第58話 輝く星
凄まじい轟音を響かせて世界樹の根が崩壊してゆく。ラタトスクの仕掛けによるものだろうか。敢えて俺達に見せつけるかのようなタイミングだ。
「あああ……も、もしかして、わわ、わ、わたしの魔法が?」
自分の魔法が当たったのかと、ララが誤解しているようだ。
「あああ! ぼ、ボクのせいなのか」
ヘルまで自分のせいとか言い出す。やっぱり似ていた。
「ララのせいでもヘルのせいでもないから! ラタトスクのせいだから!」
俺の言葉で二人の顔が少しだけ安堵した表情になる。
「おい! っだよ、これは! 破壊されてるじゃねーか! コイツを倒せば解決じゃなかったのかよ!」
ジャスティスが怒鳴る。ラタトスクを倒して英雄になる目論見が外れたようだ。
「ふふっ、ふふふっ、ははっ、はっはっはっはっは! これで世界は終焉に向かう。もう誰も引き戻すのは不可能だ」
大ダメージを負って倒れているラタトスクが言い放つ。
「て、てめぇ!」
ジャスティスが斬りかかろうとするが、それを遮るようにラタトスクが喋り続ける。
「くくっ、
「な、なぜ……なぜそんなことを。ラタトスク! させない。ボクは世界を終わらせはしない」
ヘルがラタトスクに向かって行く。
「お、おい」
「手を出さないでくれ。ボクが決着を付ける」
俺の静止を振り切り、ヘルがラタトスクと向かい合った。
ザッ!
「そうです、魔王ヘル。最後は貴女と戦いたい」
真っ二つになったはずのラタトスクが、次元接続で体を繋ぎ合わせ立ち上がる。
「魔奏曲第十二番絶望の輪廻!」
グガッ! グガガガガガッ!
ラタトスクの体が全身剣を
「冥界の王ヘルの名において命ずる。大地と大気の精霊よ古の盟約に基づき、その力で万物を貫く永久不可侵の闇となれ。
ヘルも魔法の詠唱に入った。
「ラタトスクぅぅぅぅぅぅーっ!」
「さあ、来なさい、魔王ヘルよ!」
ズガガガガガガガガガガァァァァーッ!!
キィィィィィィーン――――
勝負は一瞬で決着した。ヘルの放った魔法がラタトスクの体に突き刺さったのだ。地獄の闇よりも暗い魔法の剣だった。突き刺さったラタトスクの体が、傷口から塵のように崩壊してゆく。
「ぐっ、ガハッ! そ、そう、それで良い。ピエロは踊り退場する。はぁ、グハッ! わ、私も役目を終えたのです」
「ラタトスク! な、なぜ……」
「魔王ヘルよ……これは避けられない宿命……因果は決定づけられた歴史……私も貴女も、そして伝説の英雄までも……最後に貴女に終わらされ……良かった……」
サァァァァーッ――
最後にラタトスクは笑顔を見せて塵になった。魔王ヘルに対し、彼が何を言おうとしていたのか。今となっては誰も分からない。
「ラタトスク……どうして……」
塵となり土に帰ったラタトスクの前でへたり込んだヘルが呟いた。
「ヘル……」
「ジェイド、すぐに戻ろう。
「ああ……」
「ラタトスクが何をやろうとしていたのかは、もう誰も分からない。それより今はやることがあるべ」
「そうだな……」
俺達は転移で王都グラズヘイムに戻った。
◆ ◇ ◆
王宮の応接室に戻った俺達は今後のことを話し合う。
「あの、ジェイド様、本当に世界樹が……」
いつもハイテンションなエルフリーデが深刻な顔をして俺に尋ねる。
「ああ、三本の根が破壊された。このままでは……」
「そ、そんな……古の神話に描かれた世界の終焉が本当に……」
呆然とするエルフリーデ。
俺はヘルに向き直って訊ねた。
「ヘル、根が破壊されても、すぐ世界樹が倒れるわけじゃないよな。どのくらいもちそうだ?」
「ボクでも分からない。元神として長く生きてはいるが、実際に
くっ、あの超巨大な世界樹だ。いくつもの国に跨るように伸び天を突き抜けるように生えている。あんなのが倒れたら本当に大陸がひっくり返りそうだぞ。
それに、巨大魔獣のヨルムンガンドやスルトが暴れ出すとか言ってたよな。
「先ず、戦争を止めよう。争っている場合ではない。人族も魔族もエルフ族やドワーフ族も団結して対処しないと。何か全世界に声や映像を伝える魔法はないか?」
俺の話を聞いたピリカが控え目に手を上げた。
「私の錬金術ならば可能かもしれない。ただ、全世界にとなると……膨大な量の魔力が必要になるはずだよ」
「で、できるのか。なら、後は魔力を……」
「魔力ならボクが協力しよう。これでも元は神なんだ。通信系の魔法も使えるべ」
少しだけ自信気なヘルが言った。
「よし、それなら全世界の王都と戦争中の軍へ向け通信魔法だ。即時戦争を終結させ世界崩壊を止めるように演説をする。それには七星神と魔王ヘルが一緒のところを見せるべきだろう」
「なるほど、伝説の七星神と魔王であるボクが並んでいれば、より説得力が増すというわけだね」
話が速い。ヘルも理解してくれているようだ。
「後は、世界の終焉に現れるという
やたら長い大太刀を掴んでライデンが言う。
「俺様がいれば
ジャスティスもやる気だが、敢えて俺は口を挟む。
「いや、その前に俺達はやることがある」
「はあ!? 俺に指図するとは良い度胸じゃねーか!」
いちいちジャスティスが絡んできて面倒くさいが、やり直しができないのなら慎重であるべきだ。
「ゲームが得意なジャスティスなら分かるはずだろ。俺達のレベルはいくつだよ。ラスボスに挑むのなら、最低は準備としてレベルカンストでスキルは最大まで上げるべきだろう」
「お、おう、今、俺もそれを言おうと思ってたんだよ。ゲームでは常識だぜ!」
後出しじゃんけんっぽいことをジャスティスが言っているが、ツッコむと揉めるので止めておいた。
「ヘル、この世界で最強のモンスターが出る迷宮とか知ってるか? そこでレベル上げをしたいのだけど」
ヘルは少しだけ考えてから呟く。
「
「ギンヌンガガプ?」
「世界の創造より前から存在するといわれる巨大な裂け目だよ。超強い魔獣が住み着いているという……」
「よし、レベル上げはそこでしよう。先ず、停戦と団結を呼びかける演説。そして世界樹崩壊による災害を最小限に留める対策を、エルフリーデを始めとする世界各国の指導者とヘルに任せたい。俺達は巨大魔獣や
「「「おうっ!」」」
皆で一斉に声を上げる。ここにきてポンコツパーティーも少しは纏まってきている気がする。そして、いつの間にか俺がリーダーのように振舞っているのに驚いた。
何物にも成れないと諦めていた現実世界。金持ちや女にモテるリア充を妬んでばかりの毎日。そんな俺が異世界で英雄となり、そのリーダーとして振舞うのは気恥ずかしい思いだ。
ただ、あの頃の天に輝く星になれたらと願った想いは叶ったのだろうか。そんな、複雑な心境のまま、俺達は世界を救う戦いを始めようとしていた。
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