第4話-⑦ あの子

(あの子はいないのか…)


ソウタも皆に習い大人しく敬礼していたが、右手側に視線を感じた。

ソウタは上げたままの右手を影に、眼球のみ動かす。


(!?)


その先には昨日世話になったセティがいた。

セティはソウタを一直線に見ている。


(何で警察隊が!?)


セティはまるで、友達に朝の挨拶をするかのようにソウタに向かって手を振る。そしてその手はソウタの背後にある校舎の屋上の方向を指差した。


ソウタはその合図の意味を理解できたが、セティが指し示す先をなんとなく見たくなかった。


敬礼が解かれる。


教官諸君もウクへのアピールだと言わんばかりに、生徒たちに持ち場に戻るよう怒鳴る。

リタはまだ熱が収まらないようだ。

気づけば正門近くまで近づいていて教官に捕まっていた。


ソウタは喧騒に紛れて、セティが指差した方向を見る。


校舎の屋上に仁王立ちで立つメラナ。


「あ…!」

 


メラナは人差し指を口元に寄せ、不敵に微笑んだ。ソウタは口をつぐむ。


メラナは昨日の黒い隊服ではなく、暖色系の防寒着を着込んでいて、両腕の様子が分からない。それなりに目立つ格好をしているはずだが、ソウタ以外、だれもメラナに気づいていない。



立っている場所は変わっていないのにソウタは異空間に放り込まれた感覚に陥った。

足元がグラグラする。視界が狭まり、もうメラナから目を離すことができない。

メラナもソウタを穏やかに見つめ続けている。



ほどなくして、お眼鏡にかなったのか、少し赤黒いアザが残った左手をゆっくり差し出し、メラナは手招きをした。


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