第5話ー③ 願いを叶えてあげる

ガンッ


ソウタはメラナの襟元えりもとに掴みかかっていた。 

シャンシャン…とフェンスが揺れる。


「父は関係ないです…父さんは星の子なんか作るはずないっ…絶対に…間違ってた…」


8年前の光景が目に浮かぶ。

父はやかましい民衆の中心に座らされていた。 

いくら父の名を叫んでも、父はずっと自分の臍を見ていた。


「あ"んであんなことしたんだよっ!違うって言ったろ!?何回も、何回も言ったよ!アストラ捕まえたからってなんだよ!おまえら殺すだけじゃねぇか!!何が警察隊だよ!!」


掴みかかった襟元の中でメラナの小さな喉が動く。ソウタはその喉元を見つめながら、やるせなさと戦っている。


「命ってこう言うものだろ…?なんでそんな簡単に…」


ソウタは襟元から手を離した。


「ごめんなさい…何度も説明は聞いたんです。でもあんな仕打ちされるほど父さんは悪人だったんですか?…きっと何かの間違いなんだよ…」


ソウタはズボンの裾をギリギリ握りしめる。

メラナは静かに提案する。


「…逃げようよ」


「……え?」


メラナはスルスルとソウタに近づく。



「私と一緒に逃げよう。いーよ、どこへでも連れ出してあげる。山でも海でも空でもどこへでも。私ね、在永先生とは友達だったんだ。…大好きだったんだ。だからソウタだけは守りたい」


ソウタは驚いてメラナを見た。

メラナは真剣な顔だった。とてもふざけてるようには見えない。


「誰にも見つからない場所に行こう?ソウタがおじいちゃんになるまでわたしが守ってあげる」


言いながらメラナは立ち上がる。


「な、何言ってんの…?警察隊は?」


メラナからの突然の逃避行とうひこうの提案にソウタは訳がわからなくなる。


「…いい。警察隊もアストラも…付き合ってあげてるだけ」


メラナは一瞬暗い顔をする。

ソウタはそれを見逃さなかった。


「でもソウタは特別!ね、どこ行きたい?どこへでも行けるよ、ソウタのお願いならなんだって叶えてあげる!」


メラナが本気で言っているのか、

はたまた何か試されているのか

ソウタには分からなかった。


だけど彼女に望めば本当に叶いそうな気がした。


ソウタは心に決める。


「メラナっ!!」


ソウタは立ち上がる。


「…なーに?」







「…僕は…警察隊に入る」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る