第4話 先輩と彼氏

「……ねぇ、後輩君」


 その日、先輩は少し俺の様子を窺うかのように、遠慮がちに聞いてきた。


「なんですか?」


「その……この前、私に、交際経験があるかどうか、聞いてきたわよね?」


「あー……そうですね。聞きましたけど、それが何か?」


 すると、先輩は急に得意そうな顔になって俺のことを見る。


 こういう時は何かを思いついたのだな、ということは理解できるが、突然どうしたのだろうか。


「私……実は付き合っている人がいるのよ」


 得意そうな顔でそう言う先輩。


 俺は直感的に理解した。


 あぁ、これは嘘だな、と。


 俺はしばらく先輩のことを見ていた。先輩も俺のことをドヤ顔で見つめてくる。


「そうですか」


 俺はとりあえず、それだけ言っておいた。


「……え?」


 先輩は拍子抜けしたようで、目を丸くして俺のことを見る。


「ちょ……ちょっと待って。後輩君、今の私の話、聞いてなかったの?」


「はい。聞いていましたよ。先輩に彼氏がいるってことですよね?」


「そ……そうだけど……なんか、こう……反応があるものじゃないの?」


「別にありませんよ。先輩に彼氏がいるかどうかなんて、先輩の勝手なんですから」


 俺がそう言うとなぜか先輩は急に申し訳無さそうな顔をする。


「あの……どうしました?」


「なんか……後輩君、怒ってない?」


「……は? いえ。怒ってませんけど?」


「絶対怒ってる! いつもより、なんか……怖いわ」


 自分ではまったく意識していないが……そうなのだろうか?


「……そうですか。じゃあ、怒っているってことでいいです」


「あ……わ、わかったわ! 今のは嘘! 冗談よ!」


 急に先輩が慌ててそう言った。俺は意味がわからず先輩のことを見る。


「つまり、先輩には彼氏がいないってことですか?」


「そ、そうよ! ちょっと、後輩君をからかってみたかったのよ……」


 申し訳無さそうにそう言う先輩。俺はわざとらしくため息をつく。


「俺、そういう冗談は嫌いですね」


「……ごめんなさい」


 先輩がそう謝ったのを聞いてから、俺は立ち上がる。


「今日は、帰ります」


「え……後輩君。ちょっと……」


「大丈夫です。明日以降もこの部屋に来ますので」


 俺はそう言って部屋を出た。先輩に心配そうな表情……とても良かった。


 少し可愛そうだと思ったが、からかってきたのは先輩が先だ。俺も……何か先輩に冗談を言ってみようかなと思うのであった。

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