第50話 姉だけど妹

 真っ赤な顔でお外を走るライデンを放置して話を進める。誰もライデンのスピードについて行けないのだからしょうがない。


 きっと恋愛系の話が恥ずかしくて照れているだけだろう。少ししたら戻って来るはずだ。

 まさか、俺を好き……なんてことは無いはず。



「それで、私をニヴルヘイムに連れて行くというのは、どういうことなんだい?」


 一連のラブコメっぽい展開を黙って見ていたピリカが言った。


「そう、それなんだ。実は世界各国がニヴルヘイムに宣戦布告して、このままでは大戦争になりそうなんだよ」


「それは……私が工房に籠っている間に凄いことになっているのだな」


 何となくインドア派っぽいピリカだ。やはり工房に籠って錬金術の研究ばかりしていたのだろう。世界情勢には疎いように見える。


 俺は、ラタトスクの暗躍や戦争の状況、ついでに七星神の一人が氷漬けなのを説明した――――



「それで、ニヴルヘイムで知り合った蛇王ニーズヘッグにもう一度会って、他の魔王にも働きかけてもらい戦争を回避したいんだ。あと氷漬けのジャスティスも解凍したい」


「なるほど。それで、錬金術師の私に何ができると?」


「竜王ファフニールのフィギュアとプラモを物質錬成で直して欲しい」


「は?」


 ピリカが呆気にとられた顔をしている。たぶん、異世界にフィギュアやプラモが存在するのかと思っているのだろう。


「いや、俺も実物は見ていないが、ファフニールがそう言ったんだ。確か……1/8ワルキューレ……ブリュンヒルデ? だったかな? あと1/700超巨大機動戦艦とか言ってたような」


 話の途中でララが呟く。

「わ、わたしが……わたしのせいで……」


「いや、ララは気にするなよ」


 気にするなと言っても気にする性格なのだから無理かもしれない。ただ、この作戦にはファフニールの機嫌を直してもらうのと同時に、ララの気持ちを楽にする意味もあった。


 自分のせいで戦争が止められなかったなどと思っていては、益々ララの気持ちが塞いでしまいそうだから。


「う~む、直すのは容易いが、その魔王達は大丈夫なのかい? いきなりブッコロとかにならないだろうな?」


 ピリカは相手が魔王というのを心配しているようだ。


「たぶん大丈夫だと思う。少なくともニーズヘッグは悪い魔王じゃない気がするし。ギャルだけど」


「うむ、気乗りはしないが、世界が崩壊されては困るからな。私の研究、真理の探究は道半ばであるのだ」


 ピリカがロリっぽい体を大きく使い、脚を組んで大人っぽく頷く。


「それじゃあ、すぐ準備しよう」

「あ、ああ」


 俺とピリカがニヴルヘイムに行くことになるが、当然のようにミウとララも同行しようと手を上げる。


「待ってくれ。今度は戦いに行くわけじゃないんだ。大勢で行くと、また戦闘になりそうな気がする。少人数でこっそり行って、ニーズヘッグと話したい。ミウとララは待っていてくれないか」


 俺の話で、渋々ながら二人は納得したようだ。


「ううっ、分かりましたけど、無理だけはしないでくださいね。ジェイドさんは、無鉄砲すぎます」


 ミウの言葉にララまで同調してしまう。


「そうだそうだ、ジェイドは心配ばかりかけるからな」


 ええっ、俺ってそんな心配かけてるのか? どちらかというと、ミウやララの方が危なっかしくて心配なんだけど。



 俺とピリカの二人で行くことが決まりかけた時、突然ミーニャが立ち上がった。


「ミーニャも連れて行くです。この世界のことは詳しいです。きっと役に立つです」


 何かを決意したような瞳をしているミーニャ。何か心境の変化だろうか。


「でも、危険だし……」


「今回は戦闘じゃないと御主人が言ったです。ミーニャは弱くて何のスキルもなくて、足手まといだけど…………それでも御主人の役に立ちたいです! きっと、何かの役に立てるはずです」


「ミーニャ……」


 そんな風に思っていたのか…………


「分かった。ミーニャも一緒に行こう。そうだな、この世界の事情に詳しい人もいた方が助かるよな」


「にゃにゃ! 頑張るです」


 こうして、ピリカとミーニャを連れ、再びニヴルヘイムへと向かうこととなった。


 ◆ ◇ ◆




 そしてニヴルヘイムの霧深き森。今回は転移魔法で直行だ。


 相変わらず霧が深くおどろおどろしい。生い茂る木々で太陽は遮られ、足元はぬかるんでジメジメしている。所々に木が押し倒され地面に穴が開いているのは、ララの流星雨メテオレインによるダメージだろう。



「お、おい、何だか不気味な森だな。私は攻撃系じゃないんだからな。何かあったら守ってくれたまえよ」


 先ほどからビクビクしながら周囲を見回しているピリカが言う。


「大丈夫だよ。この辺のモンスターは前に戦っていてレベルも把握しているし。えっと……ピリカちゃん」


 まだ会ったばかりで呼び方に迷った末、思わず『ちゃん』付けしてしまった。


「ちゃんとは何だ! ちゃんとは! 私は年上であるぞ。敬意を込めて『ピリカさん』と呼ばぬか。もしくは『お姉さん』でも良いがな」


 うわっ、めんどくさ。

 見た目がミーニャと同じくらいの幼女に見えるのだが。お姉さんには見えないよな。


「でも、年上女性にも『ちゃん』って呼びますよ。ライデンちゃんとか」


「あの女は大人っぽいから、ちゃんでも問題なかろう。私の場合は普通に子ども扱いになってしまうではないか」


 小さな体を目いっぱい伸ばしてピリカが主張する。言われてみれば、大人の女性に言うのと子供に言うのとでは違う気がする。


「確かに!」

「そこは納得するな」

「どうしろと……」


 しかし、ゲームでパーティーメンバーの名前を呼ぶのは気にならないのに、リアルで女子の名前を呼ぶのはちょっと恥ずかしいものだ。


「じゃあ、ピリカお姉ちゃんで」


「お、お、お姉ちゃん……だと」


 初めて呼ばれたのか、呼ばれ慣れていないのか、ピリカが感慨深い顔をして頷いている。もう、お姉ちゃんで良いだろう。見た目は妹だが。



「御主人、もうすぐフヴェルゲルミルの泉です。ニーズヘッグの領域に入りますです」


 ピリカに構っている内にニーズヘッグの領域に入ったようで、ミーニャが知らせてくれた。小さな体で頑張っているミーニャが微笑ましい。


「よし、注意して進もう。前も突然出てきたしな。ミーニャは俺の側を離れるなよ」


「はいです」

 ぎゅっ!


 ミーニャが俺の横に寄り添う。そしてなぜかピリカも反対側に寄り添ってきた。


「ピリカお姉ちゃん?」

「う、うるさい。弟は姉を守るものだろう」


 全く姉っぽくないピリカと自称大人のレディのミーニャの手を握り、足場の悪い森を進む。気分は小さな妹達を連れた兄だ。


 そして、再開の時はすぐにやってきた。あの時と同じように、探索魔法に超巨大な魔力反応が現れたのだ。


「来た! 間違いない」


 俺の言葉で両側の妹キャラに緊張が走る。ドラゴンを本能的に怖がるミーニャは当然として、同じ七星神のピリカまで怖がっているようだ。


「うっうわぁああっ! 超強力な反応ではないか。こ、これはマズい。ご、ゴーレム錬成を」


 ピリカが錬金術でゴーレムを作ろうとする。


「ま、待て! 戦闘じゃないって言っただろ」


 ジタバタするピリカを止めていると、聞き覚えのあるギャルっぽい声が聞こえてきた。


「ダーリィーン! 会いにきてくれたの?」


 だだだだ、ダーリンだと!?


「は、ハニー、久しぶり」

 し、しまった! 釣られて変な返事をしてしまった。


「ってか、誰よ、その女! 他に女がいるとか聞いてないし!」


 友好的な再会かと思いきや、いきなりピリカにツッコむニーズヘッグ。恐怖からなのか俺に抱きついているピリカを誤解しているようだ。

 先行き不安な再会となってしまった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る