極光の七星神 ～最強のURキャラになったはずなのに、なぜか悪役のうえに味方がポンコツ美少女ばかりなのだが～

第55話 ジャスティス復活

　王都グラズヘイムの宮殿前に、何度目かの転移で移動する。しかも今回は魔王ヘルを連れてだ。

　シュワァァーッ！

「おおぉ！　ここがアースガルズの王都だべか」

　ヘルが周囲をキョロキョロしている。はやり、初めて転移で来た者は同じリアクションだ。

「急ごう。早速だけど、例の氷漬け男を解凍してくれないか。悪いけどパンケーキは後にしよう」

「あ、ああ」

　ヘルを連れ、いつもの応接室に急ぐ。

　ガチャ！

「ただいま！」

「ジェイド、早かったな」

「ジェイドさん。おかえりなさい」

「じぇ、ジェイドよ、そ、そちらは……」

　パーティーの女子メンバーが迎えてくれた。ララは、俺の横にいる初対面の少女を気にしているようだ。

「ああ、ジャスティスを解凍してもらうために連れてきたんだ」

　俺の話を最後まで聞かずに、ライデンがストレートな感想を述べてしまう。

「おい、この眠そうな顔した町娘は誰だ？　貴様、また新しい女を……」

「お、おいライデン、失礼だぞ。確かに眠そうな顔してるけど」

　俺とライデンのやりとりで、ヘルが拗ねてしまった。

「やっぱりボクってディスられてるべ……」

　マズい、ここはヘルの機嫌をとりながらも、ライデンが暴走しないように紹介しなくては。

「えっと、こちらにおわす御方は――」

「地味で眠そうな顔してるけど、この子は魔王ヘルなのだよ」

　俺が話し終わる前にピリカが紹介してしまった。当然ながら、予想通りにライデンが興奮して言い放つ。

「ま、魔王だと！　そこに直れ！　魔王は滅殺だ！」

　ライデンが大太刀を抜く。聖魔調伏刀（せいまちょうぶくとう）雷切（らいきり）とかいったか。

「待て待て待て！　ジャスティスを解凍するために連れてきたんだろが！」

「そういえば、そうだったような……」

　俺がヘルの前に立ち塞がり説明すると、ライデンの殺気が収まった。魔王と聞いて熱くなったが、当初の目的を思い出したのだろう。

　そして、この一連の流れを見ていたピリカが呟いた。

「キミ達……前々から何となく思っていたけど、このパーティってポンコツなのだな……」

　くっ、そこに気付いてしまったか……

「でも、ピリカお姉ちゃんも結構ポンコツ……」

「キミは怖いもの知らずと見える。魔王と普通に話すだけではなく、この私をポンコツ呼ばわりとは……」

　ピリカが小さな体を大きく見せるようにして迫ってくる。怖くはないが幼女に迫られているようで危険過ぎる。事案発生になってしまいそうだ。

「おい、ボクはどうすれば……」

「「「あっ……」」」

　呆気にとられているヘルに皆で気付いた。

　◆　◇　◆

　皆で氷漬けジャスティスが安置されている部屋に移動する。エルフリーデも合流して更に騒がしくなってしまった。

「ジェイド様、魔王を手懐けてしまうとは、さすが英雄の中の英雄ですわ！　このわたくしも、ジェイド様のような神に選ばれし英雄を夫として迎えるなんて。この上ない誉れですわーっ！」

「お、おう、そうだね……」

　どんどん話がデカくなってるぞ。ミウとララの視線が痛いし、もう早く解凍してもらおう。

　絶対零度監獄（コキュートスプリズン）という氷の棺に入っているジャスティス。何やらイキった顔のまま固まっている。

　この氷の棺の中では完全に時間停止し、全ての魔法やアイテムを受けつけないらしい。ただ、ミウの高位神聖復活（セイクリッド・リザレクション）でジャスティスの体力（HP）が回復したことから、ミウの高位神聖魔法は部分的に干渉することが可能のようだ。

　ヘルが氷の棺の前に立つ。魔法解除の体勢にに入った。

「冥界の王ヘルの名において命ずる。大地と大気の精霊よ古の盟約に基づき、万物の振動を止め永遠の眠りにつかせた絶対不可侵の棺を開放せよ！　絶対零度監獄（コキュートスプリズン）解呪（ディスペル）！」

　シュバァァァァァァーーーーッ！

　何をしても解除できなかった氷の棺が消えてゆく。完全に固定していたクリスタルのような物質が、まるで消えて無くなるかのように霧散してしまった。

「せ、成功したのか？」

「ああ、ボクの絶対零度監獄（コキュートスプリズン）はボクにしか解除できないべ」

　俺の問い掛けにヘルが答えた。

　そして、固まっていたジャスティスだが――――

「うっ、がはっ！　ぐっ…………ヒャッハー！　俺様、俺様、俺様最高ぅ！　魔王を倒すのは俺様だぜぇぇぇぇーっ！」

　解凍させて早々、耳障りな叫びをあげてイキり始めた。

「って、ここはどこだ！　俺様は森の中にいたはず！」

　凍っている間の記憶が無いのか、シャスティスは自分の置かれている状況に戸惑っているようだ。

「おい、先ずは落ち着けよ。ここは――」

「オマエは暗黒皇帝じゃねーか！」

　状況を説明しようとするが、ジャスティスが俺を見るなり剣を構えてしまう。そういえば、こんなヤツだった気がする。

「だから落ち着けって言ってるだろ」

「うるせぇぇぇぇーっ！　悪の手先である暗黒皇帝は俺様がギッタギタに切り刻んでぶっ殺してやる！　くらえぇぇぇぇ！！」

　俺に飛び掛かってきたジャスティスに、横から刀を抜いたライデンが静止に入る。

「待て、ジャスティス！　この男は敵ではない！」

「お、オマエはライデン……おいコラァ！　何でオマエが暗黒皇帝に付いてんだよ！　裏切ったのかぁああ！」

　ジャスティスの怒声が部屋中に鳴り響く。

　くっそ、うるさい男だな。やっぱりこいつ苦手だ。ああ、ミウとララが怖がってるじゃないか。二人共、こういうのが一番苦手なタイプだよな。

「おい、ジャスティス！　ライデンは裏切ってないぞ。むしろ、お前が魔族に騙されて操られていたんだよ」

「は？　ああああ？！　この頭脳明晰で生まれついての英雄である正義の執行者ジャスティス様が騙されるわけねーだろ！　黙ってろ悪の手先め！」

　俺とジャスティスが言い合っているところに、エルフリーデが容赦のない言葉を叩きつけた。

「神聖剣王ジャスティス様！　貴方が眠っている間に状況は変化しているのですわ！　王国内に入り込んでいた幻王ラタトスクにより、貴方も一部の貴族も手駒として操られていたのです！」

「あ、あんたは、エルフリーデ王女。は？　俺様が手駒……そ、そんなわけねぇ！」

「もう証拠は挙がっているのですわ。ラタトスクと密通していたランブルグ公も、ジェイド様の活躍により逮捕されました。公爵も貴方もラタトスクに操られていたのは間違いないのです。とんだマヌケな剣王でコンコンチキですわ！　おーっほっほっほっほ！」

　マヌケなコンコンチキ発言で、プライドの高いジャスティスが大ダメージになる。とんだピエロだ。

「ああ、あああ……俺様が……騙され……」

「――――というわけで、今はこんな状況なんだ。ジャスティスも協力してくれ」

　一通りジャスティスに説明した。七星神が全員揃ったこと。世界が大戦争に突入しそうなこと。それが切っ掛けで世界の終焉が始まる言い伝えのこと。魔王にも協力を取り付けたこと。

　黙って聞いていたジャスティスだが、聞き終わってから面倒くさいことを言い出した。

「つまり、そのラタトスクをぶっ倒して世界の終焉を止めれば良いんだろ。ラタトスクの陰謀も、天が俺に課した試練に違いない！　そうだ、俺様が世界を救う英雄だ！」

「物は言いようだな」

「だが、一つだけ納得いかねえことがある！　そこのオマエ、暗黒皇帝がリーダーなことだ！　リーダーになるのは選ばれし者、そう、正義の執行者たる俺様だろ！　なあ、オマエらもそう思わねえか？！」

　シィィィィーン

　ジャスティスがリーダー宣言をするが、誰も賛同する者がいない。

「吾輩はジェイド君が相応しいと思うぞ」

　マサトラが俺をリーダーに推す。

「私も弟分のジェイドで構わないがな」

　ピリカも賛同した。

「まあ、貴様は私に対して、え、エッチ奴隷……いや何でもない。私もジェイドで異存はない」

　ライデンも俺推しだ。

「ジェイドさんが良いです」

　当然、ミウは俺を応援している。

「じぇ、ジェイドは我と運命を共にする者。リーダーはジェイドで……」

　もちろん、ララも俺だ。

　ヒュゥゥゥゥ――――

「う、うう……く、くっそっ！　くそがっ！　何で、こんな頼りなさそうなヤツがリーダーなんだよ！　納得いかねえぞ！」

　面倒くさいヤツが仲間に加わった。こんなのでもパーティーメンバーとして協力し合わねばならない。リーダーは大変だ。