第5話 ゲームみたい!
木の影に身を潜め、日が当たる光の世界を闊歩する巨大牛に目を付ける。
その牛が近くによるだけで、生物達は一斉に逃げ出し、森がザワザワと騒がしくなる。
俺は影から光へと移動し、牛の背後に堂々と、そして見下す様に立ち構える。
「おい、牛」
その声でこちらの存在に気づいたのか、牛は巨大な身体を器用に動かして後ろを振り向く。
牽制か威嚇か、その牛は牙をニッとチラつかせ鼻息を荒くしている。
だが、そんな事では俺はビビらない。
俺の態度を悟ったのか、牛はギリギリと歯軋りをし始めて、イラつきを抑えようともしない。
そして、その勢いのまま牛はその巨体を活かしたタックルを俺目掛けて行う。
「お前の命、文字通り貰うぜ!」
“心臓強奪”
その牛の運動エネルギーは次第に弱まり、俺の目の前によろよろと近づき、そして力なくドスンと横に倒れた。
俺の手には牛の心臓が…。
「ウギァァァ!」
「ワン!」
モフカの鳴き声で冷静さを取り戻し、牛の心臓を静かに牛の隣に置く。
「お前の命、俺がしっかり活用するからな」
そう言って俺は牛を引き摺りながらも、拠点に持って帰るのだった。
「さて、料理するか。モフカも腹減っただろうしな」
「ワン!ワン!」
俺は骨包丁を取り出し、牛の肉をどんどん解体していく。
首にある太い血管を切れば血抜きが行われ、仕上げに水で洗い流せば大体は血抜きが完了している。
「しかし、ここに来てもう一年か…!今日の分の正の字を書けば…、七十三個目の正の完成だ」
壁にびっしりと書かれた正の字を見て、何故か達成感を覚える。
こういうのはなんかマメにやっちゃうタイプなんだよなぁ。
しかし、俺はよくこの一年死なずに済んだな…。
最初は小さい動物や魔物から狩り始めて、今ではあの巨大牛を倒しているのだから。
「こいつの半分は今日のご飯にして、半分は干し肉にしよう」
近くの洞窟で何故か岩塩が取れたので、その塩で乾燥させる。
この近くは元々海だったのかなぁ、なんて想像をしてみるが、意味の無いことだ。
こうして、俺の干し肉達は大量に生産されて、かなりの量になった。
あの牛との戦いは下手したら死ぬのであまり戦いたくないが、保存食の為に仕方なくだ。
ふむ、何故俺が干し肉をこんなに作っているかって?
それは旅に出るからさ!
ここに一年暮らしてて、俺が見かけた動物や魔物はかなりの数だ。
その中でも一番興奮したのが、人間らしい影が近くを通ったことだ。
接触は出来なかったが(ビビったから)、なにかの言語を喋っていることは理解出来たので、人間がいることは確実なようだった。
「さて、この拠点とは暫くお別れだな。牛の皮で作ったバックに干し肉を詰め込んで、水は持てないので諦めて、モフカも持って、いざ出「あ、久しぶり射場ゆうき〜」ぱつぅ…?」
「「!!」」
この声は一年前によく聞いたことある声…、ルメだな!
「久しぶりです!一発殴らせてください!」
「なになにぃ、物騒じゃぁん。僕怖いめぅ…」
おおっと、この感情久しぶり。
この感情の名前は、怒りだな。
「ウザイです。一生のお願いをここで使うので、一発殴らせてください」
「死杜誠はもう使ったでしょ〜?我儘ボーイだなぁ」
…この人と話してると気がおかしくなりそうだ。さっさと本題に入ろう。
「それで、なんでいきなり現れたんですか?」
「そうそう、君に色んなこと伝えるの忘れてたって思ってね」
「色んなこと?」
「うん!君には
この人、こんな大事そうな話を一年間し忘れていたのか…?
神だから時間感覚がバグってる?
「聞こえているからね。まぁ、あれだよ。消しゴムの二個あるうちの一つを落としたけど、拾うの後回しにしてたら忘れてた、みたいな経験あるでしょ?あれと似た感覚だよ」
「いや、あれと似た経験だよって言われても」
そういえばこの人、人の心読めるんだったな。
しかし、自由を極めた人だなぁ…。
「魔法袋とは、自身の魔力で作る小さな袋のことだね。とりあえず、魔法袋って唱えてみて」
「なるほど…?では…」
“魔法袋”
そう唱えると、自身の目の前にキラキラと光る物体が現れた。
それは、ゆっくりとした速度で落下をし始めて、次第に俺の手の中に収まった。
手に触れた瞬間、そのキラキラとした光は霧散して、手元には鞄が出現した。
形状はショルダーバッグで、大きいとは言えないが物凄く小さいとも言えない。
所謂、普通くらいの大きさの鞄だった。
「それが魔法袋。鞄なのに袋なのは、君のイメージが地球の鞄だったからだね。因みに、中は異空間となっていて、自身の魔力の量に比例して容量が大きくなっていくよ」
「すご!本当になんでも入るんですか?」
「そうだよ〜。凄いね〜」
俺は鞄の中身を見ながら、干し肉だったり牛の余った遺骨をバンバカ入れていく。
するりと全て入っていき、ここ一年で集めた素材が全部収納されてしまった。
驚きな事に、その重さも感じないようで何も入っていない鞄を持っているような感覚だった。
「さて、次は君の魔力の量に関してだね」
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