第56話 世界樹崩壊

 ジャスティスが復活し七星神が全員揃った。これで本当に世界を救う……はずなのだが、どうも関係がギクシャクしていた。


「クソっ! 気に入らねぇ。何で俺様がモブみたいな扱いなんだよ! 正義の中の正義、まさに正義の執行者たる俺様こそリーダーに相応しいのによぉ!」


 ジャスティスがごねている。


 正直リーダーなど俺じゃなくても良いと思っているが、ジャスティスだけは絶対ごめんだ。こんな独善的で話を聞かない偏った正義マンでは、パーティー全体を危険にさらしてしまうだろう。



「しかし、俺様がいねえ間に良い女が増えたじゃねーか。女子レベルは高けぇな」


 ジャスティスの視線がララに向かった。


「おい、あんた何て名前だ?」

「ひぐっ!」


 ジャスティスに話しかけられたララが怯えている。久しぶりにコミュ障が再発しているようだ。特にジャスティスのような男は一番苦手なタイプだろう。


「おい、聞いてるだろ! っんだよ、感じ悪りいな!」

「あ、ああ、あの、わ、わた、わたしは……ベルゼビュー……」


 ララの声が小さくて聞き取れないようだ。ジャスティスがイライラしている。


「なにボソボソ小声で喋ってんだよ! 聞こえねえだろ、キメぇ女だな!」

「ひぃぃっ」


「おい! そんな言い方はないだろ」


 見兼ねた俺が口を挟むが、ジャスティスは次のターゲットにミウを選んでしまう。


「おい、あんたは?」

「み、ミウです……」

「へえ、良い女じゃねーか。特に……」


 ジャスティスの視線が、顔から少し下がる。


「あっ」

 さっ!

 ミウが胸元を隠した。


「まあいいや。ほう、ヒーラーか。腕前はどんな感じだ?」

「い、いえ、私は初心者で……」

「ああん! 初心者だと! そんなんで俺様の援護が務まるのかよ!」


 ミウも同様に苦手なタイプなのか、ジャスティスの言動に振り回されているようだ。


「おい、待てよジャスティス」

「っんだとゴラッ!」


 くそっ、いちいちやり難いな。話し方がキツいんだよ。


「二人が困ってるだろ。誰もがジャスティスみたいに図太い性格じゃないんだよ」


「ああんっ! リーダー気取りかよ! ジェイドさんよぉ!」


「だからお前みたいに図太くて太々ふてぶてしいヤツばかりじゃないって言ってんだよ。ララはコミュ障だけどな。コミュ障ってのは繊細で優しい性格だからコミュ障になるんだよ! 他人の気持ちをおもんぱかったり、空気を読もうと気ばかり使っているから上手く話せなくなるんだ!」


「ジェイド……」

 ララが熱い瞳で俺を見つめる。


「ミウだって、ゲームは初めてで最初は操作もよく分かっていなかったのを、最近は慣れてきて活躍できるようになったんだ。今では、なくてはならない貴重な戦力なんだよ! 最初から上手くできる人間なんていないだろ!」


「ジェイドさん……」

 ミウも俺を見つめる。



「クソっ! テメエ偉そうにべらべらと!」


 ジャスティスが俺に掴みかかろうとした時、横からライデンが入ってきた。


「その辺にしておけ、ジャスティス」


 女性にしては背が高く筋肉質な体、鋭い眼光と張り詰めた雰囲気のライデン。そのライデンには強く出られないのか、ジャスティスがイライラしながら部屋を出て行った。


「ちっ、面白くねえ」

 バタン!



 ジャスティスが出て行くと、ミウとララが俺に駆け寄ってきた。


「ジェイドさん、怖かったです」

「ジェイドよ、我は感動したぞ。我の気持ちを理解してくれるのはそなただけだ」


「お、おい、ミウ、胸が当たってるって! ララも近い、顔が近い! くっつくな」


 ムッチリとした巨乳をグイグイ押し付けるミウ。先日判明したように、わざと押し付けているのだろう。

 ミウに負けじとグイグイ迫るララ。こちらは顔が至近距離だ。もうキスされるのではと誤解するほどに。いや、実際にキスしようとしているのかもしれない。


「おい、ライデン、助けてくれ」

「は、ハレンチだ! けしからん!」


 ライデンがイライラしている。何か怒らせるようなことをしたのだろうか。



 俺が突然のラブコメ展開になっている頃、すぐ近くにいるヘルが叫び声を上げた。


「ななな、なんだって! 原初の世界樹ユグドラシルが!」


 ヘルが原初の世界樹ユグドラシルと言った。前にエルフリーデが言っていた、世界の中心を貫くように立つという巨木のことだろう。


 誰かと魔力で通信しているのだろうか。多分、ヘルはニヴルヘイムにいる部下から報告を受けているのだろう。


「おい、何か事件なのか?」


 俺の問い掛けに、ヘルはこの世の終わりみたいな顔で振り向いた。


「ああ、あああ……世界樹が崩壊するべ……」

「何だって!」




 ヘルが落ち着いたところで詳しく話を聞きだした。何者かによって、世界樹を支える三本の根の内、フヴェルゲルミルの泉とミーミルの泉から生えている根が破壊されたというのだ。


「つまり、三本ある世界樹の根の二本が破壊されたと。世界樹が枯れたら、この世界自体が崩壊するかもしれないのか」


「ボクも詳しくは知らないけど、伝説では星々の黄昏が起こる前兆かもしれない……」



 星々の黄昏……原初の世界樹ユグドラシルの崩壊……世界各国の大戦争……ま、まさか……。


「もしかして、最初からそれが目的だったのでは!」

 俺は、ある一つの結論に達した。


「皆、聞いてくれ。それがラタトスクの目的かもしれない。戦争を起こしたのは、世界樹を破壊するという目的から目を背けさせるための偽装工作だ!」


「なんだと!」

 ライデンが驚き立ち上がる。

 続いてマサトラやピリカも立ち上がって発言した。


「吾輩もジェイド君の話は理にかなっていると思う」

「うむ、本来の目的から目を逸らす偽装工作か」


「そうなんだ。今のニヴルヘイムは周辺国から侵攻され、ラタトスク以外の六大魔王はそれぞれ配下を連れて出払っている。ラタトスクはニヴルヘイムが手薄になるのを狙ってフヴェルゲルミルの泉にある根を破壊したんだ」


 俺の話にヘルも頷きながら話し出した。


「もしかしたら、ラタトスクは先にヨトゥンヘイムにあるミーミルの泉にある根を破壊し、次に手薄になったニヴルヘイムのフヴェルゲルミルの泉の根を……。ああっ! 次にラタトスクが狙うのは、ここアースガルズにあるウルズの泉だべ!」


「なんだって! 最後の一本はアースガルズにあるのか!」


 マズい、すぐに向かわなくては。パーティーで向かっている時間は無い。飛行フライが使える者だけで先行するしか。


「今からウルズの泉に向かおう! 飛行フライスキルで飛べるメンバーだけ付いて来てくれ!」


「ジェイドよ、我も行こう!」

 すぐにララが賛同する。


「ボクも行くべ! ラタトスクには色々聞きたいことがある」

 ヘルも飛べるようだ。


「ジェイドさん……」

 ミウが心配そうな顔で俺を見る。


「ミウ、今回はここで待っていて。他の皆も」

「はい……」

 まだ心配な顔で俺を見つめている。


「分かった。こちらは任せてくれ」

 ライデンがミウの肩を抱いた。

「頼んだぞライデン」


 ガチャ!

 皆を残して三人で部屋を飛び出した。急がなくては取り返しの付かないことになりそうだ。



 三人でラタトスクに勝てるのか? いや、こちらには魔王ヘルがいる。だが、実際に戦闘になった時、ヘルがラタトスク側に付く可能性は? いや、世界を滅ぼそうとしているのだから止めるはずだ。

 俺達のレベルが上がったとはいえ、せめてもう一人いれば……。


 建物を出たところで、不貞腐れているジャスティスとバッタリ出くわした。


「おいコラッ、何を急いでんだ!」

 ジャスティスに声をかけられる。


 ジャスティス……そうだ! こいつも飛行フライスキルがあったよな。


「ジャスティス、俺達は今から幻王ラタトスクを倒しに行くんだよ。この近くのウルズの泉に侵攻する情報があってな」


「ああんっ! おい、オマエ! 俺様を差し置いて手柄を独り占めする気じゃねえだろうな!」


 ジャスティスが予想通りの発言をする。


 よし、乗ってきた。

 意外と扱いやすいかもしれないぞ。


「早い者勝ちだな。俺達は飛行フライで直行する。付いてこれるのか?」


「ったりめーだろ! 俺様は七星神の中でも最強の――」


飛行フライ!」

 ギュワァァァァーン!


 ジャスティスの話を最後まで聞かずに空を飛ぶ。当然ながら、短気なジャスティスが逆上する。


「ちょ待てよ! 手柄を取るのは俺様だ! ジェイド、テメーだけには負けねえ!」


 やっぱり予想通りジャスティスが付いてきた。腹が立つ男だが戦力にはなるだろう。


 変則的な四人で戦うことになる俺達。最後の世界樹の根を守るため、ウルズの泉へと急行するのだった。


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