第59話 嘆きと勇気と
王都グラズヘイム上空に巨大なホログラムのような映像が映し出される。錬金術師ピリカの
この動画がアースガルズだけでなく、ヴァナヘイム、
俺達七星神は、魔王ヘルと共に檀上に上がり、これから始まる演説の準備に入った。
大丈夫だ……問題無い。もうやるしかないんだ。
不思議と緊張はしていないな。元の世界ではコミュ障だったのに。
異世界で自分と違うアバターで転生したからなのか? それとも、レベルを上げたりスキルを身につけたからなのか? いや、ミウやララや皆が俺を変えたのだろうか。
定刻となり七星神と魔王による全世界動画配信が始まった。
「今、この世界は滅亡の危機に瀕している!」
俺は第一声を発した。
「俺達は、世界終焉の時に天から降臨すると呼ばれる、神の使徒たる七星神である! 神話に語られる俺達が降臨したことからも分かるように、世界の終焉『
檀上に並んだ七星神とヘルの前に出た俺は話しを続ける。
「何者かの仕業により、人族と魔族が争うよう仕向けられ、その隙に
流れている映像に、ウルズの泉にある破壊された世界樹の根が映し出される。信憑性を高めるために敢えて入れたのだ。ピリカの編集技術はなかなかのものだろう。
「今、世界中はデマが広がり人々は踊らされ争っている。七星神の一人が魔族によって倒されたというのもデマだ。その証拠に、我ら七星神は全員健在である!」
俺に続いてジャスティスが声を上げた。アドリブだが。
「はーっはっはっはっは! 俺様は最強の剣士、神聖剣王ベテルギウスを司る者。その名をジャスティス! 俺が魔族なんぞに倒されるわけがなかろう! なぜなら最強だからだ!」
実際は倒されたのに倒されていないと主張している。まあ、この自信は役に立ちそうだ。
「これで分かったように、我らは健在だ! 世界の終焉が迫ろうと、我ら七星神が健在ならば希望はある! 今すぐ停戦し、人族も魔族も他の種族も協力し合わねばならない!」
次に魔王ヘルが前に出た。いつもの眠そうな顔ではなく、少し緊張した面持ちだ。そして、魔力を開放しているのか、暗く紫色のオーラを
「ボク……いや、わらわは魔王ヘル! 全ての魔族を統括する者! 魔王ヘルの名において宣言する! わらわは七星神と協力することに同意した! 今すぐ全ての魔族は人族との戦闘を中断し、共に協力して世界樹の崩壊から世界を救うのじゃ!」
再び俺が前に出る。
「今聞いたように、七星神は魔王と協力することを決めた! 人族も魔族も獣人族も、そして、エルフ族もドワーフ族も精霊族も巨人族も、全ての者は協力しなくてはならない! 世界の崩壊を止めるために! 全ての部族の勇者達よ、我ら七星神と共に立ち上がる時がきたのだ!」
ウオオオオオオオオオオオオオォォォォーッ!!
街中から大歓声が上がる。
時に人々は嘆き悲しみ。時に勇気を奮い立たせ。世界の終焉を止めるために、腕に自信のある勇者や冒険者は起ち上がる。
◆ ◇ ◆
我ながら少し芝居がかっていて恥ずかしい気もするが、演説はあのくらい大げさでなければならないだろう。自分のキャラとは違うが、なぜか自然にできてしまうから不思議だ。
俺達は、熱狂冷めやらぬ街から戻り、いつもの王宮の応接室に集まっていた。
「では、俺達は
「お任せくださいませ、ジェイド様。この将来の妻エルフリーデ、全力で期待に応えてみせますわよ!」
すっかり元気になったエルフリーデが返事する。このお姫様、やはりしぶとく逞しい。影の薄い国王に成り代わり、国を率いてくれそうだ。
「ああ、ボクも頑張るよ。とりあえず世界樹には応急措置をして崩壊するのを遅らせるつもりだべ」
ヘルも応えてくれる。この二人に任せておけば安心だろう。
「ミーニャ、ここから後は最難度迷宮とラスボス戦だ。ミーニャはここでお留守番してくれないか?」
俺の話にミーニャは何か言いたそうにしている。
「ミーニャさんは、わたくしが責任を持って守りますから安心してくださいまし」
「ふにゃぁぁーっ!」
後ろからエルフリーデに抱きつかれ、慌てるミーニャだ。前にナデナデしまくられた記憶を思い出したのだろう。
「エルフリーデ、あまり撫ですぎるのは……」
「わ、分かっていますわよ。ちゃんと気をつけますわ」
少し照れた顔をしたエルフリーデが口を尖らせる。少しは反省しているようだ。
しかし、獣人族が差別されているこの世界で、王女という上流階級でありながら、ミーニャを差別せず分け隔てなく接している。そんなエルフリーデには感銘を受けてしまう。彼女に任せておけば問題無いだろう。
「ミーニャ、じゃあ行ってくるよ。ここにいれば安心だから」
「御主人……し、死んじゃダメです。必ず生きて戻ってきてくださいです。御主人は、ミーニャの御主人なのです」
「ミーニャ、俺は不死身だぞ。大丈夫、必ず戻ってくるから。約束するよ」
ミーニャのもふもふの髪を撫でる。
こんな話をすると永遠の分れみたいだが、俺は必ず戻ってくる。レベルカンストさせ、
◆ ◇ ◆
「ギャアアアアァァーッス!」
ドスドスドスドス!
ジャイアントクマーロードが現れた。クマ系最強のモンスターだ。
「はああああっ! 魔法剣・爆裂!」
シュパァァァァーン! ズドドドドドドーン!
俺の魔法剣の一撃で、ジャイアントクマーロードの巨体が爆発炎上し消滅する。剣の中に爆裂魔法をエンチャントした攻撃だ。
「よし、順調にレベルが上がっているようだな」
同一パーティー内では経験値を共有し、それぞれメンバーに配分されるのだ。より多くモンスターを倒し経験値を稼ぐには、二手に分かれてガンガンモンスターを倒すしかないだろう。
「おい、俺様の手柄を勝手に取るんじゃねぇええっ!」
一つだけ納得いかないのは、ジャスティスが俺と同じメンバーなことだ。さっきからゴチャゴチャうるさくてかなわない。
「ならジャスティスが前に出てくれ。前衛は任せる」
「ああ、俺が全滅させてやんよ! 見とけよ!」
全滅させても経験値は皆に分配されるのだがな。まあ、ジャスティスに任せておくか。
「おい、おまえらも俺の雄姿を目に焼き付けておけ。ふっ、これでまたモテちまうな。俺様も罪な男だぜ」
ミウとララの方を向き言い放つジャスティス。この自信はどこから出てくるのか。いや、意外と現実世界でも彼のような根拠のない自信を持ったオラオラ系男がモテたりするのだ。女とは不思議だ。
ただ、少なくともミウとララは彼に惚れたりはしないだろう。お、俺を好きだと言ってくれたのだから。
「ジェイドさん……私、あの人苦手です」
「わ、我もだ。ジェイドよ何とかしてくれ」
ミウとララが俺の背中に張り付いて離れない。
そう、この二人も同じメンバーだ。魔法職のララをライデン組に入れようとしたが、ララ本人の猛反対で俺と一緒になった。最近は鳴りを潜めているようだが、たまにドロドロとしたヤンデレ感を見せてしまう。
「うおっしゃぁああああああーっ! いくぜぇーっ!」
ズババババッ! ズシャ! ドドドッ! グワッシャアアッ!
ジャスティスがガンガン敵を倒し経験値を稼いでいる。かなり役に立っているので、やかましいのは大目に見ておこう。
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