第9話 驚愕

「すごい!すごいですよ!」


 興奮して手足をじたばたさせているのが可愛いアルスだが、間違って血を抜いちゃった訳ではなく、驚いて動けなかったらしい。

 その反動で興奮を抑えきれないのだとか。


「わ、分かったよ。落ち着いて…。とりあえず今日泊まるところに移動しよう。ここには何があるか分からないし、長居する必要は無いから」

「そうですね!それで、この盗賊たちはどうしますか?」

「どう、とは?」

「この人たちは最近この付近で悪さをしていた盗賊のようです。先程、この街を歩いている時に手配書を見つけました」


 この三人は有名な盗賊たちなのか。

 今回は勝てたけど、俺じゃなくて一般人が被害にあってはたまらんし、警察に連れていこう。


「なら、連れていくか!それで、どこに連れてけばいいんだ?」

「ですね!ギルドに連れて行けば大丈夫だと思います!行きましょーう!」


 ギルド…、警察署みたいなもんか?

 まぁいいや、この街この世界に詳しいアルスがいれば大丈夫だろう。


 ―――


 私の名前はアルスです。

 十五歳になったので、剣魔学校に通うために王都ピーコックに来ました。

 王都に入る門の途中で、言葉が分からないらしい犬を引き連れた男の人と知り合いました。

 カフェに連れていき、事情を何とか聞き出して、これからどうするか考えている最中、突然男の人が発狂し始めました。

 しかし、その時に男の人の言葉が理解出来るようになったのです。


 どうやったのか聞くと、翻訳魔法なる魔法を使ったというのです!


 私は興奮して思わずペアになって欲しいとお願いをしてしまいました。

 ですが、裏路地にて事情をお話している途中、あろうことか盗賊たちに殴られて気絶してしまいました。


 でも、ゆうきさんは謎の魔法を使い盗賊たちを一瞬で制圧してしまったのです!


 それで、ゆうきさんのペアの了承待ちな私ですが、今は盗賊を引き渡すためにギルドに来ていました。


「こ、この三人組は…!少々お待ち下さい」


 そう言うと、ギルドの受付の人は血相を変えて階段から二階に猛ダッシュで走っていってしまいました。

 その騒ぎに気になったのか、周りにいる冒険者たちも私たちに視線を送ります。


「へぇ、ギルドって飲み屋だったのか。でもなんで飲み屋に盗賊を…」

「い、いえ。ギルドは冒険者たちの飲み場所でもありますが、お仕事を受けるための場所ですよ」


 そんなことお構い無しに疑問を呟いていたゆうきさんに、私は訂正をします。

 しかし、何故受付の人は二階に猛ダッシュをして行ったのか…。


「突然走りたくなった…?」

「ワゥ…」


 モフカちゃんがこちらを見て、それは違うでしょ、みたいな視線を送ってきました。

 しかし、この子は人間の言葉をちゃんと理解しているようで、ものすごく賢いです。


「やぁやぁ、若いそこのお二人さん。是非とも二階にある応接室の方へお越しください」


 コツンコツンと階段を優雅に降りてきた方は、年齢四十歳程度の赤色の髪を靡かせた容姿端麗の女性でした。

 ですが、格好は冒険者のような地味目な色の機能性を重視した服を着ていて、歪な見た目の人です。


 私たちはその人に案内されて、応接室について行くのでした。


 ―――


「いやぁ、ありがとうございます。この者たちは最近ここいらで悪さをしている極悪人でしてねぇ。人も殺しているんですよ」

「そうか」


 あそこまで慣れた連携をするのだから修羅場は何回も潜ってきてはいるとおもったが、やはりそうだったか。

 本格的に日本とは違う文化に触れて一瞬戸惑いはしたが、これがこの世界の普通なのだろう。

 街並みや食べ物を見ても現在の日本とはかけ離れた文化レベルだし、生きるか死ぬかの瀬戸際の者はその道に走ってしまうのは理解はできないが納得は出来る。


「さて、この者たちを連れてきたということは手配書をご覧になったのだろうと思います。報酬は金貨百枚ですよ」


 横に立っていた綺麗な正装の紳士風のイケおじが、大きめの麻袋を机の上に置いた。

 ジャラジャラと音が鳴っていて大量の金貨が入っていることが容易に想像出来る。


「…ちなみにアルス。これはだいたいどれくらいの価値があるんだ?」

「え、えっと…。いくらでしょうね…?」


「貴方たちこの金貨の価値が分からないの!?そんな常識ない人がこの世に!?」


 座っていた椅子から急にガタンと立ち上がり、ドン引きしたような形相でこちらを見下してくる女の人。

 いや、すごいナチュラルにディスってくるなこの人。

 でかい乳に比例して態度もでかい様だな。


「いやらしい目で見ないでくださいな」

「え!ダメですよ、ゆうきさん!そんな目で見ちゃ」

「あー、ハイハイ分かった分かった。それでどれくらいの価値なのか教えてくれるか?」


 その人は呆れたような顔になり、ドカッと椅子に座って紳士風の男の人になにやら指示を出した。

 しばらくして、色々書かれたホワイトボードのようなものが運ばれてきた。


「さて、お金の価値も分からないということは私も何者か理解されてないのでしょうから、まずは私の説明を」


 どこから持ってきたのか指し棒で、ホワイトボードに書かれた資料に視線を向けさせる。


「私はこの王都ピーコックに点在するギルドの運営を任された元Aランク冒険者、ギルドマスターのアダミスです!」バキッ。


 勢いよくホワイトボードを叩いたせいで折れてしまった指し棒を、俺はただ見つめることしかできなかった。

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