第6話 未知
「さて、次は君の魔力の量に関してだね」
「俺の魔力の量ですか?」
しかし、俺にも魔力はあったのか。
魔法と言えば、呪文を唱えると手から炎が出てきたり氷が出てきたりするあれだよな。
まじか…!魔法楽しみ過ぎる!
「そうそう。君の魔力の量はもう既にこの世界の強者と呼ばれる部類の者と同等くらいの魔力量を有しているよ」
「…は?」
「だから、炎魔法や氷魔法は余裕で扱えるよ。良かったね!」
えぇ!?なんでそんな魔力を持っているんだ?俺には魔法の才能があったのか!?
「あ、無いよ。うん、全くのゼロ」
「魔力の量は凄いのに!?」
「はっはっはっ、うん」
全男子の憧れである炎は掌から出せないのか…。
「君は魔法の放ち方を知らないからね。ムキムキの凶悪ゴリマッチョが人を殴る方法を知らなかったら、攻撃は出来ないのと一緒だよ」
「なら!その方法を知れば俺も魔法を放つことが…!」
「うん、出来るよ。その魔力量から放たれる魔法はえげつなさそうだけど〜」
「撃ち方教えてください!」
「やぁ〜だ。めんどくさいし、何よりめんどくさい。大事なことなので二回言いました」
くそぉ…、この人は人をイラつかせる才能を持っているようだ。
「とりあえず、教えたからね〜!あ、あとステータスオープンと唱えると自分の状況を確認出来るよ!じゃね!」
ふぅ、話してると疲れる人だな。
兎に角、魔法袋を教えて貰えたのは良かった。
こんな便利な魔法は旅にうってつけだからね。
「あと、ステータスオープンか。ちょっと試してみよう」
“ステータスオープン”
そう唱えると、目の前に薄い半透明の本のようなものが出現した。
そこには俺の名前や年齢などが表示されていて、筋力や防御力などは数字として表示されていた。
ざっと確認すると…。
射場ゆうき 十八歳。
Lv 十二。
体力 十。
筋力 十。
防御力 十一。
速さ 五。
魔法力 二。
魔法量 三千五百。
「三千五百…?」
ははっ、二桁くらい文字を読み間違えたか…。
さて、本当の数値は…。
「三千五百…?」
………………。
「筋力の三百五十倍あるんですけどぉぉ!!」
俺の驚愕の声は静かな森に響き渡ったのだった。
―――
「さて、モフカ。そろそろこの森を出ようか」
最後にここら辺にあった木の実やキノコなど、食べれそうなものは全部魔法袋に入れて、ついでに川の水も相当な量詰め込んだ。
魔法袋の中身は他とは混ざり合わず、そして時間も停止するようなので色んなものを好き放題に入れてしまった。
それでもまだ軽いままなのだから、異世界とはなんと素晴らしいことかと感動を覚えた。
「ワン!」
元気な返事で俺の声に答えるモフカ。
なんだかんだでこいつとも一年の付き合いだったな。
これからも、もふもふする為にそばにいてもらおう。
「さて、どの方向に行くかだが…」
前に森で見た人影は、俺から見て左奥を進んで歩いていた。
東西南北も地理も何も分からない状態なので、とりあえずその方向に集落や街があることを願って進むしかない。
幸い、魔法袋に死ぬほど食料と水を詰め込んだので、恐らく一ヶ月以上は旅を続けることが出来ると思う。
それでも、狩りながら食料を集めながら進まないと不安だがな。
こうして俺たちはまだ見ぬ人間を夢みて、方角さえ分からない異世界を突き進むのだった。
―――
「うぅ…、緊張するなぁ」
ここに一人、平原を震える足取りで街に向かう少女がいた。
徐に出る独り言は、ある事への緊張を逃がす為に無意識で行っているのだが、彼女は気づいていない。
背中には剣が携えられており、鞘は汚くボロボロで柄の部分も使い込んでいるためか、色が変色して黒くなっている。
「剣魔学校の入学試験…、なんとしてでも受からないと」
彼女はそう心に決めて、再び歩き始める。
行先は王都ピーコック、色んな種族が入り交じる大陸最大の国である。
―――
歩き始めて一週間が経ったある日、森を抜けて平原に出た。
「おぉ…!これは凄い景色だ」
その平原は遠くの方まで延々と続いていて、日本ではなかなか見れない景色に驚きと興奮を隠せない。
暖かい春の風が頬をそっと撫でて、心地よい気持ちで満たされていく。
「お?あれはもしかして…」
一面を見渡していくと、前方に建物らしきものを見つけた。
石で作られた壁に守られているようで、大きな扉の前には沢山人が並んでいるようだった。
「近くに行かないとどういう状況か分からないな…。行くぞ、モフカ!」
「ワン!」
モフカのいい返事も聞けた事だし、あそこまでひとっ走りするか。
この世界の人…、果たしてどんな出会いがあるのか…!
未知なものに出会うのはこうもワクワクするものだったのか!
俺とモフカは草原を走りながら、その石壁で守られた街らしき場所に向かうのだった。
「@#?※◎☆§!」
「え…?え?なんて…?」
扉の前に並ぶ行列を見て、俺は即座にそこの列に並んだ。
これは恐らく検問のようなもので、怪しい人物を街に入れないためにしているのだと直感で理解したからだ。
そうしたら、何故か槍を持った鎧を着た人が俺に近づいてきて、なにか意味のわからないことを言い始めた。
訳の分からない音の羅列に、頭が混乱していく。
「そうだよ…、ここは日本ではない。俺が喋ってる日本語が通じるわけないじゃないか」
「§☆◎※@#!!」
その門番は槍の穂先をモフカに向けて、威圧するような声で怒鳴っている。
明らかに俺たち…、いやモフカをよく思っていないようだ。
ここは一旦帰りたいが、結局いつかは言葉を覚えるためにこの街に入らないといけないだろう。
ここで追い返されていたら、いつまで経っても前進はしない。
「あの…!」
「§☆◎※〇@?」
俺がその門番に対して反論をしようとしたその時、俺の目の前に女の子が現れた。
相変わらず何を言っているのか分からないが、その女の子は門番に何かを説明しているようでとりあえず助かったと言えるかも。
話がついたようで、その女の子は俺の手を握り締めて一緒に列に並んでくれていた。
言葉は分からないし、はじめましてなのにその手には何故か凄く心が落ち着いて安心出来たのだった。
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