第2話-⑤ 87番

階段には、救急箱をかかえた隊員のセティがいた。


メラナの戦闘の邪魔じゃまにならないよう待機していたが、ソウタと同じく、メラナの殺気に当てられ、息を殺してその場でじっとしていたのだ。


殺気がかれた今、ようやく呼吸を再開させる。息をととのえ、顔を作り、メラナに声をかけた。



「司令!」



メラナはにこやかに獲物えものを掲げながら、セティに指示を出す。



「ひとまず終わった。ここで指揮をとる。セティは監視対象87について」


「87?」


セティが怪訝けげんな顔をする。


メラナはソウタに向かって呼びかける。


「学生くーん!生きてるー?もういいよ!」


ソウタはその声でようやく我に帰った。


「ん!…ごほごほ!っごほ…」


ソウタは石碑せきひから出るやいなやその場に倒れ込む。呼吸を再開させる。

殺気は解かれたが、まだ震えが止まらない。


「!!」


セティはソウタの姿を見て目を見開いた。


「セティ、早く」


「っはい!」



セティは救急箱をかかえ直し、ソウタに駆けよる。


「ゆっくり息を吸ってください。もう安全ですよ。…どこか痛むところは?」


セティもまた可愛らしい女の子だった。

巻き貝のようなつややかなくせっ毛。少しまつ毛が重めでクリクリした大きな目。耳は髪に隠れて見えなかったが、リボンのようなヒラヒラした耳飾みみかざりがもみあげあたりから垂れている。


セティは小さな手でソウタの背中を優しくさする。



「…どこも…ないです」


セティはニカっと笑顔を見せながら答える。


「無事で何よりです。先輩方がすぐに終わらせますからもう少し待っててくださいねっ」


セティはメラナに視線を向けた。

メラナは短くうなずき、通信機で何やら話し始めた。


セティはメラナに尊敬そんけい眼差まなざしを向けている。 ソウタはそんなセティを何となしに眺めていた。



そしてセティがクルッと振り敬礼をした。


「こんにちは!三領域連合警察隊です。あそこにいるのはメラナ。…普段は優しいんですよ?」


ソウタも慌てて敬礼をする。

セティは少し意外そうに見ていたが、ニコッと笑い手を差し出した。


「私はセティと言います。セティって呼んでください!」

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