第10話 発見

6月某日土曜日


気付けばあの日から一ヶ月近くが経とうとしていた。

最近は彩葉の絵を描くとに夢中で毎日が楽しい。ただどうしても本物の持つ『凄み』を表現しきれないでいる。

何度か彩葉に剣道をしている時のイメージを聞いても擬音ばっかりの彩葉語の理解にはかなりの時間を要しそうだから諦めた。


そして気付けばインターハイの個人予選の日が来た。

なんと彩葉は他の先輩たちを抑えて出場権を獲得した。

私は先輩から「あんたがいるとあいつの調子良いから大会見に来てくれない?」とお誘いをいただいたので、無事に同行することになったので、今日は彩葉の応援と彩葉の勇姿を描けることを楽しみにしていた。


そして早速彩葉の出番となった。

彩葉の公式戦を生で観るのは初めてだ、だから思わずすごくワクワクしてしまう。


そして試合が始まった。

勝負は一瞬だった。

初めの合図で立ち上がったと思えば捨て身の最速面で彩葉が一本をもぎ取った

これだ、彩葉の凄さこれだ圧倒的なスピードの打ち。

素人が見ても洗礼された動きなのがわかる。ただいつもの稽古よりも今日の気迫は段違いで凄いものだった。その後はそのまま時間一杯まで粘り勝利。

そこから準々決勝まで破竹の勢いで勝ち上がっていった。

凄い、その一言に尽きる。一年生がここまで勝ち上がることは滅多に無いらしく先輩たちも盛り上がっていた。


私もそんな彩葉の姿を見て彩葉の『凄み』がどういうものなのか少し理解できた気がする。

そして準々決勝相手は格上の三年。

でも彩葉ならきっと勝てる。

自分が試合に出るわけでも無いのに緊張してしまう。 

彩葉に緊張の様子はなく凛としたいつもの覇気を纏っている。


そして試合が始まった。

試合は延長戦が続いた末に相手に一本取られ敗退。

一年生としてみれば最高の内容である。 


ただそれでも彩葉は悔しそうに泣き崩れていた。

それを見てどうして彩葉が強いのか、彩葉の『凄み』がどうしてこんなにも強いのかはっきり分かった。

負けず嫌いだからだ。彼女は負けたことを本気で悔しがり、そして本気でリベンジをしようとする。だからこんなにも覇気があるのだとそう理解した。


そして私は家に帰るなり慌てて家にある画材を全て部屋に持ち込み絵を描き始めた。

ラフを描く時間すらもったいないくらいの勢いで今の私の描きたいものを描き始めた。


彩葉が私を救ってくれた、あの地獄のような日々から、その彼女の優しさを、彼女の色んな人を笑顔にする明るさを、そして彼女の芯にある根っことも言える強さを、そして彼女の弱さを認め克服する心の強さを私の持てる限りの色と技術を使い仕上げるこの作品。 


本当にこの一ヶ月が楽しかった。

彩葉を観察して、色んな彼女を見つけてそしてそれを一つの作品にする。今まで私がしたスケッチは全て彼女の一部、だから何か物足りなかった。

ただ今日最後のピースがはまった。

だからこれが今の私にできる集大成、今の私に表現できる今の彼女。

きっとこの作品はもっと進化する。

ただそれでも今私にできる最高の作品になると確信できる。

だから私は無心で筆を揮い続けた。

彼女に少しでも恩返しができるようにと、恩返しになりますようにと必死になって揮った。

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