第3話 先輩と交際経験
「……後輩君。少し、考えを変えてみたらどうかしら?」
その日、先輩は急にそんなことを言い出してきた。
「えっと……なんですか?」
「そもそも、アナタの質問がおかしいのよ。私が処女かどうか……それを直接的に女性に聞くべきではないと思うの」
先輩はいつもなにか自分が思いついたことを話す時、なぜか得意げな顔で話す。
それはとても可愛らしい行為だと、俺は思う。
「はぁ。まぁ、それはこの前も先輩に言われましたけど」
「だから、考えを……いえ。質問を変えるのよ」
「質問を変える? というと?」
「つまりね。私が処女かどうか……つまり、それは、私が今まで男性と交際経験があったかどうか、ということに近い質問よね?」
……確かに先輩が誰かと交際経験があるかどうかを聞くことで、先輩が処女かどうかを推測することはできるかもしれない。
できるかもしれないが……俺が知りたいのは、あくまで事実そのものだ。
「駄目ですね。それでは」
俺がそう言うと、先輩は面食らった顔をする。それから、少し動揺していたが、気を取り直して俺に微笑みかける。
「……なぜかしら? 私が交際経験があるかどうかを聞くことは、その……アナタの質問の答えに限りなく近い答えを、アナタに提供できると思うのだけれど?」
「そうですね。ですけど、仮に、先輩が誰かと交際経験があったとしても、そういう行為に及んでいない可能性がありますよね?」
「そ、そういう行為って……まぁ……そうね。可能性としては、あるわね」
「はい。だから、先輩の交際経験の有無を聞いても、それは意味がないことなのです」
そう言ってから、俺は先輩の方を見る。先輩は少し怯えたように、俺のことを見返した。
「で、先輩。先輩は交際経験、あるんですか?」
「え……ちょ、ちょっと待って。アナタ、その質問では、アナタの望む答えは得られないって、アナタ自身が、今さっき言ったわよね?」
「はい。ですが、それとは別に単純に興味として聞いているんです? 先輩、誰かと付き合ったこと、あるんですか?」
俺がそう言うと先輩は少し困ったように視線を反らす。そして、それからしばらく、視線を泳がしていたが……いきなり立ち上がった。
「……帰るわ」
「え」
先輩はそう宣言すると、そそくさと部屋を後にした。
結局、今日も質問の答えは聞くことができなかったし、むしろ、答えてくれない質問が増えてしまったのであった。
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