一章 覚醒編
第14話 栄光のS!
春、それは新しい環境に飛び込む期待と不安の季節。
薄ピンクの綺麗な桜はこの街には見当たらないが、人間は活気に溢れ春の訪れを歓喜しているような、そんな風に思える。
さて、この王都で一番の魔術と剣術の教育が行われているこの剣魔学校に入学した、巫山戯た神によって異世界に転移させられた俺、ゆうきはかなりワクワクしていた。
この新しい物、新しい服で全く新しい環境に飛び込む感覚が意外にも嫌いでは無いのだ。
「わぁー、たのしみですね!」
横で俺と同じようにはしゃいでる女の人がいるが、この人はアルス。
俺がこの学校に入学するきっかけになった人物である。
天然属性のロングソード女戦士であるのだ。
「さぁいよいよクラスが何処になるか分かりますね!一緒だといいなぁ」
「ははっ、確かにそうだな」
アルスのこういうところは可愛いところだよな。楽しげな感情を表に全開に出せる人は一緒にいて心地いい。
「一緒…、一緒…、一緒…。お願いします。ゆうきさんと一緒…。一緒がいい…。一緒でお願いします…」
ボソボソととてつもない剣幕でお祈りするアルスを見て顔が引き攣る。
何故か周りに黒いオーラを纏っているように見えるのは俺だけだろうか。
前言撤回する。
この子は意外と怖い子かもしれない。
そんなこんなで喋りながら、正門を通り抜けた俺たちはまずは一年生の教室へと向かう。
剣魔学校は王都一と言われるだけあって、校舎が何棟も建っている。
望めば寮もあるし、学年も棟によって校舎が違うようだし、流石は剣魔学校だ。
こりゃぁ、暫く迷うことが多そうだな。
恐らく一年生の校舎の玄関にやってきたが、教師達が口頭でどこのクラスか説明をしているようだ。
俺達も列に並んで、どこのクラスか説明を受けようと思ったら、急に肩を掴まれた。
「よう。この前はよくも弟をぶっ飛ばしてくれたな」
そこには肥満気味ではあるが、巨漢の男が立っていた。
腕っ節はかなり強そうであり、上から目線でとても偉そうだ。
しかし、弟…?
もしかしてアビスのことだろうか。
ここ最近で人間をぶっ飛ばしたと言えば、その人物くらいしか思い出せない。
「よくやったなぁ!ドッペルゲンガーを使っている弟をぶっ飛ばすのは俺でも苦労する。てめぇは強い。俺の下僕になれ」
「は?」
予想外の言葉が飛んできて、びっくりしてしまう。
この展開なら、「弟を傷付ける奴は許さねぇ、死ね」の流れだと思ったが…。
とゆうか、下僕だと?
「なる訳ないだろ」
「ははっ、ならその女を俺に献上しろ。その舐めた態度と顔とプライドが歪まない内に下僕になれよ」
さっきまでアルスのことに気づいてなかったのか、今では視線をアルスの足から顔まで舐め回すように見始めて、鳥肌が立つ。
「あー、こんな人間あっちの世界でもいなかったぞ。個々人が強大な力を持つと勘違いしちまう奴だって出てきてしまうよな」
「あぁ?何言ってんだてめぇ」
「うるさいよ。静かにしてくれ」
“重力付与”
「アガッ!?」
巨漢の男はその恵まれた体型も虚しく、地面へ思いっきり這いつくばってしまう。
俺の与えた重力が強すぎて、地面にどんどんめり込んでいく。
「心が薄汚れた人間は土に帰らないとな。せめて地面様の栄養となってくれ」
「ちょっ、ゆうきさん!私は大丈夫ですから!」
「はいはい〜、ちょっとその魔法解いてくれるかな?」
俺の蹂躙劇に割り込んできたのは試合の時に試験官をしていたあの教師だった。
アルスが大丈夫って言っているし、ここで教師にマイナスな印象を与えても良くない。
ここら辺にしといてやるか。
「お、凄いね君の魔法。今のを見た感じ重力を操る魔法?それとも重量を操る魔法かな?魔法使いの私としては気になるなぁ〜?」
「秘密です」
「ははっ、魔法使い同士の魔法の詮索は御法度だもんね〜。とりあえず君とその女の子はSクラスだよ。時間通りには教室にいてね」
え…?何その暗黙の了解…、初めて知ったんだけど…。
「とゆうかあの人魔法使いなのかよ!あの時ドッペルゲンガーを手刀で倒してたような…」
とんでもない怪力魔法使いか…?
まぁいいや、とりあえずSクラスなる場所に行くとしよう。
しれっと言われたが、アルスと一緒の教室なのは嬉しいな。
クラスを組んだ人、ナイスチョイスだ。
「良かったです〜、一緒のクラスで!それにしてもSクラスってなんですかね?」
「さぁな。とりあえず行ってみようか!」
初日にいきなり事件があったが、何とか入学出来て良かった。
何故、俺がこの世界で学校に入学したのかと言うと、それはこの世界の神様を倒す為だ。
俺をこの世界に誤って飛ばした神様ルメによれば、この世界の神の干渉が無くなれば、ルメ側から干渉が可能になり、転移も出来るようになるんだとか。
だから俺はこの世界の色々な情報を得るために、まずは学生という身分を使って、魔術や剣術を学んだり、知識として取り入れたりすることで、戦いを有利にして世界を危なげなく探索する方法を取り込もうという算段だ。
この世界には神がいるのかいないのか、という議論では、俺はいると考えている。
人智を超えた力を与えてくれたあのルメのような神もいるのだから、ほかの神がいてもおかしくない。
「まぁ、細かいことはおいおい調べていくか。この体、この世界は今すぐ滅びるって訳じゃないしなぁ」
こうして俺の学校生活が始まるのであった。
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