第16話
意外な展開になってしまった。
まさかこう来るとは。
「合同昇級試験、ですか?」
農業ギルドに泣きついて、冒険者ギルドの昇級試験を管理しているらしき人達に圧力をかけることに無事成功したらしい。
その日、俺は今利用している冒険者ギルドのギルドマスターから呼び出され、二者面談を行っていた。
「えぇ、冒険者ギルドの母体、まぁ本部ですね。
本部からそう通達がありました。
これが、昇級試験に関する概要です」
言いつつ、ギルドマスターが一枚の紙を渡してくる。
悪意のある読み方をすれば、
『グチャグチャ騒がれて迷惑だ。今回だけは特別に農民にも試験を受けさせてやる。
その代わり、今回だけ、特別だ。受かる自信があれば受ければ?
ま、そんなの無理だろうけどな。
なんせ、受からせるつもり無いから』
という内容だった。
まぁ、これは意訳だが。
実際の文章は回りくどい書き方だったから、割愛する。
ただ、実際の文章には、農民出身者だけの合同昇級試験と書いてあるのだ。
今回だけは特別に農民だけ、昇級試験を受けさせてやるということらしい。
試験内容は、多分、見せしめもあるんだろうなぁ。
本来なら必要な知識の有無を見る筆記試験もあるが、今回は実技のみだ。
その実技試験の内容は、特別試験官としてS級冒険者が参加するらしく、そのS級冒険者に一発入れるか、倒すかしたらOKらしい。
エリィさんよりも、階級は下の人か。
さらに紙にはこうも、書かれていた。
『どのような方法を用いても構わない。これは実戦とおなじであると考えてもらって構わない(原文ママ)』と。
深読みすれば、どんなやり方を取ったとしてもどうせ落とすけどな、なんせS級冒険者を出したのは、お前らを落とすためだし?
と言うふうに読めてしまう。
あと試験官の名前も記載されている。
あー、この人の事なら知ってる。
農民に対してアタリがキツいことで有名な人だ。
この人に目をつけられた農民出身の子は、実家がある領の冒険者ギルドへと移籍してしまったと聞いた。
うーん、ちょい同じ農民出身の冒険者の子に話、聞いてみようかな。
受けるか受けないか、とか。
俺は受けるけど。
あと、この人に関する情報とかも集めよう。
エリィさんに聞いて、あとは、この人と一緒に仕事したことのある人にも話聞きたいな。
とりあえず、ギルドマスターからの説明も終わり、俺は冒険者ギルドの建物を出た。
なんか小腹空いたなぁ。
どっかで軽く食べようかな。
今日は最初から休みにするつもりだったし。
エリィさんは、ほかのS級以上の冒険者から手助けを頼まれて、そちらに助っ人としてパーティに参加している。
さて、どこでご飯食べようかなぁ。
フラフラと街を適当に彷徨いて、繁華街へと向かう。
その途中で、
「うげ」
名前は忘れたが、元パーティ仲間達と遭遇してしまった。
嫌悪感が思わず声に出てしまったのは、まぁ、仕方ないだろう。
パーティメンバーは、俺を通せんぼするように横に広がっている。
おい、公的な場所だぞここは。
他の通行人にも迷惑になってるからやめろ。
横を歩いていく犬の散歩をしてる爺さんや婆さん達、めっちゃお前らのこと睨んでるじゃねーか。
気づけ。
「やっと見つけたぞ」
パーティを追放された時、一番に殴りかかってきた少年、この人の名前何だっけ??
まぁ、少年Aでいっか。
少年Aが口を開いたかと思うと、そう言ってきた。
「まだ冒険者を続けているらしいな、シン?」
お前は早く通行人の邪魔になり続けていることに気づけ、青年A。
「散々、俺たちを騙し続けてきた上に今度はSSS級冒険者を騙すなんてとんだ悪党だな」
こいつはなんの話をしているんだろう?
と、俺を嵌めた女、この女の名前、名前なんだっけ?
えーと、うーんと。
「クラウ君、あたしが話をするから」
少年Aの名前はクラウと言うらしい。
「しかし、アン」
あー、そう!
そうだ!
アンだ、アン!!
思い出した!
「いいの、話せば彼だってわかってくれる。
それにあたしには皆がいるから、大丈夫」
そして、始まる茶番。
あ、通行人の人達ほんとにすみません、ご迷惑かけてます。
ほんとにすみません。
おい、元パーティ仲間の男ども、アンはいい子だなぁ、とか、まるで天使だ、じゃない!
邪魔になってるから!!
お前らと、お前らの崇拝する天使がおもっくそ通行の邪魔になってるから!!
さすがに、一般人として注意した方がいいだろう。
そう思って口を開こうとしたが、
「ねぇ! シン君!
あの時の事は許してあげる、水に流してあげるからパーティに戻って来て欲しいの。
勝手に抜けたことも無かったことにしてあげるから!!」
「……はい?」
んんんー???
何を言い出してるんだこの女は?
どうしよう、理解出来ない。
「ドラゴン・スレイヤーのエリィさんを騙してることも、あたしや皆が口添えして穏便に済ませてあげるから、だから戻ってきてほしいの!!」
「えー、なんか色々間違ってるけど、えー???」
思わず口を滑らせてしまった。
すると、彼女を守る騎士のように並んでいた男どもが、ぎゃーすか文句を言い始める。
「アンに乱暴奮っておいて、いけしゃあしゃあと!」
「俺たちを騙してやがったことも水に流してやるって言ってんのに、なんだその態度は?!」
「これだけ頭を下げてやってるのに、傲慢にも程がある。これだから農民はダメなんだ」
おい! お前ら黙れ!!
すぐ横の弁当屋の店主らしき女の人が、魔王みたいな形相になってるぞ!!
飲食店などで働く人達は、農家の次男次女以下の人が多かったりする。
出稼ぎなどで、そちらに就職する人もそれなりに居るのだ。
そして、町育ちの人でも、飲食店で仕事を経験したことのある人は、農民に対する差別意識が低かったりする。
それは、直接農家から材料の仕入れを行ったりしているということも大きい。
これは労働力であり、取引先であり、なによりも自分たちの腹を満たしている食べ物を誰が作っているのか理解しているからだと思われる。
「また仲間にしてやるって言ってんだ!!
さっさとありがとうございます! 戻りますって言え!!」
「え、ヤダ」
するりと、その言葉は俺の口から流れ出た。
即答と言うやつだ。
「だって俺、その女のこと襲ってもいないし、乱暴してもいないし。
そもそも、お前らを騙したって何の話だ?
意味がわからん。
あと、お前ら物理的に頭下げてねーじゃん。
口で言ってるだけじゃん。
騙した云々は、その女に向けられるべき言葉で俺に対してじゃないだろ。
あと、殴る蹴る、そんな殺すほどの暴力を振るってきた連中のパーティなんかに誰が戻るか、殺されたくないし。
そういえば、なんでお前らその女のこと信じてんの?」
「あの時、お前に襲われた時、アンは泣いてたんだぞ!!」
泣いたから信用するって、アホか。
なんで鑑定使ってないんだよ、アホか。
アホしかいないのか、このアホパーティは。
「あたし達が、貴方を殺すって、なんで、どうしてそんな酷いこと言えるの?
シン君はなにか誤解してるんだよ!!」
涙を滲ませて、アンと呼ばれた女が必死に訴えてくる。
うーん、しかしここで俺をもう一度パーティに迎え入れるって、どんなメリットがあるんだ???
あ、雑用か!!
冒険中の炊事に洗濯、加えて必要なアイテムの購入なんか全部俺の仕事だったしなぁ。
めんどくさい雑務をやる奴を追い出したがために、誰もやりたがらない。
んで、たぶんそれを押し付ける目的で新しいメンバーを加入させても、次々やめてくって事態になったんじゃなかろうか?
そういうパーティ、ほかにも見てきたからたぶん当たってると思う。
「ね? 戻ってきて。
今なら飯炊き係からはじめて、信用を取り戻せばまた正式なメンバーにしてあげるから」
はい、大正解!
さすが、俺、あったまいい!
「さすが、アンだ! 天使みたいに優しいな!」
なんて盛り上がる元パーティメンバー達。
くそうぜぇなコイツら。
「盛り上がってるところ悪いけど」
そう前置きをして、俺は続けた。
「お前らを騙してたって何の話だ?」
エリィさんを騙して云々は、たぶん、経歴とか詐称して騙して取り入りやがって、ということなんだろうけど。
コイツらを騙したってことには心当たりがまるで無いのだ。
農民ってことは、パーティ結成時に伝えてあるし、所持スキルなんかについても話したけど冗談か、嘘扱いだった。
まさかその事を言ってるのか?
うーん、でも話してる感覚からしてなんか違う気がするし。
わからん。
コイツらはなにを指して騙したと言ってるのだろう?
元パーティメンバーが喚き散らした内容を整理するとこういう事だった。
なんでも俺を
武器の簡単な手入れなんかも、今までは基本的に外注ではなく俺がやっていたし、食材なんかは実家からの差し入れで大部分を賄っていた。
それらが無くなったので、結果的に経費が膨れ上がったらしい。
外注は多くなるし、食材のグレードは下がる一方なのに、お金ばかりかかってしまう。
つまり、俺が騙していた云々の話は、思った以上に俺のそういった能力やらが便利すぎていて、気づけなかった。
気づけなかったのは、俺がその事を黙っていたからだ。
黙っていた=騙した、という図式らしい。
うん、頭お花畑だね!!
「全然、俺悪くないじゃん。
お前らのご都合主義理論じゃん」
付き合ってられん。
あと、腹減った。
「農民のくせに偉そーにしやがって何様のつもりだ!!」
元パーティメンバーの一人がそう吼えた時、
「さっきから農民農民うっせーんだよ!!
食料生産者様だコノヤロー!!!!」
ブチ切れた繁華街の人達が、元パーティメンバー達に向かって石を投げ始めた。
うん、基本怒ってあげてないだけで、イラついてるんだよなぁ。
わかる。
「食い物食いたくなきゃ、この繁華街から出てけ!
勘違い野郎ども!!」
「通行の邪魔なんだよ! どっか行け!」
繁華街は、飲食店が多い。
農民出身の労働者も多い。
そんな場所で、農民ディスりまくればまぁ、こうなるわな。
俺はとばっちりを食わないように、壁系の魔法を展開して飛んでくる石を防ぐ。
「あ!! こっちです!!
衛兵さん! こっちで冒険者パーティが一人を取り囲んでフルボッコにしてるんです!!」
騒ぎに乗じてそんな声も聞こえてきた。
というか、なんか聞き覚えあるな、この声。
それは元パーティメンバーたちにも聞こえていたらしく、彼らもさすがにまずいと考えたのか、逃げていった。
さて、そうして現れたのはテトさんだった。
どうやら無精髭を剃りに来ていたらしい。
顔がさっぱりしている。
「おや、シン君だったか。
奇遇だね」
「あ、テトさん。
ほんと、奇遇ですね。お陰で助かりました」
ちなみに、衛兵の姿は影も形ない。
石を投げていた人達もそれぞれ仕事に戻っていく。
俺は、その人たちに向かって頭を下げた。
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