第35話『絶対に譲らない』レオナルド視点
ユリアーゼが登城する予定日を前に、俺はソワソワしながら一夜を過ごした。
翌朝は朝の身支度を手伝う為に俺を起こしに来た侍従のルアンよりも早く目が覚めてしまい、侍従よりも早く起きてはいけないと久しぶりにお小言を貰ってしまった。
記憶を取り戻したことでこれ幸いとセシルが王太子としての仕事と生徒会の仕事を満面の笑みで俺の執務机の上に山と積み上げる。
「こちらの確認と決済をお願いいたします」
「わかった」
とりあえず積み上げられた書類の山を捌いていく。
しかし窓の外が気になって仕方がない。
「レオナルド殿下、手が止まっておりますよ?」
はい、すいません、面目ない……
執務机から窓越し外をついチラチラと見てはルアンに宥められながら今か今かとユリアーゼを待ちわびていた。
第一声はなんと声を掛ければ良いのだろうか?
愛してるは性急すぎるよな、好きだ? まぁそこから始めるのが一番か……いやいや待て待て待つんだ俺!?
「ルアン、殿下はどうされたのですか?」
「わかりませんが記憶を取り戻してからずっとこのように落ち着きません」
側近二人がなにか言っているがこの二人、幼い頃からの付き合いのため、王子である俺に対して存外失礼なのだ。
まぁ、気安いからそれで良しとしてきたのは俺自身だし、こうして軽口を叩くのは他の人が居ないときだけなので問題ない。
遠くで馬の嘶きが聞こえてまもなく、城門を抜けて城の正門の前にある広場へ一台の馬車が入ってきた。
俺は居ても立っても居られずにガタリと執務机から立ち上がり両開きの執務室の扉を開く。
「俺は先に行くからな!」
「殿下!? お待ち下さい! せめて護衛をお連れくださーーー」
セシルの小言が廊下の角を曲がるたびに遠くなる。
広い王城といえども産まれてからこれまで暮らしてきた我が家、正規ではないが正門への最短ルートを突き進む。
「ユリ……いやバックランド伯爵、令息」
「これはこれはレオナルド殿下、殿下御自らお出迎えいただけるとは大変光栄にございます」
一抹の希望を持ってバックランド伯爵の後ろにさりげなく視線をやるが、残念ながら待ちわびたユリアーゼの姿は見当たらない。
「今日は一体どうしたのだ? 令息まで連れて城へ上がるなど珍しいな?」
「はい、陛下にお許しいただきたい案件が数件ございまして登城してまいりました」
にやりと笑うバックランド伯爵とその後ろに従うフロレンシオ令息に嫌な予感がしてにっこりと笑みを浮かべる。
「そうだったのですね、私もこれから陛下の元へ向かうつもりだったのです」
「おぉ、奇遇ですなではご一緒させていただけませんでしょうか?」
王子を案内役にしようとするバックランド伯爵の対応に周囲にいた者達に殺気が走る。
「かまいませんよ」
そんな彼らに問題ないと視線で指示を出し、先触れの知らせを伝えるために侍従のひとりが優雅に去っていく。
他愛無い会話を交わしながら陛下の執務室へ到着すると、部屋の中から入室の許可をもらい同行者と一緒に室内へ足を踏み入れる。
形式通りの挨拶を済ませた後、忙しいのだろう陛下が直ぐに本題を切り出した。
「バックランド伯爵、どうしたのだ急な面会希望など」
「お忙しいところ恐れ入りますが、実は我がバックランド伯爵家と息子から陛下へお願いがあり陛下にお時間を作っていただきました」
「私に頼みだと?」
「はい、実は息子の婚約者に問題がございまして、婚約の解消と新たな婚約をご承認いただきたく参った次第であります」
貴族同士の婚約は王家の許可を貰わなければ成立したと見なされないことになっている。
基本的には高級貴族や中級貴族に関しては、両家話し合いのもとで婚約を希望する両家から婚約申請書が王家へ提出される。
貴族間の力関係が強くなりすぎないように配慮する必要があるため、このような仕組みが出来上がったのだ。
「婚約者にどんな問題があったのかは知らないが、新たな婚約だと?」
「はい、婚家はアゼリア子爵家ですから爵位の釣り合いには問題ないかと思われます」
アゼリア子爵家のご令嬢だと? 俺の記憶ではあそこはユリアの他に姉が一人いるだけだったはずだ。
「陛下、この度は私事でお手を煩わせることとなり申し訳ございません、しかし私はこれ以上アベリア子爵家に虐げられる彼女を見過ごしてはおけないのです!」
我が意を得たりとばかりにバックランド伯爵令息が声を上げる。
フロレンシオの口から語られたのはアゼリア子爵家でユリアーゼは使用人のような扱いを受けており、虐待されれいるといった内容だった。
「私、フロレンシオ・バックランドはアルベンティーヌ・アゼリア子爵令嬢との婚約を破棄しユリアーゼ・アゼリア子爵令嬢との婚約を望みます!」
はぁ!? ふっざけんな!
「認められません!」
断じて認めてたまるか! ユリアは俺の女だ!
「ユリアーゼ嬢とは確か交流会でお前を救った聖女の名前だと記憶しているのだが?」
「はい、私レオナルド・グランデールはユリアーゼ嬢を我が妃として王太子妃に望みます」
これからユリアを妻にと望む男達が次々と現れるだろう。
ここで名乗りを上げなければ、第二、第三の竹本先輩(害虫)に掻っ攫われかねない。
二度と他の男にユリアを渡すつもりはねぇんだよ俺は!
そのためならばなんだってやってやる、聖女だろうがなんだろうが利用する。
聖女? 上等だ、子爵家令嬢では身分違いだと反対する保守的な貴族達(古狸)も、聖女が次期王妃ならば文句がねぇだろう。
俺の名乗りにバックランド伯爵の笑顔が引きつる。
「そうだな、よしバックランド伯爵令息の婚約解消についてはアゼリア子爵へ確認を取り、双方の合意を得次第許可を出そう」
「ありがとうございます」
陛下がそう告げるとバックランド伯爵令息がにこやかに礼をした。
「しかしユリアーゼ・アゼリア子爵令嬢との婚約について儂はしばらく誰とも認めるつもりはない!」
「なっ!?」
「陛下!」
バックランド伯爵令息と俺の声が重なる。
「残念ながらユリアーゼ嬢はまだ自身の潔白を儂の前で証言できていない。 そしてバックランド伯爵から知らせがあったアゼリア子爵家での虐待についても証拠を得られてはおらん」
国王陛下の言葉にバックランド伯爵は反論できずにいる。
「レオナルド、これを」
そう言って陛下が私に差し出してきた紙を受け取り、目を通す。
どうやら陛下宛の手紙のようで差出人はアゼリア子爵だ。
手紙の内容を要約すると、ユリアーゼは交流会で心身ともに疲弊し体調が思わしくないためアゼリア子爵領で療養しているため落ち着くまでは登城出来ないといった内容のものだ。
「レオナルドに命ずる、ユリアーゼ嬢を保護して王城へ帰還せよ」
「御意!」
陛下の勅命うけた俺はバックランド伯爵と令息を執務室へ残してユリアーゼを迎えに行く準備を始めた。
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