第15話

 さて、困ったことになった。


 「えー、書類審査通らなかったんですか?」


 エリィさんと、各農業ギルドのギルドマスター達にも一筆書いて貰った推薦状を添えて、昇級試験の申し込みをしていたのだが、なんと書類審査で落とされてしまった。

 理由はと言うと、


 「実績不足に、少々過剰過ぎる、いえこなしてきた依頼の内容を盛りすぎている、ということらしいです。

 その、今回は除名処分にはならなかったのですが、次同じように経歴と能力詐称、そして農業ギルドのギルドマスター達の署名に加え、SSS級冒険者の署名を偽造したら冒険者ギルドを永久追放にするとのことです」


 冒険者ギルドの受付嬢が申し訳なさそうに説明してくる。

 あー、やっぱりそうなるか。


 「ち、ちょっと待て!

 偽造とはなんのことだ?!

 アレは紛れもない私自身のサインなんだが??」


 エリィさんが、驚きのあまり叫ぶように受付嬢へ言った。

 受付嬢は、言いにくそうにエリィさんと並んだ俺を見て、言ってくる。


 「その、農民如きが高ランク冒険者と懇意になるなどありえないし、災害級モンスターの討伐をしたというのも見え透いた嘘だ。

 今回は見逃してやるから、農民は農民らしい仕事をしてろ、と、その昇級試験の受付から連絡がありまして」


 そのあんまりな言い様に、エリィさんがワナワナと怒りで震えている。


 「なんだ、その理由は??」


 エリィさんが不穏な空気を出し始めたので、俺はわざと彼女の言葉を遮って、受付嬢へ返した。


 「なるほど、わかりました。

 あの確認なんですけど、送った書類、その物は返還されないんですか?」


 「え、えぇ、本来なら申し込みをしたギルドに返され、申し込んだ人の許可を得た上で処分するんですけど。

 今回は向こうで処分するから、と」


 事務作業の関係で、申し込み用紙を処分するにも手間がかかるらしい。

 しかし、今回は先方で処分したそうだ。


 「なるほどなるほど。お手数お掛けしました。

 じゃあ、農民向けの仕事、見繕って貰っていいですか??」


 「おいっ!」


 エリィさんが、非難めいた声を上げる。


 「いつもの事ですから。永久追放にならなかっただけ儲けもんです」


 「いつもの事って」


 エリィさんが絶句して、呟く。

 そして、何かを思い出したような表情になって、俺を見つめてきた。


 「そういえば、なんでお前、竜殺しの英雄ドラゴン・スレイヤーの称号を持っていない?

 二年前、一緒に討伐してその称号を与えられただろう?」


 「あれ? 言ってませんでしたっけ?

 アレも後日、『よくよく考えてみると、仲間が居たとはいえ農民がドラゴンを討伐するなんて有り得ない』って通達が来て剥奪、というよりも白紙にされちゃったんですよ」


 「なんでそれをその時に言わなかった!!」


 「だって考えてもみてくださいよ。

 俺、農民ですよ?

 んで新人だったんですよ?

 あのまま素直に称号受けてたら、たぶん他の先輩冒険者にやっかみで襲撃されてた自信ありますもん。

 ただ、俺も甘く見てたんですよねぇ。

 これから実績をちゃんと積んで正当な評価を得た上で、称号を得て昇級試験にも挑もうって。

 結果が万年D級ですけど、あはは。

 まぁ、それが世間から見た農民の実力なんですよねぇ」


 「お前、それを受け入れてきたのか?!」


 「……まぁ、まだその頃は信じてましたからねぇ。この世界世の中を。

 ちゃんと、積み上げてきたもので評価してくれるんだと。その頃はちゃんと信じてました。

 あ、受付さん、すみません。

 長話しちゃって。これ、依頼書ですね!

 それじゃ受けるんで処理お願いします」


 俺は、いたたまれなさそうにしている受付嬢が用意してくれた依頼書を手に取ると、ギルドから出る。

 それを、エリィさんが追いかけてきた。


 「おい、話はまだ終わってないぞ!!」


 「えー、農民は昇級試験は受けられない。それでいいじゃないですか」


 「お前は、それを納得した上で受け入れているのか、と聞いてるんだ!」


 「うーん、まぁ今は受け入れてますよ。

 そりゃ昇級はしたいですけど、でも昇級しなくても冒険者の仕事は出来るんですよ。

 下位ランクだと受ける依頼に制限があるってだけで」


 それに多分、意図的に農民の昇級試験の申し込みは握りつぶされている。

 誰がを行っているかはわからない。

 でも、同じ農民出身の冒険者の子達から話を聞いたから、おそらく間違いではないし、被害妄想でも、考えすぎというわけでも無いだろう。

 農民は意図的に差別されている。


 「しかし、私だってまだまだヒヨっ子だったが順当に昇級試験は受けられた!!」


 「いや、それは」


 それは、エリィさんが貴族だったからなんですけど、と言おうとしたがやめた。

 

 「エリィさんに実力があったからですよ」


 「実力なら、お前の方が上だろ!」


 「いいえ、冒険者ギルドから見た農民は、実力が無いんです。

 そう判断されるんですよ。

 それが、冒険者ギルドの普通なんです」


 言ってて悲しくなるから、もうこの話題終わりにしたいんだけどなぁ。


 「私は、お前が正当に評価されるべきだと思ってる」


 「それは、ありがとうございます」


 「いや、お礼じゃなくて、お前はもう少しやる気を見せろ!」


 「うーん、でも、報酬が安いってだけで冒険者ギルドの仕事は受けられますし。

 エリィさんが高ランクの依頼受けてくれるなら、そのお零れにもあずかれますし。

 お金が足りないなら、農業ギルドからの高額依頼を受ければいいだけだし。

 ほら、昇級しなくても稼ぐことは出来ちゃうんですよ」


 「言ってて悲しくないか?」


 「説明させておいて、そう言いますか。

 なんなら、試しに圧力でも掛けてみますか?

 そうすれば、昇級試験くらいなら受けさせてもらえるとは思いますよ」


 「圧力??」


 「今まで波風立てたくなくて、俺も他の農民の子たちもやったこと無かったんですけど。

 まあ、エリィさん必死だし。たまには良いかなって考えまして。

 前、話したことありませんでしたっけ?

 農業ギルドって組織は縦もそうですけど横の繋がりも強いんですよ。

 だから、後ろ盾だけなら冒険者ギルドが真っ青になる人とも繋がっちゃてたりするんです。

 そうだなあ、例えば今まで農民出身の冒険者の子達が受けてきた差別とか、今回の推薦状すら握り潰されたって、わざと農業ギルドのギルドマスター達が怒るように説明すれば、なにかしら変化があるかもしれません」


 言ってて、改めて俺って性格悪いなぁと実感してしまった。


 

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