第61話 エインヘリヤル

「ううっ、生きて帰ってこれたぜ……」

 迷宮を抜け、日の光を見た俺はそうつぶやく。


俺達は世界の創造より前から存在するといわれる原初の裂け目ギンヌンガガプから生還したのだ。迷宮主までの道のりは簡単に思えたのだが、最後に難関は待ち構えていたのだった。


「よ、よかったな、ジェイドよ……わ、我も再び戻れるとは思えなかったぞ。くくっ」

 俺の横にいるララが言う。


「うっ、ララ……いや、何でもない……」


 俺は文句が喉まで出かかってから止めた。せっかく自信を持って戦えるようになったのに、ここで怒ったりしたら心が折れて元のララに戻ってしまいそうなのが怖い。


「ふっ、ララ、よくやったぞ!」

「ジェイド……」

 二人で見つめ合う。


「甘やかすなジェイド! このタコっ! その女が極大魔法で迷宮をぶっ壊したんだろが!」


 そんな俺の考えなど知りもしないジャスティスがツッコんでしまった。


 確かに迷宮を破壊したのはララだ。最後に放った超強力な魔法、宇宙大爆発ビッグバンの威力が凄まじく、迷宮主と数万のハイレベルモンスターと共に迷宮最深部を破壊してしまったのだ。


 そこからが大変だった。

 次々と崩れる天井を避けながら必死の脱出劇を繰り広げる俺達。クマーロードもスライムキングも名も知らぬ迷宮主も敵じゃない。最大の難関は仲間のポンコツだったりする。



「うっ……や、やはり、わ、わた……」

 ララがガタガタ震え出す。


「ふうっ、迷宮主よりも凄いララの魔法! さすがララ、輝いてるぜ!」


「じぇ、ジェイド?」


「ララ、凄いじゃないか。あんな魔法が使えるのならラスボスも任せられるな。やっぱりララは役に立つぜ。期待してるぞ」


 俺の言葉でララの折れかかった心が復活した。見る見るうちに目の輝きが戻ってくる。


「ジェイドぉぉ~っ♡ やはり我を理解してくれるのはそなただけだ。もう一生離れないぞぉ♡ くふっ、くふふっ」


 ララが若干キモい笑みを浮かべて抱きついてきた。美人なのにこの変な笑い方はクセになりそうだ。


「お、おい、ララ……」

「よいではないか。我とそなたの仲だぞっ」


 体全体を密着させるように抱きつくララ。いつものように顔が近い。


「ジェイドさん! ララさんばかりズルいです」

 プンスカ怒ったミウが反対側から巨乳を押し当てる。もう、ムッチムチだ。


「ま、待て、二人共。皆が見てるから」


 唐突にラブラブ感を出しまくり、後ろからの視線が痛い。


「うっがああああああっ! 何なんだこいつら! くそっ、俺を無視すんじゃねええええっ!」

 ジャスティスがキレた。


「ぐぬぬぬぬっ……何だか分らんが無性に腹が立つ! ジェイドめ! おい、貴様、ちょっと殴らせろ」

 なぜかライデンまで怒っている。


「はっはっは、愉快なパーティーじゃないか。吾輩も、まさか味方に殺されかけるとは思わなかったぞ」

 マサトラはマイペースだ。


 崩れる天井の巨岩を全身筋肉の体で防ぎ、皆を守ってくれたのだ。まさに筋肉が全てを解決する男。


「笑い事じゃない。まったく、私は戦闘向きじゃないのだよ。とんでもないパーティーに入ってしまったぞ。ふ、ふふっ」

 ピリカが文句を言いながらも笑いを我慢できないようだ。



 性格もバラバラで全くまとまりがないような七星神。だが、こんなパーティーなのに、戦闘では不思議な連携があるから面白い。


 ◆ ◇ ◆




 転移で王都グラズヘイムに戻ると、街は何やら賑やかになっている。明らかに別種族と分かる人達の姿が見えた。


「あれはエルフ族では……あっちはドワーフ族だ。あっ、あの種族は……で、デカい。マサトラよりデカい。巨人族かな?」


 賑やかになった王宮の中庭を見た俺は、自然に声が出た。様々な種族が行き来しているようだ。そして、自然と綺麗なエルフの女戦士に目が行った。


「痛っ、イタタタ! おい、二人共、何で俺の脇腹をつねるんだ?」


 ミウとララが両側から俺をつねっている。


「ジェイドさん! 今、女の人を見てましたよね?」

「ジェイドよ! 我がいるのに、なぜ他の女を見つめる?」


「ち、違うって。エルフ族を初めて見たから。ほら、本当に耳が長いんだなって。エッチな意味じゃないから」


 俺は弁解しておく。実は、ちょっとだけエッチな意味だ。煌く金髪と緑色の瞳。スレンダーな体に露出度の高い衣装は目を惹いてしまう。


「ジェイドさ~ん……私、付き合ったら浮気は許しませんからね……どうなっても知りませんよ」


 ミウの目が怖くなる。いつも優しそうでおどおどしているのに、付き合ったてみたら怖い女なのかもしれない。まあ、清純そうに見えてドスケベだし。


「くくっ、ジェイドよ、我も浮気は許さんぞ。ちょ、調教ならキツいのでも許すがな」


 そう言ったララが頬を染める。久々にドMっぽいセリフを聞いた。こちらは付き合ってみたら、何でも許してしまう女な気もする。


「き、貴様! さっきからイチャイチャイチャイチャしおってからに! こ、このハレンチめっ!」


 ライデンまで怒り出した。さっきからイライラし過ぎだ。カルシウム不足かな?



「くっ、何でエルフ見ただけで女性メンバーからフルボッコなんだ。理不尽だぜ」


 俺がつぶやくと、全て理解しているといった顔のピリカが俺の肩をポンポンと叩いた。


「ふふっ、罪な男だね。早く決めてあげなよ」

 そう言ってピリカは先に歩いて行く。


「おい、今の目は何だよ。おーい、ピリカお姉ちゃーん」


 ミウたちに囲まれた俺を置いて、他のメンバーは先に行ってしまった。





 いつもの応接室――――


「ジェイド様、おかえりなさいませ」


 いつものように元気なエルフリーデが高らかな声と共に入室した。笑顔で俺に挨拶する彼女を見たジャスティスがイラっとした顔をしている。本来なら、『そのポジションは俺様だ』とか思っているのだろう。


「エルフリーデ、こちらの進捗しんちょくはどう?」


「万事抜かりないですわ! 世界樹は魔王ヘルが魔族総動員で対処してくれています。急激な崩壊を防ぐべく、強力な縄や封印で止めているところですわ」


「それは助かる」


 崩壊を止めるのは不可能でも、少しでも遅らせて準備の時間を作れるのは有難い。それに、世界樹が一気に倒れたら周辺の街が破壊されそうだしな。


「それから、わたくしの呼びかけに応じてくださった各種族の英雄の方々を紹介したしますわ」


「各種族の英雄? あっ、それで中庭にエルフやドワーフが」




 暫くすると、近衛騎士団長フランツに案内されて、各種族の長らしき人物が入室した。どれも只者ではない風格を備えている。



「お初にお目にかかります。エルフ族の族長、エレーナ・リョースアールヴです。以後お見知り置きを」


 光のように輝く美しい女エルフが挨拶した。若く見えるがエルフなので歳はいっているのかもしれない。

 やはり露出度が高く、ジロジロ見るとミウ達を怒らせてしまいそうだ。



「うぉほん! ワシはドワーフ族の王、ガンダールヴである。エルフ族と協力し合うのは不本意であるが、世界の存亡がかかっているとあらば致し方あるまい」


 こちらは長い髭が貫録の壮年ドワーフだ。余計なことを言ってエレーナと睨み合っている。まあ、本番では協力することを願おう。



「あたいはベイラム。妖精王ね。よろしく」


 背丈が20センチくらいの妖精さんが挨拶する。可愛く見えるが妖精王なので魔力は相当な物だろう。



 ズシンッ! ズシンッ!

 ガガガッ――


 遅れて入ってきたのは巨人族の戦士のようだ。やっとのことで扉をくぐる。十分に高い天井のはずなのに、その4メートル近くあるだろう身長は天井に着きそうなくらいだ。


「メニヤ……巨人族……女戦士」


 目の前の巨人女性がそう名乗る。

 全身筋肉質でありながらムッチムチの女性らしい体。特注品なのかピチピチのパンツを穿いている。鍛えられた腹筋から視線を上げると、これまたムッチムチの大きな胸が突き出ていた。


 顔を見ようとするが、突き出た超巨乳が邪魔して全く見えない。下から見上げると下乳を見ているだけになってしまう。

 かといって視線を下ろすと目の前に股間があり、目のやり場に困る。全くけしからんエチエチさだ。


「よ、よろしくうひぃ……」


 挨拶しようとして変な声をあげてしまった。目の前の光景が破壊力あり過ぎて動揺を隠せない俺。


「ジェイドさん!」

「ジェイド!」


 またしても両側からミウとララに脇腹をつねられた。こんなのどこを見れば良いと言うんだ。



「後は、ヴァナヘイムの英雄ニヨルド様と、葦原中津国ミズガルズの征夷大将軍、タチバナ様が軍を率いて参戦なさいます。これは心強いですわ」


 俺の窮地きゅうちを気付いているのかいないのか、エルフリーデがハイテンションに話しを進めている。目の前のメニヤの股間と両側からのお仕置きで、話が全く入ってこないのだが。


 こうして世界中から英雄が終結した。神話の英雄エインヘリヤルである。


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極光の七星神 ~最強のURキャラになったはずなのに、なぜか悪役のうえに味方がポンコツ美少女ばかりなのだが~ みなもと十華@書籍化決定 @minamoto_toka

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