第57話 対ラタトスク戦
魔王ヘルに先導されるように空を飛び、ウルズの泉へと向かっている。俺の横にララ、少し離れたところに俺を意識して睨みながらも付いてくるジャスティス。
変則的な四人パーティだ。
ギュワァァァァーン!
暫く飛ぶと、目の前に泉が見えてきた。
透き通るように綺麗な水をたたえる大きな泉からは、巨大な世界樹の根が生えている。その根が遥天空まで立ち上り、空を突き抜けるようにそびえる世界樹へと繋がっていた。
「おい、あそこにいるのは!」
俺の声で全員が注目する。泉の畔、世界樹の根本に貴族のような服を着た男が立っている。そう幻王ラタトスクだ。
王都グラズヘイムのランブルグ公爵邸で会った時のような人間の顔ではない。ツノの生えたリスのような悪魔の顔をしている。これが本来の姿なのだろう。
スタッ! ザッ!
地上に降りてラタトスクと対峙する。
「ようこそ、お待ちしておりました。七星神の皆様。そして魔王ヘル」
ラタトスクが、右手を体に添え、左手を横へ水平に差し出すボウ・アンド・スクレープのようなポーズをする。
「ラタトスク! なぜ、何でこんなことを……」
悲痛な顔をしたヘルが叫ぶ。
「ヘル、私は大いなる意志により破壊と再生を成し遂げるのです。そう、これは世界の浄化!」
陶酔した表情になったラタトスクが言う。何かにとり憑かれたように。
「ラタトスク……おまえは何を言っているんだ。ボクには理解できない」
ヘルが説得を試みようとしているが、ラタトスクには何も響かないようだ。
「ゴチャゴチャうるせぇぇぇぇーっ! おい、ラタトスク! よくも俺を騙してくれたな! クソがぁーっ!」
ジャスティスがブチ切れた。ラタトスクのせいで騙され愚かに踊らされ恥をかいたのだから気持ちは分かる。
「おや、あなたもいましたか。私の嘘に踊らされ仲間割れをした愚かな剣士。くくくっ」
「くっ、ぐううっ、もう許さねぇ! 俺様のスキルでぶっ倒してやる! どりゃぁぁぁぁーっ!」
ラタトスクの冷笑にキレたジャスティスが、固有スキルを使って飛び掛かる。スキル【剣王】による神器六剣による同時攻撃だ。
「くらえっ!
ズバババババババババァァァァーッ!!
ジャスティスの背中から生えた光の腕を合わせた六本の攻撃が炸裂した。
「
ラタトスクが次元を跳躍して剣をかわす。しかし、ジャスティスの六本の剣が、それぞれ別の方向を同時に切り裂く。どこに転移しても攻撃を当てるためだろうか。
直情的なジャスティスにしてはよく考えているようだ。いや、やっぱり適当か。
「ララ、アシストを頼む!」
「ああ、我に任せよ」
俺はララに声をかけてからジャスティスの援護に向かった。六方向に斬りまくっている剣を避けている今なら勝機がありそうだ。
「魔奏曲第三番断罪!」
「おりゃああっ! 肉体強化! 抵抗! 物理防御力強化! 魔法防御力強化!」
ガシィィィィーン!
ラタトスクの鋭い爪による攻撃を、ジャスティスは矢継ぎ早に強化魔法を連発して無理やり防いでいる。
「ちぃいいっ、痛ってえな! ごらぁっ!」
二人が戦っている隙に、俺は魔法の体勢に入る。
「雷撃よ、龍となりて全てをその
ズバババババババババババァァァァーッ!
ジャスティスの後ろから回り込むように入った龍の形をした超高電圧魔法が、ラタトスクに命中した。
「ぐあああああっ!」
直撃を受けたラタトスクが一瞬だけ怯む。
「今だジャスティス!」
「俺様に命令するなっ!
スキルを使ったジャスティスが、俺に文句を言いながらラタトスクに突っ込んで行く。見た目は滅茶苦茶だが破壊力はありそうだ。
ズダァァァァーン!
「くうっ! 魔奏曲第十番等活の
ズシャァァァァーン! ズババババッ!
ラタトスクの体から無数の刃が生え、ジャスティスの突きを防いだ。お互いに弾き飛ばされ距離を取る。
「ララっ!」
「ううっ、ジェイドよ。ヤツが背後に世界樹の根が入るように動いていて、大魔法が撃てぬのだ!」
ララの魔法を期待し声をかけるが、ラタトスクの動きが巧妙で攻撃ができぬようだ。
「くそっ、確かに大魔法を撃てば世界樹に当たる。考えながら動いているのか!」
ラタトスクの動きを封じ、世界樹から引き離すしかない。リスクは高いが、やるしかないか。
ガキィィィィーン! ズバッ! ガンッ! ザシュ!
凄まじい勢いで剣を振るうジャスティスが、果敢にラタトスクを追いかける。何かと問題の多い男だが、やはり戦闘では役に立つようだ。
一方、ダメージを負ったラタトスクだが、もう次元を接続し体の破損個所を修復している。修復が追い付かないほどの大ダメージを負わせないと止まらないのかもしれない。
俺は隙を見てラタトクスの背後へと回り込んだ。
「よし、今だっ!」
ガシィィッ!
「な、なにぃ!」
俺はラタトスクを後ろから羽交い絞めにした。
「今だ、ジャスティス! 斬れぇぇ!」
「だから、俺様に命令すんなっ!」
「ちょ待て、ミストルティンはやめろ!」
「うううぉりゃぁぁああああっ!」
ジャスティスが剣を振り上げ斬りかかる。金色の剣なので侵食剣ミストルティンではないようだ。
「ぐあっ、は、離せ! 離さぬか!」
「絶対放さないっての」
ラタトスクが暴れるが、俺は掴んだまま放さない。
「俺様最強ぉぉぉぉ! 聖剣エクスカリバー!」
ズドドドドドドドドドォォォォーン!
ジャスティスのエクスカリバーが、俺ごとラタトスクを真っ二つにした。全く
ドサッ! ゴロゴロゴロッ!
「ぐはっ! ほ、本当に俺ごと斬りやがった……」
「へっ、てめーは不死身だって聞いてるからな」
二人で言い合っているところに、ララの極大魔法の詠唱が聞こえてきた。
「闇の深淵、宇宙の円環、夢幻の牢獄、彼の地より来たれり超新星の
「マズい、ジャスティス逃げるぞ!」
「だから俺様に命令……ちぃぃっ!」
「くらえっ! 我が超新星の煌き!
ズガガガガガガガガガガガガガァァァァーン!! ズドドドドドドドドドドドーン!! ドォォーン!!
「グワアアアアアアァァァァッ!」
二つに斬られたラタトスクの上に、ララの超破壊力の魔法が炸裂する。凄まじい爆風と土煙で何も見えない。
サァァァァァァーッ――
土煙が収まると、ララの魔法が落ちた中心に、大ダメージを受け瀕死のラタトスクが横たわっていた。
「ラタトスク!」
それまで動かなかったヘルが駆け寄る。
「ぐはぁ……ま、魔王ヘルよ……一足遅かったのです。運命は既に動き始めている。せ、世界の終焉は……誰にも止められない……」
「おまえは何を言っているのだ。何でこんなことを……」
ヘルの呼びかけにも、ラタトスクは一方的な主張をしているだけだ。
そして、その時、ラタトスクの後ろで爆発が起こった。
ドドドドドーン! ドドドーン! ズドォォォォーン! ドカァァァァーン!
「な、なんだ……これは」
「ジェイド」
俺の呟きにララが不安そうな顔をする。
目の前の巨大な世界樹の根が爆発炎上している。既にラタトスクが仕掛けをしていたのだろうか。止める術も無く、巨大な根は瓦解し崩れてゆく。
ガラガラガラガラガラ――――
悪夢のような光景を見つめながら、俺達はただ立ちすくむだけだった。
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