第44話 ファーストキスの相手は?

 まさかの展開に唖然とする俺達。魔王同士の仲が悪いとは聞いていたが、目の前で仲間割れしてしまうとは。


それにしても、魔王にギャルが多いのか、黒ギャルのニーズヘッグと白ギャルのファフニールが喧嘩する姿で緊張感が削がれる。


「うちの倶荷田ぐにたベースに隕石が落ちてコレクションが壊れたのっ! あれ、うちが何日もかけて作った精密模型だったのに! 弁償しなさいよぉ!」


 派手なピンク髪を振り乱して、ファフニールが捲し立てる。大事なコレクションが壊れてご立腹のようだ。


「知らないし! あーし関係無いじゃん!」


 本当にニーズヘッグは関係無いのだが、ヒートアップしたギャルが舌戦を交え止まらない。



「う、ううっ、わ、わわ、わたしのせいで……」


 ララが素に戻っている。俺達の前では少し芝居がかった話し方をしているのに、今は小声でボソボソ喋るコミュ障女だ。自分のせいでファフニールを怒らせてしまい責任を感じているのだろう。


「ララ、あれは事故だ。気にするな」

「ジェイド……」


 俺はララの肩を抱いて下がらせる。


「よし、ここでファフニールも倒してしまおう」

 ライデンはヤル気だ。


「待て待て、せっかくニーズヘッグと話ができるようになったんだ。ここは一旦退こう。これ以上事態を悪化させるのは避けたい」


 血気盛んなライデンを引っ張ってエルフリーデ達の所まで下がる。ドラゴン同士で揉めている隙に逃げるとしよう。


「よし、さっきので、ニーズヘッグのスキル【領域封鎖エリアロック】が解除されている。今なら転移できるはずだ」


 全員を集めたところで転移魔法を使った。当初の目的である、ジャスティスを止めるのは成し遂げたのだ。カッチカチに凍っているが。


 ◆ ◇ ◆




 アースガルズ王国、王都グラズヘイム――――


 目の前に王宮が見える。俺達は、無事に王都まで戻れたようだ。ただ、先遣隊のメンバーの多数が犠牲となり、隊長のジャスティスは特殊な魔法で氷のひつぎという、アースガルズ王国にとっては惨憺さんたんたる結果だが。


「おおおーっ!」

「戻れたぞ!」

「王都だっ! 良かった」


 生きて帰れた兵士たちが、肩を抱き合って泣き崩れている。あの薄暗い森の中を方向も分からず歩き続けたのだから無理もない。


 エルフリーデとフランツは国王に報告へと向かい、俺達は今後の計画を話し合う。



「これはマズいな」


 俺がほやくと、ララの顔が青くなった。


「や、やっぱり……わ、わたしが……」


「いや、ララは悪くないよ。俺達を助けようとしてくれたんだし。それに、そのおかげでニーズヘッグと話ができる感じになったんだから」


「で、でも……」


 いつも『我』と言って独特の喋り方をするララの調子が悪くて不安になる。やはり、ララは変なテンションでいてくれないと。


「ジャスティスと先遣隊の生存者は連れ帰ることができたけど、ラタトスクが暗躍して戦争を起こそうとしているのを止められていない」


「魔王を全部倒してしまうのはどうだ?」


 俺の話にライデンが答えた。相変わらず脳筋っぽい。


「倒すと簡単に言っても、ニーズヘッグだけでも強くて苦戦しそうなのに、魔王が六人もいるとなれば難しいはずだぞ。向こうの戦力は、それだけではないだろうし」


「うむ、確かに……」


「それに、星々の黄昏ラグナロク……伝承にある世界の終焉だけど、人族だけで止められるとは思えない。エルフリーデが言った伝承では、『七星神は世界の人々を束ね、死を恐れぬ勇者エインヘリヤルを引き連れ大災厄カタストロフィを倒し世界を救う』だったはずだ」


「つまり、ジェイドの思う『人々を束ね』には魔族も含まれるということか」


 ライデンも気付いたようだ。この世界には九つの国が存在する。星々の黄昏ラグナロクを止めるには、伝承にあるように人族だけでなく全ての種族を束ねる必要があるのだと。


「俺は、もう一度ニヴルヘイムに行きニーズヘッグと話をして、今回のアースガルズの進軍はラタトスクが原因だと伝える。ついでにジャスティスの氷漬けを解除する方法を聞く」


「さすがジェイドさんです。そこまで考えていたなんて、エッチ目的じゃなかったのですね」


 ミウに褒められるが、やっぱりエッチ目的とか誤解していたようだ。一体ミウは俺のことを何だと思っているのだろうか。


「当たり前だろ。エッチ目的って何だよ。てか……もしかして、俺のファーストキスって蛇王ニーズヘッグになるのか?」


「がははっ、ジェイドよ。貴様、キスもしたことなかったのか。初心うぶな男だな」


 ライデンに笑われてしまった。


「そういうライデンちゃんも処女だろ。『私は、強く誇り高い男に純潔を捧げるんだ』とか乙女な顔して言ってたもんな」


「う、うう、うるさいうるさい! 私のことはどうでもいいんだっ! あと、ちゃんとか言うな!」


 自分からファーストキスにツッコんでおきながら自爆するライデン。脳筋で堅物なのに純情乙女なライデンに、彼氏ができるのを陰ながら祈っておこう。



 ふとミウとララを見るとモジモジと挙動不審になっている。いつもなら、エッチ系の話題には我先にと飛び込んでくるエッチ娘のはずなのだが。


「あ、あの……ジェイドさん」

 ミウが、おずおずと躊躇ためらいながら話し始めた。


「ジェイドさんのファーストキスって、じ、実は……ち、違うと思いますよ」


 突然の意味不明発言にポカンとしてしまう。


「ミウ、それって……?」


「みみみ、ミウ、おまえもかっ!」

 何故かララが凄い勢いで反応した。


「じ、実はだな……ジェイドのファーストキスは……わ、我だったりするのかも……」


 ララの爆弾発言が飛び出した。


「お、おい、ララ……なに言ってるんだ……」


「ら、ララさん! は、ハレンチなのはダメです!」

 ミウも凄い勢いで反応する。


「ハレンチなのはミウではないか。ね、寝込みを襲うとは、やはりハレンチでドスケベ娘……」


「それはこっちのセリフです。ララさんまで寝込みを襲っていたなんて。もぉ、ララさんのエッチ、ヘンタイ、ハレンチ!」


 不毛な争いを繰り広げるミウとララ。その間で途方に暮れる俺。


「結局、俺のファーストキスって…………」


「御主人……ミーニャは知っていたけど黙っていたです。毎晩、あの二人がこっそりキスをしているのを……」


 一緒に添い寝していたミーニャは全て知っていたようだ。


「ジェイド、元気出せ……」

 ライデンも慰めてくれた。



 世界の終焉が訪れようとしている非常事態なのに、緊張感の無い俺達ポンコツパーティー。

 しかし、キスで盛り上がる俺達とは裏腹に、状況は悪化し確実に世界中を巻き込んだ大戦争へと舵を切ろうとしているのだった。ラタトスクの暗躍によって。


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