第8話 意思
アルスが長々と説明をしていたので、自分なりにそれを簡単に纏めて見る事にする。
現在、この世界は二月の終わりくらいだそうだ。
そんな時期にあるのは学校の入学試験、つまり剣魔学校の入学試験が近頃あり、それを受験する為にこの王都に来たのだという。
それで、入学試験というのは基本的に実技が八割を閉めており、残り二割が筆記試験らしい。
そして、その実技試験の中にはペアで行う試験もあるから、入学試験が始まるこの時期はペアを探す人が多いのだという。
「本来は当日にペアを作ることが推奨されているらしいですが、そこでペアを作れなかったら試験にも影響するので、試験前にペアを作る人が多いんだそうです」
なるほど。
この世界の入学試験は実技が八割を占めているのか。
まぁ、この魔物がいる世界の剣術と魔術の学校だから、当然なのだろうな。
「なので頑張りましょう!受かったらいいなぁ〜、一緒のクラスになれたらいいなぁ〜」
座っているアルスが足をバタバタとさせて、今後の学校生活を妄想させている。
自分の好きなことを学べるとなったら、そりゃあ楽しみだろうな。
「あぁ、頑張…。ちょっと待って。俺も入学する流れになってるな!?」
「え?てっきりゆうきさんも入学試験を受けるのかと…」
…なんだか気まずい雰囲気が流れているな。
確かに色々聞いておいて、あの流れで断るのはおかしいよなぁ…。
けど、行く必要も無い訳で…。
色々考えている時は思わず周りの警戒を解いてしまうものだ。
ここが人気のない裏路地ということと、日本という安全な国ではないことを忘れてしまっていた。
「…!ゆうきさん危ない!」
「え?」
アルスの声が聞こえた瞬間、後頭部に鈍痛が響いた。
背中に冷たい液体が流れるのを感じた時にはもう、意識は遠くなっていく最中であった。
―――
「うぅ…」
後頭部の激しい痛みと女性の悲鳴が聞こえてきて、ぼんやりと意識が覚醒していく。
手は何かで縛られているのか動かすことは出来ない。
「返して!!」
女性の…、いやアルスの声が鮮明に俺の耳に届く。
焦りを孕んだその声は、震えながらも声量は大きく薄暗い部屋に響き渡る。
「これは高そうだな」
「あぁ、装飾も宝石をあしらわれているしな」
「今回のは高く売れそうだ」
そんなアルスの声に目もくれずに、ごにょごにょと剣を見て何かを話し合っている男が数人。
多分アイツらが俺たちを襲った張本人だろうな。
腰に携えるのは短剣であり、顔を隠すように包帯を巻いていたり、盗品で売買の話をしていることからも盗賊の類であるのは間違いないだろう。
「お、起きたか男。お前には特に用はないから、大人しくそこでじっとしていろ。そうしたら助けてやる」
意識が覚醒した俺に向かって盗賊はそう言い放つと、アルスに他に盗める金目のものがないか身体をベタベタと触っている。
「ワン…」
近くでモフカの声がすると思ったら服の中に隠れていたようだ。
「モフカ、今は動くなよ」
モフカに指示を出して、この状況をどう切り抜けるべきか考える。
…しかし、助けてくれるのならこのまま待機してもよさそうだ。
アルスには悪いが、争って怪我をするくらいならじっとしていた方がいいだろう。
この世界では簡単に人は死ぬのは、魔物を見てから承知している。
感情に任せた行動は厳禁だ。
「私の大事な宝物…!返してよ!」
アルスのその声が、やけに俺の脳内に響いた。
その理由はその一秒後に理解出来た。
「…そういえば、同じようなことを言っていた幼なじみが俺にもいたんだっけか」
俺が小学生の時、俺があげた絆創膏を貼らずにずっと持ち歩いていた幼なじみが居たな。
そんな、どうでもいいような絆創膏をいじめっ子達に奪われてしまうということがあった。
その時にもそいつは、今のような言葉を叫んでいたんだった。
後でなんでそんなことを言ったのか聞いたら、なんか言ってたが忘れてしまったな。
だが、宝物を奪われる悲しみは、そいつの必死の目で俺に伝わったんだったっけな。
「おい、お前。何をしている」
盗賊のひとりが俺の雰囲気が変わったのに気づいたのか、警戒を強める。
「はっ、何が感情に任せた行動は厳禁だ、だよ。よう、盗賊。人の物盗むとか俺はそういうの許せないタチなんだよ」
手に括り付けられたロープをイメージして、“強奪”を発動させる。
瞬時に俺の手元にロープが強奪され、俺は自由の身になる。
「ゆうきさん…!この人数「行けるよ。君の大事な剣は俺に任せて。あ、あとモフカを頼むよ」
服の中からモフカを取り出して、アルスに託す。
ロープを解いた俺の目の前に立ちはだかるのは、三人の盗賊グループだ。
勢いよく格好つけたものの、強奪の力がどこまで及ぶかを完璧に理解している訳では無いから、不安要素は多少ある。
一人ずつ心臓を強奪してしまえば、それで終わりだが相手は人間だ。
相手が盗賊であろうと、そんな残忍な方法はなるべく選びたくない。
だから、殺さずに徹底的に分からせる。
「お前一人で俺たち三人と戦おうってか」
盗賊たちはにやにやと俺を小馬鹿にしたように笑い合うが、視線は絶対にこちらから外さない。
その様子から言葉ではヘラヘラしていても油断をしていないことが理解出来る。
だてに盗賊をしてきた訳じゃないらしい。
さて、こいつらに窃盗は行けないって教えてやらないといけないな。
「戦う?違うよ、これは実験だ」
「はっ、何を言って…」
“強奪”
そう唱えると、とても重たい金属の塊が手中に収まる。
地下を照らす明かりに照らされて、刀身が輝きを見せる。
「…!?お前、あの剣は…」
「クソッ!スキル持ちか!」
盗賊たちは即座に判断し、腰から短剣を取り出し三方向に分かれながら俺に飛びかかってくる。
「これでてめぇは終わりだ!!」
盗賊が吠えたその瞬間、俺は既に強奪を終えた手中を見つめていた。
手からは真っ赤な液体がボタボタと滴り落ちていく。
「あ?なんだ…、急に目眩が」
「耳鳴りも、頭痛もしてきやがる…」
盗賊たちは、バタバタとその場で立てなくなり座り込む。
「言っただろ。実験だって」
そう、俺はこの盗賊たちの血液を強奪して少し重い貧血を起こさせた。
貧血になる量は勘だったが、何とか成功したようだ。
抜き取りすぎても死んでしまうだろうし、この調節はしっかりした方がいいな。
まぁ、なるべくなら血を強奪するのはやりたくない…、手が汚れる。
「ふぅ、何とかなったぁ」
ははっ、俺も大概盗賊みたいな力を持っているんだけどな。
「はい、アルス。君の剣だ」
そう話しかけるも、アルスはボーッとして動かなくなっていた。
え、間違ってアルスの血も抜いたか…?
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