第17話
いいネタになると思ったらしい。
テトさんから、ご飯を奢るからなにがあったのか話を聞かせて欲しいと言われ、了承した俺が連れてこられたのは、大衆食堂だった。
そして、そもそもの冤罪追放事件からこれまでの事を話すことになった。
いや、話すことにしたのだ。
「ほら、前ネタ提供したじゃないですか」
「あの農民だからってやつ?」
「それそれ、それです」
俺は、その時のことを懐かしくも思いながら、脳裏で思い出していた。
あの日、俺はあの女と一緒に行動していた。
それすらも、今思えばあの女の計画のうちだったのだろう。
討伐の依頼を受けた俺たちパーティは、二人と三人のふたグループに分かれて、目的のモンスターの探索を行っていたのだ。
んで、唐突にあの女は俺にこう言った。
『ねぇ、シン君。
お願いがあるの』
『お願い?』
当然、疑問に思った俺は聞き返した。
『うん、シン君ってさ、農民出身でしょ?』
『……それが?』
『みんなの為に、このパーティのこれからの為に、出てってくれない?』
もう耳を疑ったね。
『は? なんで??』
『だって、農民ごときのシン君じゃこれからランクを上げていくみんなの邪魔にしかならないと思うの。ね?
いいでしょう?
それに、ほら、シン君ってその農民って事もそうだけど、なんて言うのかな?
あたしの好みじゃないんだよねぇ』
いきなり、何を言い出しやがるんだこの女、と思ったね。
『このパーティのメンバーはいい人たちよね?
貴方を除いて。
それに、格好いい人達ばかりじゃない?
貴方を除いて』
たしかに、様々なイケメンと呼ばれる顔立ちの奴らが揃ってはいる。
でも
しかし、彼女の中では顔面偏差値が高いことに拘っているようだった。
『出自だってそう。
貴方を除いて、みんながみんな、商人の家の出だったり、大学を出ていたり、貴族の出だったりしている。
文字も書けず、計算も出来ない貴方がここに居るのは間違ってるの。
せめて、あたしの好みに合う顔立ちだったなら残してあげておいても良かったけれど、趣味じゃないし、相応しくない。
貴方はここに、このパーティには相応しくないお荷物なの。
いくら低能な農民でも言葉くらいは理解出来てるわよね?
そんな訳だから、この依頼が終わったらさっさとこのパーティから抜けてくれると嬉しいの!
ね? いいでしょう?』
もうどこから突っ込んで良いのかわからなかった。
農民ってことを理由に、いくつかのパーティから追い出されてはきたが、こんな追い出され方は初めてだった。
そもそも、今までのパーティ連中は『農民だとこれから昇級していくと、お前が自分たちについてこられなくなるから、だからすまないが抜けてくれ』と言ってきていた。
あと、腹の中はどうあれ表向きは申し訳なさそうに言ってきた。
だから、ここまでストレートに農民ということと、何よりも容姿を理由にパーティから出ていけと言われたのには驚いた。
『えー、それはちょっと』
俺が渋る反応を見せたのが、あの女は気に食わなかったようだ。
あからさまに不機嫌な表情になったかと思うと、
『あっそ、ならもういいわ。
死んで?』
そう言って、自分で自分の頬を叩き、服を破き、尻もちをついて、悲鳴をあげて、あたかも俺が彼女を襲ったかのように演出したのだ。
あの女は、冒険者より舞台役者の方が向いていると思う。
そして、
あの女も、元パーティメンバーもそうだが、農民は奴隷か何かだと勘違いしているのではないだろうか?
俺が懐かしさに浸っていると、テトさんが返してきた。
「その話ねぇ、聞いた時は中々衝撃的だったよ」
「当事者の俺も結構、衝撃でしたよ」
「それで今度は都合が悪くなったから連れ戻そうとするんだから、なんて言うかこう」
「迷惑この上ないです」
「だろうねぇ。
あと、どの面下げて来やがったコノヤロー、って俺がされたなら思うけど」
「それもありました」
「しかし、飯炊き係って、ねぇ?」
「ただ自分たちがやりたくない事押し付けてるだけじゃねーか、ふざけんなって思いました。
それに加えて、洗濯に武器の手入れ、スケジュール管理にと色々押し付けられるのは目に見えてましたから、断わるのは必然なんですけどねぇ」
「そういえば、エリィみたいな経験者しかいないパーティだとその辺どうなってるの?」
「当番制らしいですよ」
「やっぱりそうか。まぁ、そうなるよねぇ。公平にするには」
そう、言ってしまえばそれが普通なのだ。
冒険者は実力主義を謳う職業だ。
本来なら身分や出身で差別されたりは出来ないはずなのだ。
しかし、現実は違う。
意図的に下をつくり、差別する土台が出来上がっている。
これを覆すのは、なかなか大変だ。
そして、本来それをするのはギルド幹部だったり、政治家だったりするのだが、やる気が無いのだろう。
そう思えて仕方ない。
お互い苦笑した時、注文した料理が運ばれてきた。
さっきのこともあり、ストレスが溜まっていた俺は料理にがっついた。
それをテトさんが微笑ましそうに見てくる。
「なんですか?」
「いや、たんとお食べ、と思ってね。
もちろんお代わりもしていいよ、出すから」
そいつは有難いことこの上ない。
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