第5話 ソウタの進む先

第5話ー① 屋上

屋上に出る扉の前でソウタは、深呼吸をした。


彼の心臓はバクバク脈を打つ。

実はもう三つほどあるんではないかと錯覚してしまうほどだ。


それでも逃げない。

彼は意を決して屋上に出る。


彼女、メラナはフェンスを背に地べたに座っていた。(携帯をいじりながら煎餅をボリボリ食べている)


メラナは寄ってきたソウタに気付き、手をひらひら振りながら笑いかける。



「おはようソウタ。調子はど?」


「おはようございます…何ともないです」


「フフ」


メラナはニッコリ笑ってくれる。

昨日の見た冷たい笑顔とは非なるもの。その温もりだけで数刻前に固めた決意がボロボロほころぶ。


対してメラナは、自分の好物を薦めようと煎餅せんべいを一枚取り「食べる〜?」などと言いつつソウタに渡そうしたが、彼は音もなく頭を下げていた。


「ん…なに?」


「…昨日は命を助けていただいてありがとうございました」


メラナは数秒固まっていたがフッと朗らかに笑う。


「あー…アハハ!気にしないで!」


メラナは明るく応答したつもりだったが、ソウタはそれでも頭を下げたまま。

メラナは気まずそうに声をかけ直す。


「こっちこそ…巻き込んじゃってごめん」


(……?巻き込む?)


ソウタが頭を上げたことを確認すると、メラナはすくっと立ち上がる。

彼女はあわれむような申し訳ないような

そんな表情をしていた。


「佐義ソウタくん。…君には警察隊に入隊してもらいたい」

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