクラスだ。身なりを整え、常時他生徒の見本となるように学校生活を送らなければならない…。と書いてあるが、こんなのはどうでもいいな」


 あ、俺の認識が間違っていたのか。


 やはりSクラスはAクラスの上のクラスであり、今年はこれだけの生徒しかSクラスに入れなかったって言うことか。


 しかし、こんなこと言っちゃ悪いが、何故アルスや俺が入れたのだろうか。


 とゆうか、先生がそんなこと言ってしまっていいのかよ…。


「まぁ適当に肩の力を抜いて生活していればいい。だが、Sクラスにいる誇りは持った方がいいな。下のクラスの奴は神経質だから、余計なトラブルに巻き込まれるぞ」


 チラッとこちらを向いてくるが、俺に向けて言ってるな。

 まぁ確かに、入りたくても入れなかった者もいるだろうし、意識しすぎも良くないとは思うが、気を付けておいて損は無いだろう。


「さて、そんなSクラス一年の担当はこの私、ニーナ・エルベザードだ。よろしくしたまえよ、諸君!」


 そういうとニーナは高らかに笑い始めるのだった。

 …大丈夫か?この先生…。

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