第47話 超防御力と超破壊力

 デカい男と対峙している。


 身長は2メートルを優に超えそうだ。胸板は岩のように厚く、シャツから出た二の腕は俺の脚よりも太い。まるで格闘技漫画の中から飛び出してきたような男だ。


 名を龍王院正虎りゅうおういんまさとらというらしい。ミウといいマサトラといい、意外とゲームアバターに本名を付けるヤツは多いのだろうか。



「おう、どこからでもかかってくるがよい!」


 マサトラが構えたまま言い放つ。防御力に絶対の自信があるのだろう。魔法絶対防御というのは七星神拳聖覇王アルタイルの固有スキルかもしれない。


 武器を持っていないように見えるが、たぶん両手首にはめている腕輪のような物が専用武器だろう。ステータス画面には乾坤圏けんこんけんとあった。古代中国に伝わる伝説の武具のようなものだろうか。



 くっ、とにかく行くしかない。

 武器は……五大原初魔宝玉アルティマオーブ・イビルではダメか。いや、待てよ……むしろ不慣れな剣よりも有効かもしれないぞ。


 魔法が効かないだけで、魔法によって引き起こされた物理攻撃は効くはずだ。そこに活路を見出すしかないか。


「よし、行くぞ!」

「おう、いつでもこい!」


 俺達が少年漫画の主人公のようにポーズをキメていると、遠くの方から『ジェイドさん頑張ってくださぁ~い』とミウの声が聞こえた。ちょっと間の抜けた感じだが、その声を合図にして動いた。


爆炎地獄ヘルファイア! 雷撃ライトニング! 氷槍アイススピアー!」


 グォォォオオオオッ! ズババババァァーッ! ズシャ、ズシャ、ズシャ!


 立て続けに呪文を放つ。


「ふんっ!!」

 ドドォーン!


 マサトラが気合を入れると、全て命中したはずの魔法がぶ厚い筋肉で弾き飛ばされてしまう。まさに筋肉が全てを解決するような感じだ。

 絶対魔法防御は本当らしい。


 ダンッ!

 魔法の爆発によって上がった土煙に紛れて、俺が地面を蹴り移動する。

 思考加速スキルによって、次の魔法の組み合わせを考え、その戦術を構築し詠唱する。


三重魔法トリプルマジック!」

 先ず魔法三重化のスキルを使う。


「暗黒神の力よ、地獄の底の業火を顕現けんげんし、その炎で全てを焼き尽くせ! 地獄の業火インフェルノ!」


 ズガガガガガガァァァァァァーーーーン!


 重ね掛けした巨大魔法を使い、前方の大地を数万度の炎で融解させる。超高温の炎の海で大地が溶岩マグマとなり、その中心にいたマサトラの足元が崩れドロドロの大地に飲まれた。


「ぐああああああーーーーっ! 何のこれしき!」


 マサトラがえる。常人なら一瞬で灰となり消滅する温度だ。魔法は効かなくても、魔法によって大地が融解した溶岩マグマならダメージを与えられるはずだろう。


 ズンッ! ズンッ! ズンッ!


 信じられないことに、マサトラが超高温の中で耐えている。灼熱の溶岩マグマの中を俺の方へと向かってくる様は恐怖でしかない。

 さすが七星神といったところか。常軌を逸した強さだ。


 しかし俺は次の攻撃態勢に入っている。究極の治癒魔法が使えるミウがいるのだ。マサトラに致命傷を与えても、何とか回復させるだろうという安心感がある。

 ただ、致命傷を与えるどころか、相手は全くの無傷に見えるようだが。


「雷撃よ、龍となりて全てをそのあぎとで喰い滅ぼせ! 龍雷撃ドラゴンライトニング!」


 ズバババババババババババァァァァーッ!


 龍の姿となった雷撃魔法を放つ。通常は敵を自動追尾して命中させる技だが、今はわざと目標を外して周囲の木々を吹き飛ばす。雷の龍は竜巻のように木々を空高く巻き上げ、それをマサトラの脳天に叩き落した。


「破ああああああああああーーーーっ!!!!」

 ドドドドドドドォォォォォォーン!!


 マサトラが気合を入れ拳を天に突き上げると、空から落下してきた巨木が圧し折れ破壊され粉々になる。信じられないようなパワーだ。


 ガランガランッ、バラバラバラ――



 な、何だこいつ……無茶苦茶な強さだ。全てを筋肉でねじ伏せるような。くっ、悔しいが、男として憧れてしまう。まるで格闘技漫画の最強の男みたいじゃないか。



 溶けた高熱の大地を踏みしめ、マサトラが一歩一歩と俺の方に近付いてくる。


「ふむっ、さすがは七星神のリーダーだけあるようだ。魔法の強さは桁違いか。まさか超高温で大地を解かしたり、空から巨木を落とすとは思わなんだ」


 マサトラが少しだけ感心したような顔をする。


「いや、あんたの方が凄いだろ。何で溶岩マグマの中で平気なんだよ?」


「うむっ、鍛え方が違うからか」


 鍛え方の問題じゃねーっ!

 筋肉で溶岩マグマが防げるかよ!


「では、吾輩も行かせてもらうぞ!」


 マサトラが正拳突きの体勢に入った。まるで獰猛な恐竜にでも捕食されそうな迫力だ。


「ふんっ、覇王突き!」


 ただの正拳突きだ。魔法も特殊効果もない。ただただ強烈なパンチなのだ。拳聖覇王の固有スキルと乾坤圏けんこんけんの専用武器により、桁違いに増幅されたパワーによりぶん殴る。だがそれが恐ろしい。


 グワアァァァァーーーーン!


 凄まじい勢いで超加速した拳が解き放たれる。俺に向かって殴りかかる拳に乗って、まるで巨大な鉄球のような幻影まで見えてしまうほどに。


 マズい! あんなのが当たったら体が粉々にされるぞ。避けなければ。


 思考加速でマサトラの軌道を読み、ギリギリでパンチをかわせる方向へ避ける。


 だが、俺とマサトラではスピードが違う。踏み込みで一気に距離を縮め、音速マッハを越えるパンチを放たれたのだ。


「ぐああああああっ!」


 避けたはずだった。かすってもいない。音速マッハを超えた豪拳が周囲に真空状態を作り出し、その衝撃波ソニックブームによって拳の周囲の空間に存在する物質を破壊して通り過ぎたのだ。


 バコォォォォーーーーン!


 俺の脇腹がえぐれ血が噴き出す。アバラを何本が持っていかれ内臓まで破壊されたはずだ。


 だが、俺も最強の七星神の一人。固有スキル【暗黒神】により瞬時に自己修復に入った。スキルレベルも上がり、それは恐るべき修復スピードになっている。


「あ、危なかったぜ。もう少し近かったらバラバラだったかもな」


 俺の言葉にマサトラが驚いた顔をする。この世界に転生してから圧倒的な強さだったのだろう。自分の本気を受け止めるライバルの出現に歓喜しているのかもしれない。


「これは凄い。吾輩の突きを受けて立っている者がおるとはな」


 驚いているのはお互い様だ。七星神のメンバーは、誰もがぶっ壊れ性能だが、マサトラのように単純に硬くて強いというのも困りものだろう。一体、どんな攻撃ならダメージを与えられるのか。



 ミウの究極の治癒魔法、ララの広範囲極大魔法、ライデンの常識外れのスピード、そしてマサトラの超防御力。どれもずば抜けて凄いスキルだ。


  俺も不死身の肉体と数多くのスキルを持っているが、まだ何か真の力が残している気がする。

 五大原初魔力の根源を司る究極神器アルティメットウエポンである五大原初魔宝玉アルティマオーブ・イビル。今はただの魔力を増幅する杖のようだが、本来の使い方は別にある気がするのだ。何か発動条件が揃っていないのか。


 俺が逡巡しゅんじゅんしていると、マサトラが次の攻撃態勢に入った。


「ふんはあっ!」


 再び気合を入れると、全身の筋肉が鋼の束のように蠢き血管と一緒に盛り上がる。


「マズい、飛行フライ!」

「はあああああああーっ!」


 飛行スキルで上空に逃れるが、マサトラはジャンプをして俺の上に回った。そのまま一回転して蹴りを繰り出す。


「覇王蹴り! 破っ!」


 ミサイルのような蹴りが飛んでくる。パンチと同じで周囲を衝撃波ソニックブームで巻き込みながら。


 ズドドドドドドドドドドドドォォォォォォーン!


 俺が空中で向きを変え蹴りを避けると、一直線に突き刺すようなマサトラの蹴りが、山のような巨岩に命中し大爆発する。


「なんてパワーだ! なにっ!」


 避けながら俺の視界に映ったのは、爆発四散した岩の破片がミウ目掛けて落ちて行く光景だった。


「マズい、ミウっ!! ぐあああああーっ!」


 無意識にとった行動は、ミウを守るために身を挺して岩を止めることだった。


ズシャアアッ!

「があああっ!」

「ジェイドさんっ!」

「なにぃ!」


 三人の声が交錯する中、俺は岩の下敷きになっていた。


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