第18話

 さて、農民出身冒険者の合同昇級試験の日まで、まだ時間はある。

 俺はその日、出身地は別だが同じ農民出身冒険者の人達と会っていた。

 利用しているギルドもそれぞれ別である。

 召集には、お金がかかったものの嫌がらせなどの妨害工作が万が一にも無いように、農業新聞の広告欄を使った。

 そのまま、広告を載せたのだ。

 『冒険者をやっている農民たちへ、昇級試験について情報を交換したい。試験を受ける者は、これこれこの日のこの時間に、指定の飲食店へ来られたし』という具合に。

 広告に載せた通り、情報交換が主な目的だ。

 農業新聞とは、その名の通り農民向けに農業ギルドが発行している新聞だ。

 普通の新聞に載るようなニュースから、農業新聞なので新しい堆肥や肥料が開発された、とか、どこそこの国では干ばつが続いて食糧危機にあるとか、やはりどこそこの国ではバッタが大量発生して食糧難になりつつある、とかそんな情報が記載されている新聞だ。

 ちなみに、今日の見出し記事は、王室献上品の梨。

 その初物が出荷されたというものだった。取材先はどうやらこの前手伝いに行った親戚の家である。

 よし、じゃあ、そろそろB級品が送られてくるかなぁ。

 楽しみだ。

 異国の農業の情報も載っているので、農民関係なくそちら出身の人達にはなかなか重宝している情報源だったりする。

 ただ、農民を目の敵にしている人間がこれを読むのか?

 というと、たぶん読む人は少ないんじゃないかなと思う。

 だって農民、農業向けの情報紙だし。

 とある飲食店の、本来なら宴会とかするための部屋を貸し切って、俺が音頭を取り、その情報交換会は始まった。

 ちなみに、貸し切るのに現金少々、残りは実家からの作物の横流しで手を打った。

 飲食店なので、食べ物は各自注文する形だ。

 

 「今日は集まって頂き本当にありがとうございました」


 年齢、性別、種族に、出身地。

 何もかもがバラバラだが、農民出身という事と、冒険者であるという点においてだけ共通点のあるもの達が、この場に二十名ほど集まっている。

 中には、農民同士でパーティを組んでおり代表として参加した人もいた。

 俺の短めな開始の挨拶が終わると同時に、ざわざわと情報交換会は幕を開けた。

 

 「まず、順番に知りたいことを言って貰っていいですか?

 俺が、用意してもらったこの黒板に書いていくので」


 ちなみに部屋には長机を長方形に並べてあり、ぐるっと部屋を一周するようになっていた。


 「それじゃ、時計回りでいきましょう。

 俺から始まって、ぐるりと一周します。

 聞きたい内容が既に出ていたらその時に申告してください」


 そうして、俺は口を開き、言いながら黒板にそれを書いていく。


 【試験官のS級冒険者について】


 【誰が、農民出身者の昇級試験の申し込みを握り潰しているのか?】


 俺が知りたいのはこの二つだ。

 それを書き、順番に出た意見を書いていく。

 この際だから、と昇級試験には関係ない事柄も出てくる。


 【そもそも本当に昇級試験は開催されるのか?】 


 【試験は公平なものか?】


 【どこの冒険者ギルドが一番、農民に対する扱いがブラックなのか?】


 【どこまで、冒険者ギルドを信用できるのか】


 等など様々な『聞きたいこと、交換したい情報』が出てくる。

 そして、それに対する各自の持つ〖答え〗が提示されていく。

 この集まり、その時間が終わる頃には、農民出身者に対して差別的な、現在確認されている冒険者リストまで作成できてしまった。

 いわゆる、農民出身冒険者専用ブラックリストと言ったところか。


 そして、冒険者ギルドの本部内の勢力図的なものがわかったりしたのでかなり有意義な時間を過ごすことが出来た。

 昇級試験もそうだが、農民に対して風当たりが強いのはそもそもそういうのを管轄、決定の場に一人も農民出身者がいないことが分かった。

 多くが高等教育機関で勉強したもの達の集まりで、農民に対する理解がまるで無かったのだ。

 それよりも、寄付と称して金をくれる貴族出身者が手厚いサポートを受けるし、街出身の新人冒険者はまずは万年低ランクの農民出身冒険者を仲間にするよう、一部の冒険者ギルドでは助言されているらしいと言うことまで分かった。

 新人の農民出身者ではなく、ある程度経験を積んでいる農民出身冒険者を選ぶように言い、経験値を積ませる。

 そして、ある程度経験値を積ませることが出来たらそれとなく、農民出身冒険者をパーティから外すように提案するのだ。

 セコいし悪質だ。

 しかし、気づけなかった俺もアホだったなと反省するしかない。

 農民だから、その理由にどこか納得していたのも事実だ。

 もちろん、それは俺だけでは無かった。

 イラつきや、そのまま怒りを現す人までいた。

 馬鹿にしやがって!! 食糧供給ストップさせるぞ!! と叫ぶ人もいた。


 そして、この集まりの最後の最後で、俺はこの場に集まった人達にとある提案をした。


 「皆さん、こんな機会二度とないんです。

 ちょっと、実家にいた時のように、好きに暴れてみませんか?

 害獣やモンスターを駆除する時みたいに」


 と。

 そして、冒険者ギルドから渡された合同昇級試験に関する概要が書かれた紙を掲げてみせた。

 その一点を俺は読み上げた。

 そこには、こう書かれているのだ。


 『どのような方法を用いても構わない。これは実戦とおなじであると考えてもらって構わない』と。


 「実戦、大いに結構じゃないですか!

 なんせ、害獣、モンスターの駆除は俺たちの専門分野です!

 向こうは受からせるつもりは多分ないでしょう。

 だから、目にもの見せつけるチャンスだと思いませんか?」


 自分が絶対的に優位であると考えている者の鼻っ柱を折って、赤っ恥をかかせることが出来るかもしれないのだ。

 俺の提案に、その場の全員が悪い笑みを浮かべたのは、なかなか愉快な光景だった。

 農民の横のつながりは、えげつないのである。

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