第12話
農業ギルドの受付で取扱商品のリストを受け取ると、冒険者ギルドのように隅に設置された、簡単な喫茶コーナーでそれらを広げる。
「へぇ、色々あるんだな」
冒険者ギルドのそれとは、当たり前だがラインナップが全然違うため、楽しそうにエリィさんがリストをチェックしていく。
ちなみに、買う時は別の注文用紙にリストの横に書いてある番号を記入して受付に提出し、代金を払って手に入れる。
「今回限りならレンタルにしますかね」
買うよりもそっちの方が良いかなと考えて言ってみる。
「そんなのもレンタル出来るのか?」
「えぇ、出来ます。
職場体験ってあるじゃないですか。
農家へのそれは嫌悪されますけど、農業ギルドが所有する畑での体験はして見たいって人が一定数いるらしいです。
その人たち向けなんだとか」
「本当に、色々あるもんだ」
俺もそろそろカカシの材料買っておかなきゃな。
依頼受けに行った時に頼まれたりするし。
そうして、必要なものをそれぞれ購入して、その日は終わった。
下宿に帰ってくると、テトさんが俺の部屋の前出待ち構えていて、泣きつかれた。
「シン君!! 助けて!! もう無いんだ!!
ネタが無いんだ!!」
「引っ付かないでください、暑苦しい。
それにそんなこと言われても、プロに提供できる創作のネタなんてそうそう無いですよ」
「なんでもいいんだ!!」
「そう言われても。
今日だって、梨畑の手伝いをエリィさんにもお願いしたことくらいしかないですよ?
あと、その手伝いで必要になるもの買いに行ったくらいですし」
「梨畑?」
「親戚の家に手伝いに行くんです」
「……今、梨は収穫の時期じゃないでしょ?」
「花粉付けに行くんです。いい加減、腰に抱きつくのやめてもらっていいですか?」
「花粉? あの蜂を使う?」
俺は息を吐き出して、エリィさんにしたのと同じ説明をテトさんにもした。
やはり物珍しいようだ。
「それ! 取材させて!! 手伝うから!!
なんなら、菓子折りも持ってくから!!」
必死すぎだろ、この人。
「まぁ、人数は多いほどいいんで、連絡しておきます」
でも、そんなわざわざ取材するようなものか?
作家の考えることはわからん。
そして当日、早朝。
完璧な農家の母ちゃん、おっちゃんスタイルとなったエリィさん、テトさんを連れ立って、俺は親戚の家へ、転移魔法でやってきた。
「あらぁ、シンちゃん久しぶり!」
「おはようございます、おばさん。
お久しぶりです」
挨拶もそこそこに、俺は話を通しておいたエリィさんを、おばさんに紹介する。
「こちら、話しておいたエリィさんとテトさんです」
おばさんがペコペコと二人にに頭をさげる。
「お二人共、今日はわざわざありがとうございます。よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「本日は取材と見学の許可をいただき本当にありがとうございます」
二人も、おばさんと挨拶を交わす。
テトさんは宣言通り、準備していた菓子折りをおばさんに渡している。
そして、
そこには、すでにおじさんも居て、黙々と作業を続けていた。
ムスッとしているように見えるが、こういう人なので気にしないように二人に耳打ちする。
二人とも頷いて、おじさんに挨拶をしに行った。
おじさんは無愛想な顔はそのままだったが、ちゃんと挨拶を返している。
そして、素人二人を連れて畑の隅に行き仕事のやり方を説明し始めた。
エリィさんもテトさんも、それを興味深そうに聞いている。
それが終わると、俺を手招きして聞いてきた。
「それで、ドラゴンと狼来たら誰が駆除しに行くんだ?
ついでにカカシも作ってくれると有難いんだが」
エリィさんとテトさんが首を傾げる。
二人とも、この仕事初めてだしなぁ。
俺が行った方が良いだろう。
「あ、俺が行きますよ」
そう答えて、今度はエリィさんとテトさんに説明する。
「品種と収穫時期が違う梨畑が向こうにあるんです。
そっちは、そろそろ収穫なんですけど、それ見計らって毎年毎年害獣がやってくるんです。魔物含めて。
それを駆除するのも畑仕事の一つなんです」
タヌキやカラスみたいに、人がいると近づかないなら問題ないのに、モンスターはそんなの関係ないのだ。
もう、これは俺の梨じゃぁぁああ!!!!
寄越せぇぇえええ!!!
とばかりに突撃を仕掛けてくる。
正直、変な薬でも打たれてるんじゃないかというほど、狂ったように突撃してくるから、大変なのだ。
「ドラゴン梨食うの?!」
「ドラゴンって、梨食べるの?!」
二人がそれぞれ叫ぶ。
「食べますねぇ。あの巨体で梨畑ごと荒らしながら食べちゃうものだから。
一度荒らされると、また苗木を植え直さなきゃならなくなるんで、そうさせないためには駆除は絶対必要なんです」
「食べるなぁ。有難いことにあっちの梨も王室に献上されてるから、滅茶苦茶うまいぞ。
ドラゴンや空飛ぶワンコ連中もそれが分かってるから襲ってくる。
味に関しては保証できる。
後で食わしてやる」
ぶっきらぼうにおじさんも言った。
貴族でも中々食べられない幻の品種の一つだ。
純粋に作っている農家が少ないのと、高級ということで手に入りにくい品種でもある。
商品にならない、いわゆる規格外品のB級品なら毎年もらっていて飽きるほど食べられるが、そのB級品は商品にならないので出回らない。
その代わり、俺みたいな奴の腹に入るのだ。
そして、B級品でも味は絶品だから、もう困るのだ。美味しすぎて、困るのだ。
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