第6話 先輩と友達
「ふふ~ん♪」
先輩は本を読んでいるが、なぜか嬉しそうに鼻唄まで歌っている。
「楽しそうですね。先輩」
「……え? 何が?」
「いや、今、鼻唄、歌ってましたけど」
俺が指摘してようやく気付いたのか、恥ずかしそうに先輩は本で顔を隠す。
「……気付いてなかったんですか?」
「え、えぇ……悪かったわね」
「いえ。別に。何か楽しいことでもあったんですか?」
俺がそう言うと、先輩はなるべくそんなことはない、
という感じで話そうとしていたが、明らかに楽しそうということは見てわかった。
「特にはないわ。でも……そうね。こうして、後輩君と同じ部屋で過ごせるという日常が楽しい、と言えなくもないかしら?」
……よくわからないことを、もっともらしく言っている先輩。
「……要するに、俺がフラれたから嬉しい、ってことですか?」
「はぁ!? そ、そんなこと言ってないでしょう!?」
慌ててものすごい勢いで否定する先輩。
……まぁ、俺に彼女が出来たという話を嘘だったとは言い出せず、結局、俺がフラれたという話に落ち着けたのである。
その時の先輩は……今よりも嬉しそうな顔をしていた。
なぜ、俺がフラレて嬉しいのか……そんなにこの部屋に来るのが自分一人になるのが嫌なのだろうか?
「でも、仕方ないわよね。後輩君、少しなんというか……気難しいところがあるから」
先輩はなぜか得意顔になって、俺のことを見ながらそう言った。
「そうですか? よくわかりませんけど」
「あるわよ。私だからこそ、こうして同じ部屋に居てあげるけど、いつも無愛想だし、毒舌だし……そういう部分はあると、私は思うわ」
「……じゃあ、先輩はどうなんですか?」
「え? 私? 私は……そんなことないわよ。いつもクラスでも人気者だし、みんなから好かれて……」
そう続きを言おうとする先輩は、徐々に元気がなくなっていってしまった。
「あの……なんで自分がダメージを受ける嘘を言うんですか?」
「う、嘘では……ないのだけれど……」
「先輩も俺も、クラスで人気者だったら、こんな部屋に来ないでしょ」
俺がそう言うと、先輩はなるほど、という顔で頷いた。俺は思わず反射的ため息が出てしまう。
「まぁ、お互い友達がいない者同士、こうしてこの部屋で本を読んでいるのがお似合いなんでしょうね」
「え……。ちょっと待って。友達がいない、ってことはないでしょう?」
と、先輩がそんなことを言ってきた。俺はキョトンとしてしまう。
「いや、だって……友達いたら、こんな部屋にいないで、友達とどこかに遊びに行っているでしょう?」
「え……。私と後輩君は……友達じゃないの?」
先輩は不安そうな顔でそう聞いてくる。これは……また、間違った回答をすると、最悪ガチ泣きされてしまう質問だ。
「……いや、俺と先輩は、先輩と後輩であって……友達じゃないのでは?」
俺がそう言うと先輩は明らかにショックを受けたような顔をしていた。どうやら、俺は間違ったらしい。
「……帰るわ」
先程までとてもうれしそうだった先輩は、かなり落ち込んだ様子でそのまま部屋を出る。
どうにも……俺は先輩からの質問に答えるのが下手なようだ。
「……というか、俺の質問の答え、未だに答えてもらってないよな」
そんなことを考えながら、明日以降、どうしたら、先輩の機嫌が直るかを俺は考えてしまうのであった。
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