第46話 拳聖覇王
俺はアースガルズ王国の隣国であるヴァナヘイムへと来ている。七星神の一人ではないかと噂される、素手でジャイアントトロルを倒す男を探しているのだ。
ここに来るまでにはひと
『私は武闘家に興味があるな。手合わせしてみたい。命を懸けた強者とのやり取り。心躍るぞ』
とか言い出したのが原因だが。
余計なバトルで問題をややこしくされたくないので、ライデンにはイザヴェルへと向かわせ、ヴァナヘイムには俺が来たというわけだ。
「ジェイドさん、旅行みたいでワクワクしますね」
そう、俺の隣にはミウがいる。今回は急ぎたかったので飛行魔法の使える俺とララが二手に分かれ、それぞれミウとライデンを背負って飛行し時間短縮したのであった。
ララはランデンと組まされ、ブツブツ文句を言っていたのはいつものことだ。
因みにミーニャは今回お留守番だ。エルフリーデに気に入られ、ナデナデされまくって『ニャニャー』とつぶらな瞳で俺を見る顔が忘れられない。なるべく早く帰ってやらないと、エルフリーデのナデナデ攻撃で疲れ切ってしまうだろう。
「ミウ、急ごう。早く帰らないと、ミーニャのもふもふがストレスで抜けると可哀想だ」
「は、はい」
世界が終わりに近付いているというのに、相変わらず緊張感の無い俺達。平和な暮らしから、突然ゲームの世界のような異世界に入ってしまったのだから仕方がないだろう。
むしろ、意外と順応しているのではないだろうか。
そんなこんなで、俺達はノアトスという街に到着した。対立している隣国ということで、念のためエルフリーデに
「よし、あそこの老人に聞いてみよう」
通りかかった人の好さそうな老人に声をかけた――
「ああ、拳聖さまじゃろ」
老人が興奮気味に話す。どうやら近辺に住み着いた強力なモンスターを一撃で粉砕し、街の守り神のように崇められているそうだ。
いつも街の近くの森で修行をしていると聞き、すぐに向かうことになった。
「ジェイドさん、スムーズに行ってよかったですね」
横を歩くミウが言う。話はとんとん拍子に進んでいるのだ。
「ああ、早く見つけて連れ帰ろう。ニヴルヘイムとの戦争も気になる」
この戦争が世界の崩壊に繋がるのだろうか?
ラタトスクには、何か別の思惑があるのかもしれない……。戦争を起こしているのは、本当の目的から目を逸らさせるためとか……。本当に俺のやろうとしていることは正解なのだろうか……。
俺が思考の沼に
「ジェイドさん……あれ」
「ああ、間違いない」
スキルで【鑑定】し相手のステータスを読み取る。
――――――――――――
名 前:マサトラ
レベル:68
武術レベル:5
格闘レベル:5
ステータス
筋 力:5280
攻撃力:6700
魔攻力: 0
防御力:5200
素早さ:1800
知 性: 710
魅 力: 330
スキル
【覇王】
【覇王突き】【覇王蹴り】【覇王投げ】【覇王絞め】【乾坤一擲】
【抵抗】【反射】【魔法防御】【物理防御】
【鑑定】【探索】
専用武器:
――――――――――――
「おいおい……凄い硬さと耐久力みたいだな」
つい声が出てしまう。仲間になってくれるのなら心強いが、もし敵に回られたら最悪だ。
俺達が近付いているを気付いているはずなのに、マサトラという男は格闘技の型を極めたまま動かない。余裕なのだろうか。
「ヒュゥゥゥゥーッ! 破っ!」
ズゥゥゥゥーン!
マサトラが拳を突き出すと、周囲の空気が震え木々が振動し鳥が一斉に羽ばたいた。
「コォォォォーッ!」
空手の呼吸法のような息吹を吐き出してから、その男は振り向いた。デカい。デカ過ぎる。身長は優に2メートルは超えているだろう。正直、近寄るのが怖いくらいの迫力だ。
「
その男は『吾輩』と言った、今時使う人もいないような時代がかった話し方だ。某有名小説のような、猫でないのは明らかなのだが。
「あの、俺は、七星神のジェイド。こっちは同じ七星神のミウ。あんたと同じ転生者なんだ」
「おおっ、お前さん達も転生者か。吾輩はマサトラ。
マサトラが本名を名乗ったので、俺も流れで名乗ってしまう。
「あっ、
「あ、あの、
俺の後にミウも名乗った。もうゲームではないのは分かっているのだから、本名を名乗ろうがどうしようが問題ないだろう。
「えっ、私、ジェイドさんの本名初めて聞きました」
「ミウ、今更本名はどうでもいいだろ」
「よくないです。名前は重要ですよ」
俺達のやりとりを見ていたティーガーの顔が緩んだ。
「ふっ、仲が良いようだな。吾輩も、この世界で日本人に会ったのは初めてだ。まだそれほど経ってないはずだが、何やら懐かしさが込み上げてきたぞ」
世間話はこれくらいにして話の本題に入る。俺は現在の状況を軽く説明し、俺達に協力するように説得した。
「ふむ、理解した。吾輩も、この力を誰かのために役立てようと思っていたところだ」
「それじゃあ――」
「だが条件がある」
見た目は怖いのに話の分かる男だと思っていたが、条件とか言い出した。内容次第によっては、面倒くさいことになりそうだ。
「条件とは?」
「吾輩も武道に身を置く者の端くれ。誰かに付くのなら信頼の置けるリーダーの下に付きたい。よって、お前さんがリーダーの器か試させてもらう。少し手合わせ願おうか」
め、面倒なことに……。でも、本当に俺はリーダーの器なのか? 何となく流れでパーティーリーダーになったけど。今まではポンコツパーティーでやってきたけど、これから世界を救う戦いになったりしたら……。
いや、今は迷うな。どうせなるようにしかならん。仲間にするのなら、少しはリーダーらしいところを見せないと。
「分かった。勝負しよう。俺が勝ったらパーティーに入ってくれるんだな」
「勿論だ。吾輩がリーダーの器だと認めれば、今後はお前さんに従おう」
マサトラが構えを取ろうとして、思い出したように話し出す。
「そうだ、言い忘れた。吾輩は魔法に対して絶対防御がある。いわゆる魔法無効化というやつだ。全ての魔法が効かぬのかは分からんが、まあ魔法攻撃は効かんと思ってくれていい。はっはっはっ」
は? はああああぁぁぁぁーっ!?
くっ、分が悪すぎる。魔法が効かないなんて、剣で戦うしかないのか? いや、あのぶ厚い筋肉……剣が効くのかよ? 物理も絶対防御しそうな感じなんだけど……。
「破ァァァァアアッ!」
見るからに強そうなマサトラが構えると、全身からオーラのようなものが放出された。圧倒的な肉体に圧倒的な防御力。紛れもなく強者の佇まいだ。
今まで何となくやってきた俺が、初めてリーダーの資質を見せることになる。リーダーたるものも分からないまま、不利な戦いに突入してしまった。
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