第2話 力
ドテッ!
「痛っ…。今度はなんだ…?」
空中に投げ出された後に、無事背中から着地して全身が痛い俺だが、周りは一面クソ緑で穏やかな風が吹いている場所に一人ポツンと立っている。
『ご、ごめんねー!大丈夫?』
空から…と言うより直接頭に響いてくる聞き覚えのある声。
この状況は、あの時の「あ、やべ」が原因でこうなっているっていうことなのだろう。
『間違って君を地球とは別の世界に飛ばしちゃって…、てへ』
「一発殴りたいので目の前に来てください」
『あ、ちなみにこの音声は、君がその世界に来た時に流れるようになっている録音だから、何言っても聞こえないよ』
クソ…、あの人はマジでろくな死に方しないだろうな。
『ちなみに今言った話嘘だよぉん。ろくな死に方?ぷぷっ!もう死んでるっちゅうの!』
我慢だ…。こんなことくらい笑って許せるくらいには心を広く持たなければ…。
「やっぱ許せねぇ!」
『そのことは本当に申し訳ないと思っているよ。天国に行くはずだった君をちゃんと送れなかったこと、本当にすまない』
「…次からは気をつけてくださいよ。さぁ、話が終わったのなら俺を早く天国に連れてってください」
『あー、その事なんだけど…無理っぽい』
『「……………」』
「はぁ!?」
何も無い平原に俺の断末魔にも似た絶叫が響渡った。
―――
『僕その世界の理に干渉できないからさ。時空間転移はその世界の理を超えた力だから無理なのね』
え…?じゃあ俺はこの得体もしれない未知の世界で生き抜けってことか…?
『そうなるね。だが帰れない事も無い。そちらの神に干渉して送って貰うか、自分の力で時空間転移をするか。まぁどっちも万が一にも有り得ない事象だけど』
「なら、どうするんですか。ちなみにここはどんな世界なんですか?」
『ふむ、そうだね。確かにその世界の説明が必要かもね。この世界は剣や魔法、魔物がいる所謂ファンタジーのような世界だね。弱者は淘汰され、強者だけが生き残れる世界』
「に、俺は一人投げ出されたと」
『そうなるね!!』
「うおおおおい!!百発くらい顔面を殴らせろぉぉ!!」
『安心してよ、君にはこの世界で生き残れる力を与えてあげる。時空転移の干渉は出来ないけど、力の付与は出来るよ!』
その声と同時に俺の身体に何か変化が起こった様な気がした。何が変わったか分からないが、変化があったことは確実に理解出来る。
『君に与えた力は
「え?牛さん?」
俺が周り右をして、後ろを振り向くとそこには六メートルは下らない巨大牛が拳大のヨダレの雨を垂らしていた。
「ウモオオオオオオオオオ!」
『ゆうき!億さずにその牛の心臓を奪え!強奪の発動条件は相手に気持ちで勝っていること、ただ一つだよ!』
「こ、こんな魔物に億さずにいられるかよ…!助けてくれ!」
巨大な牛の魔物はどんどんと歩みを進め、遂には俺の目と鼻の先にまで来た。
そして大きく口を開けて、俺の頭を飲み込もうとする。
俺は腰が抜けて、ギリギリその噛みつき攻撃を避けることに成功した。
だが、次は――ない…。
『なんでゆうきって名前付けたか忘れちゃったの!』
その声を聞いた瞬間、とある記憶が俺の脳内を超高速で駆け巡った。
「母さん、なんで俺の名前ってゆうきなの?」
「それはね、なんにでも挑戦して打ち勝つ勇気のある子になって欲しいって思ったからだよ。お父さんと考えたの」
「そう、なんだ。勇気…、俺この名前…」
ハッと現実世界に意識が戻される。
目の前には口をあんぐりと開けた間抜け面の牛がいて、今にも俺を食べようとしていた。
「ふっ。母さん、この名前にしてくれてありがとう。俺、この名前…!」
「「最っ高にかっこいいって思うぜ!!」」
“強奪”
そう唱えた瞬間、掌に生暖かい感触を感じた。
掌を開けてみるとそこにはドクンドクンと脈打つ心臓が…。
「ギャァァァァア!!」
『…折角かっこよかったのに…』
俺はその心臓を手放し、近くにあった川で十分くらい手を洗いまくった。
『そういえば、さっきは射場夏美の声を使って悪かったね。こうするしか無かったけど、申し訳ないことをしたと思っているよ』
あの時、母さんの声がしたと思っていたけど、彼が声を変えてたのか。
「そういえば、あなたの名前は?」
『僕かい?僕はあの世とこの世の仲介人、ルメだよ。よろしくね』
ルメ、か。この人がいればこの世界でも暮らしていけそうだな。
『あ、ちなみに僕はずっと君と話せる訳じゃないから…。あ、通信切れそう。じゃあ、またやばそうだった僕を呼んでよ!話し相手くらいにはなれるからね』
えぇ…。本当に台風みたいな人だったな…。
考えても仕方が無いな。とりあえずルメから貰ったこの“奪取”と“付与”を使って、この世界で生き抜いてやる。
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