第1話-⑤ 佐義ソウタ



しばらくみそうもない歓声かんせい尻目しりめ

役目やくめえた軍服ぐんぷくの男は競技場きょうぎじょうから退場たいじょうしていく。

 


退場たいじょうしたさきには

 黒いハットをかぶった男がかまえていた。



パン、パン、パン -かわいた拍手はくしゅ



素晴すばらしい。私の想像そうぞうはるかにえた」


「…気色きしょくわるいな。はやかえりたい」



黒いハットの男は、

軍服ぐんぷくの男のかたに手を出口でぐちまで誘導ゆうどうする。



軍服ぐんぷくの男は立ち去る前にもう一度いちど競技場きょうぎじょうを見た。

南中なんちゅう日差ひざしが遺体いたいくさらせはじめている。


 


、あの男はだれなんだ?」 


-アストラは黒いハットのおくでニヤリとわらった。


           ☆



ブチッ





佐義さぎソウタは茫然ぼうぜん式典しきてん中継ちゅうけいった。


むかし、目の前で見た光景こうけいよみがえる。





「うわぁああああ!」




式典中継しきてんちゅうけいを見ていたタブレットを

石畳いしだたみ階段かいだんたたきつける。



三領域さんりょういき連合会れんごうかいは8年前ねんまえにも男を一人ひとり処刑しょけいしていた。




「あああ!ああっ…あああ‼︎」



液晶えきしょう破片はへんゆびが切れるがソウタは何度なんどたたる。


やがてタブレットはぷたつにがり、ソウタはそれをとおくにほうった。




「ハァ…ハァ………ああっ!」


ソウタはくせ黒髪くろかみ両手りょうてでかきまわす。



(み、見なきゃよかった…クソッ…)



式典しきてんでの光景こうけいは、

ソウタにとってわすれたくても忘れられない

一番いちばんくるしい記憶きおくました。



ソウタは呼吸こきゅうあらげたまま立ち上がり、らばった荷物にもつ一輪いちりんの花をひろう。そしてフラフラと石畳いしだたみ階段かいだんのぼる。




           ☆


階段かいだんがった高台たかだいには

水平線すいへいせん石碑せきひてられていた。



     - 真人しんじん領域りょういき 東方とうほう記念碑きねんひ公園こうえん


そう刻印こくいんがあるだけの石碑せきひ



ふと、

水平線すいへいせんかんだうろこがキラリとゆらめき、

陸風りくかぜはるかかなたのそのさき、ソウタをした-



「…………ふっっう…うぐ…うう…」


ソウタの目から大粒おおつぶなみだこぼれる。


 


両親りょうしんはもうもどってきやしないんだ。

アストラがえようが、世界せかい平和へいわになろうが-

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