第4話 課題
暖かい朝の日差しが、顔面に直撃して眩しさに不快感を覚えて目を開ける。
目を開けた先には、モフカが「へっへっ」と息を荒くしてヨダレを垂らしている。
「…やぁモフカ。相変わらず口が臭いな。だが、口の臭さ程度では、お前の可愛さは失われないだろう」
垂れてきたヨダレを間一髪避けて、華麗に立ち上がる。
朝になって初めてモフカの容姿を見るが、灰色の柴犬としか言いようがないくらい俺が見たことある柴犬、そのものだった。
だが、目は赤色だし、爪はかなり発達しているようで、柴犬とは全く別の野生に適応した魔物なんだろうな。
「さて、あの飛ばされた時からかなりの時間が経って、労働もしてかお腹が空腹だ。まずは食料を取りに行こう」
俺がそう言うと、モフカはワン!と元気よく吠える。
俺の言葉を理解しているのだろうか。
容姿は犬そっくりだが、俺の知ってる犬とは全くの別物。
取り扱い注意だな。
あれから数時間ほど経って、今日分の食料を確保してきた。
モフカは途中で食べていたようで、ほんのちょびっとしか集めていなかった。
「まぁいいや。その日、飢えなければとりあえずはそれでいい」
一人と一匹が取ってきたのは、草やキノコ、木の実などのそこら辺に落ちていたものだ。
これではいつか取り尽くしてしまい、この拠点を離れなくては行けない時が来る。
「あ、今お前…、俺が持ってきたキノコ食べた?」
そこで、それを未然に防ぐ為に三つの選択肢があると俺は考える。
一つは、ここに停滞しながら、この巨大牛の遺骨を武器として加工などをし、“強奪”で狩りを行うことだ。
だが、魔物は俺の常識では測れない強さや凶悪さを孕んでいるから、当然死と隣り合わせになるし、俺の気持ちが負けた瞬間に死が確定すると言っても過言ではない。
「やっぱ食べてるな!…ちょ、うわぁ…、吐くなよ。怒ってないから、それはとりあえず食えよ…」
二つは、折角掘りまくって手に入れた地下空間を捨て、拾い食いをしながら俺と同じような話が通じる種族や、出来れば人間と出会うことだ。
だが、これにもリスクが伴う。
寝る時は危険と隣り合わせになり、近くの川での水分補給が出来なくなったり、そもそも話が通じる種族が見つかる可能性がないことも有り得る。
三つは、この両方を行うことだ。
少しづつ移動しながら、狩りに慣れていったり、食料を回収すれば比較的安全だろう。
川を下りながら移動していけば、水分の方は安心だし、もしかしたら村などが見つかるかもしれない。
だが、慣れない土地が連続して続く為、疲労や魔物のテリトリー内に入る可能性、毎回拠点を掘るなどの体力的な面での不安がある。
「これ以上はやらんぞ。とゆうか料理した方が美味いから少しは待て」
俺の持ってきた食料を摘み食いしようとするモフカを牽制しながら、色々考えを巡らせていた。
だが、結局死んだら終わりなので、一番安全の一つ目の案が妥当だろうな。
「この近くの生態系を理解しつつ、“強奪”と“付与”の性能を詳しく知ると共に、安全に食料を獲る。これが今の課題だな」
やることが決まった以上は、それに向けて突き進むだけだ。
今日はとりあえず、周りの生態系の調査でもしてみるか。
「さて!一丁この世界で生き抜いてやりますか!なっ!モフカ!」
「ワン!」
こうして、ここに一人の青年と一匹の犬(?)による、不思議な地下空間共同生活が始まったのであった。
―――
地球、神界・審判の間。
そこに佇むは一人の青年。
その青年はただの青年ではなく、死した人々に
名をルメ、この世とあの世の案内人である。
そんな彼は今日も今日とて死した人々を天国に案内する仕事をこなしている。
「え〜?君、死杜誠いらないの〜?死杜誠って言わば
まぁ、天国はそんな感情すら忘れてしまう程に楽しい場所であり、永遠に喜と楽を味わえる場所だから大丈夫だとは思うけど…。
「あ、考えるのめんどくさいな。君天国に行ってらぁ〜」
しかし、ここで僕に天国に案内されなかった人は一人もいない(失敗して送り間違えた以外)から、審判の間とは名ばかりの場所だなぁ。
「あ、そういえばイレギュラー君を違う世界に送っちゃったんだった。あの人どうしてるかな」
そう思い、僕は何も無い空間に向かってぐるっと人差し指で円を書いた。
円が繋がった瞬間、あちらの世界の射場ゆうきと縁が繋がり、現在の彼が映し出される。
よく分からない犬みたいな生物とキノコの取り合いをしている様子が見える。
「ふむ、しっかりと生きているようだね。何とかこっちに帰還出来ることを祈っていよう。あ、そういえば“強奪”と“付与”の説明、無茶苦茶端折って教えたような…。まぁいいか、頑張ってね。射場ゆうき」
そう呟いたら、目の前にまた死した人がやってきた。
「おや、君は…」
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