第13話
「しかし、今をときめくSSS級冒険者が、野良仕事とは」
テトさんが、花粉付けをする花を選びながらエリィさんへそう言った。
「なんだ、悪いか?」
エリィさんも真剣に、どの花に花粉付けをしたら良いのか選びつつ返す。
「いやいや、悪くなんてないさ。
でも、君は戦士であり、貴族令嬢だろう?
ご母堂様とご尊父様が知ったら卒倒するんじゃないかな?」
「父上は私を家から出すとき、私の好きに生きろ、ただし有事の際は力をかせ、そのために外で強くなれ、としか言わなかった。
母上は、私を産んですぐ死んでしまったからな。生きてたらなんと言ったことか、想像もつかないな」
「ん? ということは今君の実家にいるご母堂様は?」
「父の再婚相手だ。継母、義母、というやつだな。
ちなみに、連れ子だが姉達もいる。
家のために嫁ぐのは彼女たちの仕事で、私は関係なかったんだがなぁ。
あまりにも浮ついた話が無いものだから、さすがに父上も焦ったらしい。お見合いをさせられたよ。で、婚約まで行ったのに、破談になった」
「それはまた波乱万丈だねぇ。それ脚色するから書いてもいいかな?」
「私とわからなければ別に構わない。だが、もし売れたらご飯を奢れ」
「いいとも、交渉成立だ。それじゃエリィ、あとで詳しく話を聞かせてくれ」
この会話の最中、ずうっと二人は教えられた通りに梨の花にポンポンと花粉付けをしていた。
俺は黙って、同じ仕事をこなしていた。
せめて、ビニールハウスなら警戒する手間が省けるのになぁ。
あー、首痛てぇ。
と、その時だった。
ガランゴロンっと、けたたましい音が鳴り響いた。
おじさんがガラクタを集めて作った、警報もどきだ。
テトさんが驚きで動きを止め、エリィさんも警戒する中、俺はおじさんおばさんに声をかける。
「カカシの材料が来たみたいなんで、取ってきます。
そのまま作っちゃって良かったですよね? カカシ?」
「ええ、よろしくね」
おばさんがそう返してきた。
おじさんは、黙々と作業を続けている。
訝しむエリィさん、テトさんはそのままに俺は魔法袋から自分で加工した小石も取り出しておく。
飛行術式を展開して梨畑から飛び立った。
そんなに高くは飛ばない。
少し離れた場所に、六対の翼を持った、黒く禍々しい獣の姿を見つける。おじさんの言葉を借りるなら【空飛ぶワンコ】の姿だ。
ドラゴンじゃなかった。
俺は小石を手で弄びながら、解析魔法を展開する。
【空飛ぶワンコ】が梨畑に狙いを定めている。
させるかってーの!
「……せいっ!」
俺は言うと、小石を投げた。
まずは挑発だ。
投げられた石は【空飛ぶワンコ】に当たる。
【空飛ぶワンコ】はこちらに気づくと、空の上ではあるが怒って突進してきた。
やーい、おしーりぺんぺん!!
さらに挑発する。
俺に狙いを定め、口から【滅びの吐息】と呼ばれる、漆黒の塊を飛ばしてくる。
それをひょいひょいと避けて、俺は小石を、今度は手のひらに乗せ、もう片方の親指と人差し指を使ってはじき飛ばした。
俺が避けた【滅びの吐息】は俺の背後で爆発し、空間を歪ませ、いくつかの雲を消滅させている事だろう。
さて、俺がはじき飛ばした小石は【空飛ぶワンコ】の額に命中。
頭を貫いて、即死させた。
落下が始まった、【空飛ぶワンコ】へ指を振り魔法を展開してその落下を止める。
「まずは、一匹」
死んだ【空飛ぶワンコ】を、転移魔法で梨畑の端っこにある、開けた場所へ転移させる。
と、今度は別方向からドラゴンが飛んできた。
この前、エリィさんとパーティを再結成した時に討伐、駆除したのと同じ災害級だ。種類も同じだ。
まぁ、さっきの【空飛ぶワンコ】も災害級なんだけど。
さて、現れたドラゴンもワンコと同じように倒す。
そして同じように転移させる。
また現れるかなと思って様子を見たが、とくに他にモンスターが現れることは無かったので、一旦俺も地上に降りて、畑を守るカカシの制作へ取り掛かった。
「んなっ! 【
どうしたんだ、これ?! 倒したのか??」
「見れば分かるじゃないですか」
俺は完成したカカシを梨畑に設置しながら、花粉付けをしていたエリィさんの驚く声に答えた。
カカシと言っても、滅茶苦茶簡単なものだ。
取ってきた獣、今回の場合はドラゴンとワンコ。
これに大きな丸太で作った串を口から臀にかけて真っ直ぐぶっ刺して、あとは腐らないように保存魔法を掛ければ終わりだ。
ちなみに、カカシ用の丸太は農業ギルドや木材屋さんで購入出来る。
「
災害級に指定されてるモンスターだっけ?
不定期に現れては、その吐息一つで国を滅ぼしてきた、伝説のモンスターじゃないか。
歴史上でも伝説上でも語られてるモンスターをこうして拝めるとは。
ありがたい。
しかし、シン君、こんなモノまで倒せるんだ。
万年D級とか言いつつ、エリィと同格とか嘘も程々にしないと信用無くすよ?」
テトさんも驚きながら、そう言ってくる。
「……アハハ、農家の常識は冒険者の非常識ですからねぇ。
口で言っても、信じて貰えないし。これは公的な記録にも残らないお手伝いですからねえ」
今日もしも、おじさんおばさんの、この家の子がいたなら、その子たちがこの仕事、お手伝いをしていただろうし。
うーん、やっぱりスリングショット直しておこうかなぁ。
あっちの方が命中率上がるし。
しかし、子供の頃の遊びがこうして役に立つのだから人生において無駄なことってあんまし無いんだよなぁ。
「よし、設置終わりっと」
俺は、おじさんが指定した場所にカカシを設置する。
それを見て、テトさんが言った。
「しかし、モンスターとはいえ、生き物の串刺し姿は、中々精神的にくるものがあるねぇ」
まぁ、見慣れてないとそうかもしれない。
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