第3話 衝動
「と、言ったもののこれからどうすればいいんだろうか」
今俺が持っているものは、ルメから貰った
まずは生きる上で食料を探さないといけないのだが…。
「果たしてこの牛は食べれるのだろうか」
目の前には無傷で転がって死んでいる巨大な牛がいる。見た目外傷はないが、強奪により心臓を奪い取られて即死している。
しかし、外傷もなく心臓を奪い取るとは、まるでククルーマウンテンに住むとある白髪の一家みたいだ。
まさに常識では理解出来ない超常的な力だな。
「そういえば付与の方はどうだろうか?ルメによると己のあらゆる物を付与する力らしいが…」
今度は近くの木に向かって、付与を使うことにする。とりあえず自分の上着を木に付与するイメージを固める。
強奪の力は相手に気持ちで負けては発動しないが、付与の方はどうだろうか。
まぁ、木相手に気持ちもクソもないが…。
“付与”
すると上に来ていた上着がスンッと一瞬で脱げて、木の枝に引っかかった。
なるほど、物体が瞬間移動して付与したり強奪したりしているのかな。
と考えながら木の枝に引っかかった上着を取り返す。
強奪は相手の心臓を奪えば一瞬で倒せるが、付与はどういう力なんだろうか。
自分の物を付与することになにか価値が見いだせるのか分からないが、それは今後の課題だな。
「さて、さっそく人間に不可欠な食事なのだが…」
目の前に牛がいることはいいのだが、解体方法や調理方法が分からない。
そもそも、包丁がない為どうすることも出来ない。
と、なるとまず優先すべきは衣食住の住の部分だな。
こんな巨大牛みたいなのがいるのが普通なこの世界で、生き抜くためには安心出来る家がないとまずい。
だが、どうするべきか分からないな。洞穴や空洞があればそこに住めばよさそうだが、そう簡単に見つかるはずがない。
「…まてよ?」
強奪で地面をくり抜いて、そこを某四角ゲームよろしく、自分で洞窟を作ればいいのか。
「試しに…、地面を真四角でくり抜くイメージを固める」
“強奪”
「うぉぁ!重っ!」
幅にして五十センチメートル四方の四角形がくり抜かれて、俺の手元に瞬間的に移動した。
目の前の地面は綺麗に真四角でくり抜かれて、凹んでいる。
「よし、これなら行けそうだ。洞窟がないなら自分で掘って住めばいい!サバイバル魂が疼くぜ!」
自分自身にそんな魂はないだろう、とツッコミを入れて洞窟を掘る作業を着々と進めていくのだった。
―――
「いやぁ、掘った掘った」
俺は額から流れ落ちる汗を拭いながら、地面に掘られた七畳ほどの空間を見て、達成感を感じていた。
土で作られた階段の上の出入口からは月明かりが差し込んできて、地下空間をほんのりと照らしてくれている。
階段を上がると、その周りは土壁が形成されていて、周りからはこの出入口が見えずらい用に工夫されている。
「人間相手からはこの土壁は違和感あるだろうが、魔物相手なら大丈夫だろう。早速、あの巨大牛を地下空間に運び込んで、保存しよう」
そう思い、巨大牛を倒した場所に戻ると、そこには骨になったあの巨大牛がいた。
近づいて確認すると、骨の周りの細かい肉まで丁寧に食べられているようだった。
「骨は折れたり無くなったりしていないな。つまり、小さい動物や魔物が食べたって言うことだろうか」
考えても仕方ないか。
骨は固くて武器に出来そうだし、食べられたのは悲しいが、地下空間に持って帰ろう。
夜は周りの見通しが悪いから、魔物に遭遇しても対処できない可能性があるから早くしないとな。
「…ふぅ、こんなもんか」
目の前に積まれた骨の山を見ながら土で作った椅子に腰かける。
「しかし、何者が食べたんだろうなぁ…。骨も何本あるんだろうか」
「ワン!」
「いや、
「「!?」」
咄嗟に椅子から飛び退き、その「ワン」と言った何者かから距離を取る。
月明かりでよく見えないが、そこには犬のようなシルエットが浮かび上がっている。
身長は約三十センチ、赤色に輝く眼光に高速で動き回る尻尾…。
「いや、犬ぅ!!尻尾ぶんぶん振りまくってる!」
人間とは「もふもふ」する衝動からは逃れられないものだ。
しかも小型犬くらいの大きさで非常にモフりやすい。
「…ワン!」
俺のもふもふ攻撃から何とか逃げたその犬は、少し距離を置いて吠えている。
嫌われたかと思ったが、未だにその尻尾は高速で動き回っている。
「…もしかして懐かれたのかな?」
「ワン!」
「ふふふっ、そうかそうか。ならお前の名前はモフカだ!もふもふしてるからな」
「ワン!!」
「うぇ…!?」
モフカのその鳴き声が聞こえた瞬間、身体に倦怠感が襲ってきた。
立っていられなくなり、吐き気や頭痛までするようになってきた。
「な、なんだこれ…。苦しい…」
目の前でモフカが尻尾をブンブンと振りながら、心配そうに俺の顔を舐めまくっている。
「クソ…、まじかお前…」
まさか、モフカ…お前…。
そんな…嘘だろ…。
「口、クセェ…」
その言葉を最後に俺の意識は暗闇へと誘われたのだった。
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